経営不振とは
経営不振とは、売上が減少を続け、ひいては利益も減少を続けている状態のことです。
企業の事業活動は、「売上を上げて利益を生み、その利益を事業に再投資して、さらに売上と利益を拡大していく」というプロセスを回していくのが、望ましいサイクルです。そこでは、企業の成長、拡大の源は、事業に投資をするための利益であり、利益の源は売上です。
そのため、売上が減少すれば、利益が減少し再投資ができないため成長ができず、さらに利益がマイナスになれば、キャッシュをはじめとした資産が減少していき、いずれは営業活動を停止せざるを得ない状況になります。これが経営不振です。経営不振は、最悪の場合は倒産へと至る経営の失敗なのです。
経営不振になったら早期の対策が重要
ただし、売上が減ったからといってすぐに、会社の存続が脅かされるような深刻な経営危機に至るわけではありません。会社が倒産するのは、キャッシュが回らなくなり、従業員の給与が支払えなくなったり、取引先への仕入代金が支払えなくなったりして事業が継続できなくなるときです。
逆にいうと、多少売上の減少や赤字が続いても、キャッシュフローさえ回っていれば、倒産という最悪の事態には至りません。
通常、企業は内部留保(過去の利益の蓄積)としてキャッシュをはじめとする資産を貯めており、それを取り崩すことができます。また、金融機関から運転資金の融資を受けることもできます。さらに、中小企業であれば、社長の個人資産から事業資金を補てんすることもあるでしょう。
そういった形でキャッシュの手当=資金繰りの目処さえつけば、とりあえず、倒産という最悪の事態には陥りません。
とはいえ、利益の減少が続けばいずれはキャッシュが足りなくなり事業継続ができなくなるでしょう。そこで、経営不振状態であることが感じられるようになったら、すぐに対策を取ることが必要なのです。
経営不振に陥ってしまう原因
企業が経営不振に陥いる原因には、どのようなものがあるのでしょうか。
中小企業庁が公表している「倒産の状況」のデータによると、企業の倒産理由の1位から5位までは、以下のようになっています。倒産に至る前には、経営不振の期間が長く続いているはずなので、倒産の理由=経営不振の理由でもあると推測できます。
出所:中小企業庁Webサイト「倒産の状況」掲載のデータを元に作成。
倒産の原因1 販売不振
倒産理由の約4分の3を占めているのが、販売不振です。
商品・サービスの競争力が落ちると、販売数量が減ったり、あるいは値引き販売をしなければならなくなったりして販売単価が下がります。
「売上高=販売数量×販売単価」なので、販売数量か販売単価のどちらかが下がれば、売上高は減ります。しかし、人件費をはじめとした固定費は、簡単には減らせません。そのため、継続的な販売不振となれば、利益は減少し、最終的には赤字に陥るでしょう。
倒産の原因2 長期的な業績悪化(既往のしわよせ)
中小企業庁のデータでは「既往のしわよせ」という項目が倒産理由の2位になっています。なじみのない言葉だと思われますが、これは長期的な業績悪化ということです。1位の販売不振が、たとえばコロナ禍で急激に売上が落ちた飲食店のような、比較的短期のものも含み、また販売面だけに限定しているものであるのに対して、既往のしわよせは、より長期的かつ構造的な業績悪化を指しています。たとえば、そもそも構造的に不況産業になっている業態であるとか、老朽化した設備を使い続け、知らず知らずのうちに歩留まり率が悪化しているといった状態で経営不振に陥ることもここに含まれます。
倒産の原因3 過小資本
一時的に販売不振で赤字になったとしても、過去から蓄積したキャッシュがあればそれを使って持ちこたえることができます。しかし、過去の蓄積(内部留保)が少なく、赤字額がそれを超えてしまえば、債務超過状態になります。そうなると、もはや新規の融資を受けることもできず、倒産寸前という状態です。不測の事態が起こった際、金融機関から融資を受けられるように、純資産を意識して経営を行う必要があります。
倒産の原因4 連鎖倒産
売掛金などの債権がある取引先が倒産してしまったときなど、もし多額の債権が回収不可能になると、自社の資金繰りが悪化します。また、業務の大半を特定の親会社から受注している下請け型の企業の場合、親会社が倒産して発注がなくなると突然売上が激減します。これらの場合に、連鎖倒産の恐れが高まります。
倒産の原因5 放漫経営
販売状態自体は良好でも、それ以上に経営者が資金を無駄遣いしている状態が放漫経営です。この場合も、利益から事業に再投資するという正常な成長のサイクルが回せないため、結果として経営不振に陥るでしょう。
経営不振になってしまったとき、それを改善するには?
経営不振状態を放置しておけば、やがて会社の「死」としての倒産に至ります。人間の病気と同じく早めに発見して「治療」をすることが大切です。
売上減少がある程度の期間続くなど、経営不振の初期的な状態になったときの対策方法には、一定のセオリーがあります。
経営不振改善のセオリー1:費用を削減して出血を止める
経営不振対策として、まず手をつけるべきことは、費用を見直し、無駄な費用をカットして会社を低コスト体質にすることです。これは、人がけがをしたときに、まず出血を止めるようなものです。
原価→販管費の順に、大きなものから見直す
費用見直しのコツは、大きなものから優先的に見直すことです。業種にもよりますが、たとえば、売上原価(製造原価)に影響を与える仕入価格は1パーセント違えば、トータルのコストは大きく変わってきます。一方、電気をマメに消すとか、文具を安いモノに変えるといったことでは、大した効果は生みません。
損益計算書でいえば、販管費に含まれるものよりも、売上原価(製造原価)を優先的に見直して、まずは粗利益率を向上させることがセオリーです。そして、次に販管費を見直し、営業利益をより多く改善させます。
なお、これは「チェックして削減を検討する順序」であり、実際の実行順序は、これと異なっていてもかまいません。
経営不振改善のセオリー2:財務対策により、財務基盤を安定化させる
費用の見直しは、決算書でいえば損益計算書をベースに考えることです。一方、貸借対照表ベースで考えるのが、財務基盤の安定化、強化です。これには、不要資産の売却、債務のリスケジューリング、出資受け入れの検討などが考えられます。
遊休資産の売却、不要在庫の処分
不動産など資産の部に計上されている遊休資産があれば、売却して現金化します。あわせて、不要な在庫も処分します。
同時に、在庫管理を見直すことによって、キャッシュフローを改善すると良いでしょう。
債務のリスケジューリングの実施
多額の融資借入残高があると、その返済と利払いだけでも毎月多額のキャッシュが流出していきます。場合によっては、業績が回復するまでの間、元利払いをストップしてもらう、あるいは利息の返済だけにするなどのリスケジューリングを金融機関に申し出てもいいでしょう。ただし、リスケジューリングを実施すると、その後の追加融資は原則的に受けられなくなります。
出資受け入れの検討
自己資本比率が低く、債務超過目前、あるいはすでに債務超過に陥ってしまっている場合は、取引先や親会社などからの出資受け入れを検討してもよいでしょう。
M&Aによる救済合併
なお、出資受け入れと関連して、より抜本的な方法としてはM&Aにより会社売却という方法もあります。たとえば、親会社による救済合併といった形です。
改善のセオリー3:売上拡大により再成長を図る
費用の削減、財務の見直しは、キャッシュフローが改善し守りを固める施策です。それがある程度奏功したら、次は攻めに回ります。
新しい事業分野への進出、新商品の開発、あるいは、新しいマーケティング施策の実施などにより、継続的な売上の拡大と利益成長を図っていきます。
経営不振による従業員解雇の場合の注意点
経営不振のために整理解雇が避けられない状況にある企業は少なくありません。しかし、整理解雇は経営不振等により人員削減が必要だという理由のみで無条件に認められるわけではありません。そのため、事前に整理解雇の必要性や対象者の選定基準などを慎重に検討する必要があります。特に整理解雇は、労働者の落ち度に基づく解雇ではなく、使用者側の経営上の理由による解雇であるため、解雇の有効性については厳しく制限されるところに特徴があり、慎重に実施する必要があります。
人員削減 の必要性
人員削減の必要性は、整理解雇が有効とされる上で必要不可欠の要素であり、他の要素の要求水準を設定する役割も有しています。人員削減の有無について詳細に検討しますが、 企業側の経営判断を尊重する傾向にあり、明白に人員削減の必要性がない場合を除けば、人員削減の必要性自体は肯定されるのが通常です。ただし、人員削減の必要性が高くないにもかかわらず実施された整理解雇は、それが認められないばかりか、不当解雇として罰則が与えられる可能性もあります。人員削減の必要性の程度についても慎重に検討した上で、整理解雇に踏み切るかどうかを判断する必要があります。
解雇回避の相当性
人員削減を実行する前提として、解雇回避を十分に履行している ことが求められています。人員削減を実現する際には、企業は、配転、出向、一時帰休、希望退職の募集等、解雇以外の他の手段(労働者にとって解雇よりも負担が小さい手段)によって、できる限り解雇回避の努力をすることが求められています。これらの手段を実施することにより整理解雇対象者の数を減少させる点も努力の一環といえるでしょう。整理解雇を回避するためにどのような手段をどのような手順で試みるかについては、企業の規模や事業内容、それに伴って労働者に求められる技術や資格等、多様な要素を考慮する必要があるため、企業の裁量の余地は広いものと考えられており、企業が採択した手段と手順が当該人員削減の具体的状況の中で、
全体として整理解雇回避のための真摯かつ合理的な努力と認められるかという観点から評価される傾向にあります。
解雇人選の合理性
企業は被解雇者の選定について、客観的で合理的な基準を設定し、これを公正に適用して行うことが必要となります。基準をまったく設定しないでなされた整理解雇や、裁判所が客観的かつ合理的なものではないとみなした基準による整理解雇は無効とされています。
通常は、労働者の労働能力、解雇が労働者の生活に与える打撃、労働者間の公平等を考慮しながら、勤務成績、勤続年数、年齢(定年に近いか否か)、職種(幅広い業務を担当できるか、限定された職種であるか等)、転職可能性といった要素が複合的に基準として用いられます。
手続きの相当性
整理解雇が認められるためには、労働組合または労働者に対して事前に説明し、納得を得るよう誠実に協議を行ったことも必要となります。労働協約上、解雇または人員整理について、企業側に組合との協議を義務付ける条項がある場合には、具体的な人選の基準や当否について十分な協議を経ないでなされた解雇が協約違反として無効となることに争いはありませんが、そのような協約がない場合にも、企業側は労働組合または労働者に対して整理解雇の必要性とその時期・規模・方法につき納得を得るために説明を行い、さらにそれらの者と誠意をもって協議すべき信義則上の義務を負うと考えられています。このような手続きの相当性を遵守することは、解雇以外の解決手段を見出す機会になることもありますので、十分な協議を重ねることは整理解雇に臨むにあたって重要でしょう。
経営不振から回復できる企業の条件
経営不振に陥った後、見事に立ち直る企業もあれば、残念ながら倒産まで至ってしまう企業もあります。その違いはどこにあるのでしょうか?
持続的な競争優位性(技術力、ブランド力など)を持っている
経営不振とは、競合他社との競争に負けた状態であるともいえます。しかし、競争に負ける企業がまったく良いところがないかといえば、そうとは限りません。優れた競争優位性、たとえば技術力やブランド力を持ちながら、他の要因に問題があって経営不振になることもあるためです。
もともと競争優位性を持つ企業であれば、経営不振に陥った原因部分を改善すれば回復は早いでしょう。
優秀な人材がいる
企業を動かすのは最終的には人です。経営不振になっても人材を大切にし、優れた人材が残っている企業であれば、立ち直れる可能性は高いでしょう。
キャッシュフローの改善が可能
繰り返しになりますが、企業は売上が低迷しても、キャッシュフローが回っている限り、倒産には至りません。キャッシュを作れる資産的な余力がある企業は経営不振からの回復の見込みはあります。たとえば、バブル期に高値で購入した本社ビルがあれば、多少の「損切り」になったとしてもそのビルを売却して、多額のキャッシュを得ることができれば、経営再建への道筋も描きやすくなるでしょう。
経営不振企業とその建て直しの事例
過去にいったん経営不振に陥りながら、立ち直った有名企業はたくさんあります。ここでは、3社の例を見てみます。
日産自動車
マーケティングの失敗などから、約2兆円の負債をかかえて、1999年には倒産寸前になります。同年に、フランスのルノーと資本提携し、カルロス・ゴーンがCEOに就任。「日産リバイバルプラン」と名付けられた大胆なリストラ策が成功して、2003年には負債を完済しました。
シャープ
2012年に大幅な赤字となり、リストラを進める一方、台湾の鴻海グループとの業務提携に合意します。2016年には、東証1部から2部へ降格したものの、株式の過半数を鴻海グループが取得して、子会社となった後、組織改革やリストラが成功し、2017年には東証1部に復帰しました。
日本マクドナルド
2001年ごろの平成不況、円高時の経営不振、2007年の賞味期限切れ商品販売事件をきっかけにした売上低迷、2015年の過去最大の赤字計上など、何度も経営不振を経験しているが、そのたびにさまざまな対策施策を実施し、不死鳥のごとく復活を遂げています。
まとめ
経営不振にならないことが一番ですが、企業経営には、景気などの外部環境も影響するため、どうしても好調・不調の波はあります。不調だと感じられた際には、本格的な経営不振に陥る前に、早急に手を打つことがなによりも大切です。
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