自社株式の承継を伴う事業承継の方法とは?注意点やメリットデメリットも紹介

山下正太郎

メガバンクに入行し、M&Aを含む各種ファイナンス業務に従事した後、大手M&Aブティックに入社。中小企業の事業承継問題に対するソリューションとしてのM&A取引を推進。その後、上場企業および大手コンサルティング会社の企画部門にて投資責任者を歴任。キャリアを通じて多数のM&A案件の成約に携わった他、PMI担当として買収先とのスムーズな経営承継を実現した経験を多数持つ。

この記事は約13分で読めます。

経営者にとって、自社の存続を目指すうえで避けて通れないのが事業承継です。「次の世代に事業承継をしたいが、どのようにバトンタッチすればよいのかわからない」という方もいるのではないでしょうか。

そこでこの記事では、事業承継の主な手段とそれぞれのメリット、デメリットについてまとめました。この記事を読めば、自社株式の譲渡方法も把握できるでしょう。ぜひ一読して、円滑な事業承継に役立ててください。

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事業承継とは何か

事業承継とは何か

事業承継とは、会社の経営権や資産など事業に関するあらゆるものを次の経営者に引き継ぐことです。資産には不動産や設備など有形のものだけでなく、経営の理念やノウハウ、取引先の情報といった無形のものが含まれます。

これらを駆使した中小企業のかじ取りは、経営者が一手に担う場合も多いでしょう。そのため、誰を後継者に選ぶのかというのは非常に重要な要素です。事業承継は主に、以下のような手法があります。

・親族内承継、社内承継

・M&Aによる事業承継

親族内承継、社内承継とは

経営者の息子や娘など親族が事業を承継する方法は、信用を重視する取引先や社内から同意を得やすいというメリットがあります。しかし、近年は後継者が単に身内であるかどうかということより、適切な経営能力を備えた人物かどうかを重視する風潮も強まっているといえるでしょう。

親族ではなくても、自社の事業や財務状況などに精通する社内の役員や従業員に事業を引き継ぐ方法もあります。ただし、承継を済ませるためには現経営者との間で自社株の売買や個人債務保証の引き継ぎを行わなければならず、手続きなどに時間を要する場合もあるでしょう。

M&Aによる事業承継とは

M&A(合併・買収)による承継という方法もあります。M&Aによる事業承継は社外の第三者によるもので、親族や社内の人材に後継者候補が見つからない場合に有効な手段です。経営者は事業を存続できることに加え、自社の株式の売却による収入も得ることができるでしょう

中小・零細企業などはこれまで、親族内の事業承継が一般的でした。しかし、中小企業庁が公表した2020年版中小企業白書・小規模企業白書によると、2019年に休廃業・解散した企業は4万3,348件に上りました。うち61.4%は直前決算期の当期純利益が黒字だったことから、後継者不足が深刻化している実態が浮き彫りになっています。

こうした状況を背景に、M&Aによる第三者承継は増えていくと思われます。ただし、M&Aを活用する事業承継は、お相手(買い手)を探す必要がある他、そのお相手が事業の存続などをゆだねる先としてふさわしいかも判断しなければなりません。そのため、専門の仲介業者の助けを借りるのがよいでしょう

(参考『2020年版中小企業白書・小規模企業白書-経済産業省・中小企業庁』)

自社株式の承継方法

自社株式の承継方法

M&Aによる事業承継には、自社の株式を第三者に売却する株式譲渡、会社の事業のみを売却する事業譲渡、会社の事業に関する権利を継承会社に譲る会社分割の大きく3種類があります。この記事では、おもに自社株式の売却による承継方法についてご紹介します。

自社株式を売却する事業承継は、主に3つの方法があります。

・相続や遺贈による方法

・贈与による方法

・売却による方法

相続や遺贈による方法

経営者が亡くなった場合、相続や遺贈で自社株式を承継できます。遺言書があれば、その内容に基づいたスムーズな承継ができるでしょう。遺言書がない場合は、遺産分割協議により手続きを進めます。

相続や遺贈による承継リスクは、経営者がいつ亡くなるかという予測は困難なため、承継時期をあらかじめ決めておくのが困難という点です。相続税の評価額は相続が発生した時点で算定するため、その時点の業績が好調なら評価額も高くなります

贈与による方法

自社株式は生前贈与の手法でも承継できます。贈与の場合は相続による承継と異なり、自社にとってもっとも都合のよいタイミングで承継可能です。あらかじめ後継者と話し合い、周到に準備を進めておくことも可能でしょう

生前贈与による方法のデメリットは税負担です。生前贈与は贈与税の対象になりますが、少額の財産に関しても高い税率がかかります多くの財産を継承すると、金銭面の負担が大きくなるので注意が必要です。

売却による方法

経営者が売却した自社株式を、後継者が取得する方法です。この場合、後継者が適正な額で株式を買い取るため、相続時における遺留分の問題が発生しません。株価は経営者と後継者の協議で決まるため、株式が値上がりするといった心配もいりません。

注意する必要があるのは、後継者が株式の購入資金を用意しなければならないという点です。もっとも、株式さえ取得すれば事業承継がほぼ完了するため、その後の経営をめぐる後継者の権利は安定しやすいといえるでしょう。

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自社株式の承継で気をつけること

自社株式の承継で気をつけること

事業承継でもっとも重要なポイントは経営権の譲渡です。自社株式を売却して経営権を譲渡しようとする場合は、入念な対策を取っておきましょう。必要な対策を怠ると経営が不安定になったり、高額な税負担が発生したりします。ここでは株式分散と相続税の観点から、自社株式の売却で事業承継する際の注意点をご紹介します。

株式分散には特に注意が必要

株式分散は、会社が発行した株式を1人の株主がすべて保有しているのではなく、複数の株主で分けあっている状態のことです。株式の譲渡に関する定款を定めていなかったり、複数の相続人が存在していたりといった要因があります。株式分散が起きると、経営者の決定権が弱くなるため注意が必要です。

事業承継時の株式分散を防ぐため、株式譲渡を制限する旨を定款に規定しておきましょう。会社法では、相続などによって譲渡制限株式を取得した者に対し、会社が株式の売渡を請求できます。

相続税負担軽減についての方法

親族に事業承継すると相続税が発生します。相続税の額は株式の評価額に左右されるため、注意が必要です。経営者にとって自社株式の評価額が上がるのは一見ポジティブに思われる事象ですが、事業承継の面から考えると税負担が増すことを意味します。

株式の評価額抑制には、一般的に以下の方法が有効と言われています

・減価償却費を計上する

・生命保険を契約してから損金を計上する

・不動産を購入する

・マンションに投資する

・不良債権や不良在庫を処分する

そのほか、生前贈与を活用する方法もあります。後継者に株式を贈与した後、非課税となる基礎控除額を生かせば税負担を軽くできるでしょう。暦年課税を利用すれば年110万円までの贈与は非課税です。相続時精算課税を利用した場合は2,500万円まで無税で贈与を受けることができます。

事業承継税制とは

事業承継税制の活用も検討するとよいでしょう。中小企業の後継者が経営者から株式などを取得した際の贈与税や相続税の支払いが猶予となる特例です。これにより、事業承継にかかる費用を抑えることが可能です。

事業承継税制には法人版と個人版の2種類があります。法人版は非上場会社の株式などを取得した後継者の贈与税や相続税の納税を猶予する制度です。平成30年度の税制改正では、納税猶予の対象となる非上場株式等の制限(総株式数の最大3分の2まで)の撤廃、納税猶予割合の引き上げ(80%から100%)等を含む特例措置が創設されています。

個人版は、さまざまな要件を満たし、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」に基づく認定を受けた場合、「特定事業用資産」の継承についての相続税・贈与税の納税が猶予されるものです。後継者が事業を続けている間に死亡すれば納税免除となります。

詳細は下記の国税庁資料をご参照ください。

(参考『法人版事業承継税制|国税庁』)

(参考『個人版事業承継税制|国税庁』)

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事業承継で株式譲渡をするメリット

事業承継で株式譲渡をするメリット

後継者不足や経営難を理由に、事業を継続するべきか悩んでいる経営者もいるでしょう。そのような場合、第三者に自社株式を売却して経営権を譲り渡すのがおすすめです。

M&Aの活用には、金銭面や手続きに関するメリットがあります。主に3つのメリットをご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

現金が手に入る

自社株式を譲り渡せば、それに伴い相応の対価を現金で受け取ることもできます。まとまった手元資金が入れば、新たな事業資金に充てることもできるでしょう。素早く現金を手にしたい方は、株式譲渡によるM&Aの活用がおすすめです。

なお、株式などの譲渡所得に対する申告分離課税率は20.315%(所得税および復興特別所得税15.315%・地方税5%)となっています。

手続きが他と比べて楽

株式譲渡はM&Aのスキームのひとつですが、ほかに比べて手続きが楽というメリットもあります。例えば事業譲渡であれば、取引先毎に契約を再締結する必要があるなどの手間がかかります。

これに対し、株式譲渡は契約書を作成・締結し、株式の売買後に株主名簿を書き換えれば手続き完了です。株式譲渡は、速やかに経営権を引き渡したい方におすすめの方法といえるでしょう。

経営スタイルが維持されやすい

株式譲渡の場合、経営権が他社へ移ったとしても経営そのものには変化が少ないため、それまでの経営スタイルが維持されやすいメリットがあります。経営権が移った後、経営陣は以前と変更しないケースもあります。そのため、従業員も安心して働き続けることができるでしょう。
株式譲渡後における経営スタイルの停滞を防ぐ上で、株式を取得する側とは従業員の雇用についてもしっかりと話し合っておく必要があります。株式譲渡の条件に従業員の雇用・待遇の維持を加えておけば、経営権が移った後のトラブルを避けられるでしょう。

事業承継での株式譲渡によるデメリット

事業承継での株式譲渡によるデメリット

株式譲渡による事業承継をする場合はさまざまなメリットがある一方、いくつかのデメリットも存在するので注意が必要です。株式譲渡の前にこれらを把握しておかなければ、大きなリスクを招く可能性もあります。あらかじめデメリットを理解し、しっかりとした対策を取っておきましょう。

デューデリジェンス(DD)によりリスクが見つかる

DDは、M&Aの売り手企業の収益性や資産価値などを調査・分析する業務のことです。買い手企業が財務や税務、労務などの実態を調べ、資産価値も算定します。M&AにはDDが欠かせません。

DDの結果、将来の収益性などにかかわる潜在的なリスクが見つかる場合もあります発覚したリスクの内容によっては、株式譲渡の条件に大幅な変更が生じるかもしれません。DDの調査項目や内容を想定し、リスクを小さくするための対策を講じておく必要があるでしょう。

税金が発生する

株式譲渡で得た利益は課税対象です。法人には法人税が、個人には譲渡所得税と住民税がかかります。復興特別所得税も発生するので注意しましょう。

株式を贈与した際も税金がかかります。基礎控除額を超えた分は、贈与を受ける側が贈与税を支払わなければなりません。

まとめ

まとめ

株式の承継方法には相続や遺贈、贈与、売却があります。中でも売却は、相続時の遺留分請求といった問題が発生しない点、有効な選択肢の一つです。

「現金が手に入る」「経営スタイルが維持されやすい」など、株式譲渡による事業承継のメリットは売り手側にとって大きいといえます。後継者不足や経営難などで廃業をお考えの方は、検討してみてはいかがでしょう。

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