株式保有特定会社って?
事業をよりスムーズに次世代へ承継することは、会社を存続させるうえで大きな課題です。その際、早期の段階で事業承継へ向けて準備をすることがポイントです。株式保有特定会社の状態で事業承継をおこなってしまうと、のちのち経営上の大きな負担となります。ここでは、株式保有特定会社の特徴や設立背景について解説します。
株式保有特定会社の特徴は?
株式保有特定会社とは「特定会社」の一種です。特定会社の中で、総資産の50%以上が「株式等」に分類されるものを保有する会社のことを指します。より簡単に言い換えると、資産のなかで株式保有割合が半数以上を占める会社ということです。
では、どのような場合に株式保有特定会社となるのでしょうか。他の株式会社をグループに入れ、子会社化している企業、つまりホールディングス化している場合に当てはまるケースが多くなります。この際、持株会社を設立して他社の株式をまとめて保有するケースが多く、このときに株式を取りまとめている会社が「株式保有特定会社」として判定される場合が多くなります。
株式保有特定会社が事業を承継する際、課せられる相続税や贈与税が高くなる可能性があります。その理由は、税の金額が自社株の評価に大きく左右されるためです。
非上場会社の株式には市場価格がないため、自社株の評価を算出し、同族株主等に承継するときは「純資産価額方式」か「類似業種比準方式」の2種類の方法で評価します。
「純資産価額方式」と「類似業種比準方式」を比較すると、「類似業種比準方式」の方が自社株の評価が低くなる傾向にあります。自社株の評価は売上や従業員などによる会社規模ごとに「純資産価額方式」と「類似業種比準方式」を一定の割合で組み合わせて算出しますが、株式保有特定会社は原則として、「純資産価額法」のみを用いることとなるため、相対的に株価が高く評価されます。
自社株の評価が高いほど、課される税も高額になるため、税金面でマイナスとなってしまうということです。
株式保有特定会社に該当するような会社は何のために作られるのか
株式保有特定会社とされていない会社では、自社株の評価は「純資産価額方式」のみと「純資産価額方式」と「類似業種比準方式」の2つを組み合わせた方式のうち、低いものを採用できます。しかし株式保有特定会社には、その選択肢がありません。ではなぜ「株式保有特定会社」に該当しやすい持株会社が作られるのでしょう。
持株会社を設立する理由の一つとしては、節税目的が挙げられます。一見矛盾しているように感じますが、これには理由があります。
節税のためには、自社株の評価を低く抑える必要があります。そこで、多く収益を出している事業を子会社とすることで、株価の上昇を抑える持株会社をが作られます。
もちろん、株式保有特定会社に該当した場合、株式の評価値が割高となる「純資産価額方式」を用いらなければなりません。
しかし場合によっては、「純資産価額方式」と「類似業種比準方式」から算出される自社株の評価の差よりも、子会社化した方が節税になる場合があるので、持株会社が設立されることとなります。
株式保有特定会社と判定する基準は?
では、どのような会社が「株式保有特定会社」と判定されるのでしょう。前述したように、会社が保有する総資産のうち50%以上が株式である場合に「株式保有特定会社」と判断されます。計算式で簡単に表すと、以下のとおりです。
株式「など」と説明したのは、ここでいう株式の中には出資や新株予約権付社債、株券方式のゴルフ会員権なども含まれるためです。逆に、証券投資信託の受益証券や、商法にて定められた「匿名組合契約」などに基づいた出資は「株式」に含まれないので、注意してください。
土地保有特定会社とは?
特定会社には、株式保有特定会社の他に「土地保有特定会社」があります。土地保有特定会社とは、以下2つの条件のうち、いずれかに当てはまる会社です。
● 大(規模)会社において、保有する資産のうち相続税評価による土地の価額の占める割合の70%以上が土地である
● 中(規模)会社において、保有する資産のうち相続税評価による土地の価額の占める割合の90%以上が土地である
しかし、上記2つの条件に当てはまっていたとしても、以下4つのうちのいずれかに該当する会社は、土地保有特定会社からは除外されます。
● 開業から3年未満である
● 休業中である
● 清算中である
● 開業前である
株式保有特定会社の評価方法は?
株式保有特定会社のまま、自社株の評価をおこなう場合は「純資産価額方式」か「配当還元方式」が用いられます。しかし、2つのうちどちらを選んでも良いということではありません。ここではそれぞれの手法がどのようなケースに採用されるのか、また詳しい算出方法を解説していきます。株式保有特定会社のまま事業承継することを考えている方は、参考にしてください。
原則「純資産価額方式」で算定
繰り返しになりますが、株式保有特定会社が自社株の評価を算出しようとする場合、用いられるのは原則「純資産価額方式」です。
そして「純資産価額方式」とは、課税時においての自社の資産と負債から割り出した「相続税評価額」を基に、自社株の評価を算出する方式のことを指します。
よりシンプルに言い換えると、1株当たり純資産評価額を算出するということです。このとき含み益が発生する場合には含み益の37%を法人税等相当額として控除することができます。
しかし、納税者の選択によっては「S1+S2方式」という手法で、自社株の評価を算出することもできます。
S1とは、貸借対照表における「株式等以外の資産」であり、S2とは「株式等の資産」のことです。S1は一般の価値算出方法にて割り出し、S2のみ純資産価額方式で割り出し、これら2つを合わせ、最終的な自社株の評価を算出します。
配当還元方式を用いるケース
株式保有特定会社であっても、同族株主等以外が保有している株式は「配当還元方式」によって、自社株の評価を計ります。
具体的な方法としては、直近2年間の期末で算出した「年間平均配当金額」を基にして、自社株の評価を算出するといった流れです。計算式に表すと以下のようになります。
株式保有特定会社のメリットは?
株式保有特定会社に該当する場合には自社にとってより都合の良い算出方法が選択できない中でで、これに該当しやすいホールディングス会社や持株会社、資産管理会社を設立することにはメリットもあります。これらを設立するメリットとして、代表的なものは「経営の効率化」「税金対策」「大口株主の所得税対策」「レピュテーションリスクの回避」といった4つです。それぞれについて、以下で解説してきます。
経営の効率化が図れる
ホールディングス会社を設立することで、経営の効率化を図ることができます。しかし、それぞれの子会社が独自に株式を保有していると、組織形態が整えにくくなってしまうのがデメリットです。
ホールディングス会社とすることで、各業務における責任の所在が明確になるだけでなく、意思決定がスピーディーにおこなえるといったメリットがあります。意思決定の迅速さは、会社運営を円滑におこなううえでは、不可欠な要素です。
また、会社単位で営業成績を把握できるので、役員が全体の管理をおこないやすくなるといった側面もあるでしょう。
税金・相続の対策になる
持株会社や資産管理会社を設立することで、相続をはじめとした納税のタイミングで、オーナーが支払う税金を抑えることができます。
しかし、これは非上場企業に限ったメリットです。理由としては、非上場企業の配当金が総合課税であることが挙げられます。
非上場企業のオーナーには、所得税と住民税を合わせた税率によって決められた金額の納税義務が生じます。場合によっては、税率が55%にも及ぶ可能性があり、これは大きな負担です。役員報酬+株式による配当によっては、最高税率に達するリスクがさらに高まります。
この事態を回避するため、非上場企業のオーナーは「資産管理会社」を設立します。株式を資産管理会社へ移動させることで、所得税ではなく「法人税」が課されることとなり、法人税の税率のほうが低いため、結果として節税につながるということです。
大口株主の所得税の対策ができる
前項で、持株会社や資産管理会社を設立することが、非上場企業の節税対策になると説明しました。
しかし所得税のみに限れば、上場会社であっても持株会社や資産管理会社を設立することによる節税効果は期待できます。
具体的には、上場株式を3%以上保有している、いわゆる「大口株主」の所得税を軽減することできるということです。節税ができる理由は、非上場会社のケースと同様です。
株式の保有を個人でなく、会社がおこなうことで所得税ではなく法人税に切り替えることができます。そして法人税の方が税率が低いため、節税が可能といった流れです。
3%以上の株式を保有するオーナーは、役員報酬なども高額であるため、この節税対策は欠かせないといっても良いでしょう。
リスクを回避できる
上場会社である場合、オーナーの多くが大株主でしょう。その分、株式を移動させる場合にレピュテーションリスクに考慮しなければなりません。
レピュテーションリスクとは、企業に対するネガティブな評判が広まってしまうリスクのことです。
大量の株式が動くことで、株価への悪影響を及ぼす、株主順位変動などによってレピュテーションリスク生じます。しかし資産管理会社としての株式保有特定会社を設立することで、自社株をその会社名義にすることが可能です。
株式の移動自体を完全に隠すことはできないものの、個人ではなく、会社単位で保有したほうが、レピュテーションリスクをある程度、軽減できるかもしれません。
株式保有特定会社のデメリットは?
デメリットとしては、やはり自社株の評価を算出するときの方法が挙げられるでしょう。基本的に株式保有特定会社が用いる「純資産価額方式」は、「類似業種比準方式」よりも自社株の評価が上がりやすい傾向にあります。
自社株の評価が高いほど高額な税金が課せられるため、税負担は重くなってしまうということです。
株式保有特定会社のままにしておくか、後ほど説明する「株特外し」を実行するのかは、経営の効率化やレピュテーションリスクの回避といったメリットとデメリットを比較したうえで検討してください。
株式保有特定会社でなくす「株特外し」とは
税負担が重くなってしまいがちな「株式保有特定会社」ですが、これを意図的に回避することもできます。それがいわゆる「株特外し」とされる方法です。
株特外しとは、意図的に「株式保有特定会社」と判断されないよう、対策をおこなうことを指します。つまり、文字通り「株式保有特定会社」を外すということです。
株特外しと同様に「土地特外し」もあります。こちらは土地保有特定会社を外すための対策を指します。
株特外しの方法
前述したように、株式保有特定会社の認定は、意図的に回避することができます。また現在すでに株式保有特定会社であった場合でも、保有している資産のうち、株式の割合を減らすことで「株特外し」をおこなえます。
できるだけ次世代への負担を少なく、事業承継をおこないたいという方は、株特外しで税金対策をおこなうと良いでしょう。
株式を売却する
保有している株式が50%であることから、株式保有特定会社と判断されます。逆にいえば50%を下回っている場合には問題ないということです。
直接的な手段としては、一部の株式を売却してしまうといった方法があります。保有している株式が減ることで、資産内の株式の割合も減少刺せる方法です。
しかし、効率的な企業経営を目指すうえでは、管理体制上この方法が不可能であるケースも見られます。自社株の売却は即効性がありながらも、実現が難しい方法と言えるでしょう。そのため多くの会社が以下からの方法を実行し、株特外しをおこなっているようです。
あえて不動産を購入しておく
株式保有特定会社とされている会社が、不動産を購入するのは「株特外し」において有効です。これは純資産のうち、株式以外の割合が増えれば、その分全体から見た株式の割合は減るためです。
より簡単に言い換えると割合の「分母」を大きくしてしまう手法ということです。借り入れがしやすいことから、不動産を購入するという方法で株特外しをおこなう会社もよく見られます。
もちろん資産を増やすためには、購入代金(この場合は不動産を購入するための資金)を用意しなければなりません。そこで借り入れがしやすい不動産に目を付けるということです。資金を集めやすく、株特外しの効果も期待できるため効率的です。
その他
不動産の他にも「投資信託」や「債券」を購入する方法もあります。株特外しを目的とした場合の考え方としては、いずれも不動産の購入と同様です。
要は「株式」に含まれない純資産を増やし、保有株式の割合を引き下げるという手法。
不動産のように借り入れがしやすいというわけではありませんが、手段のひとつとして覚えておくと便利です。
株特外しの注意点
株特外しは一度達成できたからといって、安心はできません。また株式等以外の資産を増やし、株特外しをおこなう際にも、注意しなければならない点があります。注意点は大きく4つ。ここでは「株式等に含まれるもの」「税務のリスク」「購入資金」「再び株式保有特定会社になる可能性」に絞って、株特外しの注意点を解説していきます。
「株式」に含まれるものを把握する
前述したように、株特外しの基本的な考え方は「株式等」に含まれない種類の純資産を増やすということです。そのためには前提として、株式等に含まれるものとそうでないものを、しっかりと把握しておかなければなりません。
国税庁によって発表されている「株式等の範囲」に基づき、株式と判断されるものは何であるのか、よく把握しておきましょう。
上記によると「株券方式のルフ会員権」「証券会社が保有する株式」「外国株式」は、すべて「株式等」に含まれます。つまり、これらを購入して資産を増やしたとしても、株式保有特定会社のままであるということです。
税務のリスクを把握しておく
合理的な理由のない、株特外しをおこなうのはおすすめできません。理由としては、税務当局より「節税目的である」との指摘を受けるリスクがあるためです。
『財務評価基本通達189』においても以下のように、これを裏付ける記載があります。
ただ「合理的な理由がない」とする基準が不明瞭であるため、判断が難しいところではあるでしょう。判断に迷ったときは、自身で決めずに専門家へ相談してみることをおすすめします。
購入資金を確保しておく
保有している株式の金額が大きければ大きいほど、割合を下げるために購入する不動産などの金額も大きくなります。もちろん、そのための資金も用意しなければならないし、そのためのコストにも考慮しなければなりません。
また購入する資産をよく吟味しなければ、その資産によって軽減された税金以上の負担がかかるケースもあります。軽減した税金<購入資産による損失となってしまっては、節税の意味がないので注意してください。
再び「株特」になってしまう可能性もある
もちろん自社株の評価が上がることによって、再び「株式保有特定会社」となってしまう可能性も考慮しなければなりません。
中でも上場会社は株式の評価が激しく変動します。つまり、上場会社のオーナーは、特に注意しなければならないということです。
また逆の可能性として、自社株が下がることも考えられます。不動産などをたくさん購入し、株特外しをおこなったにも関わらず、数年後に自社株の評価が下がるというケースです。この場合、株特外しを目的とした不動産の購入などが、そもそも不要であったということです。
株特外しをおこなう際は、短期的でなく長期的に自社株の価値を見極めてください。
まとめ
株式保有特定会社について、概要や設立の目的、メリット、デメリットを解説しました。また節税のためおこなわれる「株特外し」についてもお分かりいただけたでしょう。
株特外しをおこなうか否かはもちろん、おこなう場合は何が「株式等」に含まれるのかなど、自身ですぐに判断できないことも多くあります。事業承継をよりスムーズにおこなうならば、専門家の意見を仰ぐのがおすすめです。