吸収分割は新設分割と何が違う?その意味や方法を正しく解説!

会計士 牧田彰俊

有限責任監査法人トーマツ入所、各種業務の法定監査、IPO支援に携わる。その後、ファイナンシャルアドバイザリーサービス部門にてM&A アドバイザリー業務・財務デューディリジェンス業務・企業価値評価業務等に従事。組織再編によりデロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社に異動し、主に国内ミドルキャップ案件のM&Aアドバイザリーとして、豊富な成約実績を収める。2018年、これまで以上に柔軟に迅速に各種ニーズに応えるべく株式会社M&A DXを設立し、現在に至る。

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2020年以降、少子高齢化が更に進み労働人口の減少が会社においても大きな課題とされています。それにともなって社会の変化に柔軟に対応するべく、多くの会社にとって「組織再編」が課題です。

そんな中、組織再編の方法として「会社分割」はとても有効な手段の1つといえるでしょう。そして会社分割するための1つの方法である「吸収分割」は社会の変化に対応するための有効な策です。しかし吸収分割の意味や方法を正しく理解しているという方は少ないのではないでしょうか。

そこで当記事では吸収分割の意味や新設分割との違い、吸収分割の種類、メリット、デメリットについて解説します。

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吸収分割とは?

吸収分割とは?

会社の組織と形態を変更する会社法上の法律行為を「組織再編」と言います。組織再編には合併、株式交換、会社分割、株式移転があり、会社分割に含まれる吸収分割も組織再編行為の1つです。吸収分割は会社がその事業に関わる権利義務などのすべて、またはその一部を既存の会社に承継することを指します。

吸収分割と新設分割は何が違う?

吸収分割と新設分割は何が違う?

会社分割の方法には2パターンあり、吸収分割と新設分割があります。どちらも会社がその事業に関して有する権利義務のすべて、または一部を他の法人へ承継するという意味では同じです。しかし「既存の会社」に承継する吸収分割とは異なり、新設分割は「新しく設立した会社」に承継するという点において大きな特徴の違いがあります。

つまり吸収分割と新設分割の違いは、事業を継承する法人にあります。

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吸収分割における2つの手法

吸収分割における2つの手法

吸収分割を細分化してみると、大きくわけて2つの手法に分類されます。それぞれ異なる特徴を持った吸収分割の型であり、どちらの手法を活用するのが適切か、状況を鑑みながら選択しましょう。

それでは2つの吸収分割の方法を解説します。

分社型吸収分割

分社型吸収分割は、分割会社(事業を譲渡する会社)が会社の事業を分割し承継会社(事業を譲受する会社)へ承継させ、その対価として承継会社から株式や金銭等を受け取る手法です。対価が株式の場合は、これをもって分割会社と承継会社が資本関係となります。

分割型吸収分割

分割型吸収分割とは、分割会社が会社の事業を分割し承継会社へ承継させ、その対価である株式や金銭等を分割会社の株主に交付する手法です。対価が株式の場合は、分割会社の株主が承継会社の株主にもなるため、2社間で共通の株主ができることになります。

分社型吸収分割と分割型吸収分割の違いは、事業を承継する対価が、分割会社に支払われるのか株主に割り当てられるか、という点で異なります。

吸収分割を行うメリットとは?

吸収分割を行うメリットとは?

吸収分割にはさまざまなメリットがあります。そこで吸収分割を行う際の主なメリットを4つご紹介します。

現金を調達しなくても実行可能

株式譲渡や事業譲渡などの買収によって吸収する場合、一般的に支払う対価は現金となります。現金の調達のために金融機関から借り入れを行うなど、吸収のために債務を抱えることにもなりかねません。

しかし吸収分割であれば、現金ではなく「株式」をその対価とすることもできるので、事前に現金の用意できなくても事業の承継が可能である点がメリットの1つといえるでしょう。

資産や契約関係を引き継ぐ手続きが不要

吸収分割と似た方法に「事業譲渡」があります。事業譲渡する場合、従業員や取引先、許認可など事業を行うための各種契約をすべて個別に移転しなければなりません。

しかし吸収分割であれば、基本的な契約はそのまま引き継がれる形となるため、事業譲渡と比べるとその手続きが軽減できます。引き継ぐ企業の事業規模が大きいほど各種契約の数は多いため、事業譲渡よりも吸収分割の方がよりメリットを感じられるでしょう。

従業員からの転籍の同意が不要

吸収分割は会社分割契約の定めるところにより、対象となる労働契約は承継する会社に包括的に承継されます。

そのため、基本的に労働者の個別の同意なしに転籍させることができます。ただし、転籍は労働者へ与える影響が大きいため、労働者保護の観点から労働契約承継法でその取扱について定められています。吸収分割を行う際は、この取扱についても調べておくのが良いでしょう。

税負担を低減できる可能性がある

吸収分割の場合、事業譲渡に比べ税負担を低減できる可能性があります。事業譲渡は原則として消費税が課せられますが、吸収分割では消費税は非課税となり、承継会社は一部軽減措置も受けることができる場合があります。

資産や債務、契約などを包括的に承継できる吸収分割は時間やコスト面においても多くのメリットがあります。

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吸収分割を行うデメリットとは?

吸収分割を行うデメリットとは?

事業を包括的に承継することができる吸収分割にはメリットがある反面、デメリットがあることも理解しておかなければなりません。そこで吸収分割を行う際のデメリットについて4つの例を挙げます。
  

簿外債務や不要な資産を引き継ぐリスクがある

吸収分割を行う際の最大のデメリットは、事前に予想していなかった「債権」を引き継いでしまったり、不要な資産も引き継がなくてはならない場合があることです。事業譲渡の場合、基本的には引き継ぐ対象を選択できるため、簿外債務や不要な資産を引き継ぐリスクは抑えられます。

しかし吸収分割の場合は契約関係を包括的に引き継ぐことになるため、契約関係を引き継いだ後に、思いもしなかった債務など予想外のマイナスを引き継いでしまう可能性があります。少ない手続きで包括的に資産や権利を引き継ぐことができる吸収分割だからこそ、思わぬリスクを被ることにつながってしまうことも考えられるため、注意しましょう。

スケールメリットが目減りする

スケールメリットとは、会社の規模が大きくなることでコスト削減や生産性・効率性がアップするというメリットを享受できることです。吸収分割では一部、もしくは全部の事業を切り離すこととなるため、分割会社としては会社全体のスケールは目減りすることになります。例えば、吸収分割を行う以前には複数の事業で使用する仕入れ材料を大量購入にすることでボリュームディスカウントを受けていた会社があるとします。

しかし吸収分割によって会社のスケールが縮小し、購入できる量が減ったことで今まで受けていたようなディスカウントが受けられなくなる場合もあります。加えて、仕入れ先から単価の引き上げや契約条件の見直しを求められるなど、それまでの取引に支障が出る場合もあるかもしれません。

利益に直結する仕入れについては慎重に進めましょう。

従業員が流出する可能性も

吸収分割による経営陣や経営方針の変更などで優秀な人材や古参の従業員などが流出する可能性もあるでしょう。

優秀な従業員の流出は企業の貴重な活力低下につながる可能性があります。これは吸収分割だけでなく、M&Aや事業譲渡においても起こり得るのでしっかり理解しておきたいポイントの1つでしょう。

業種によっては許認可の取得が求められる

吸収分割を行う際に注意する点は「許認可」に関わる事項も含まれます。吸収分割を行う業種によって、承継できるものと事前の許可等がなければ分割が認められないもの、全く認められないものがあります。許認可を引き継げないことが後から発覚したことで吸収分割できなかったというケースもあります。

新規取得となるとそれまでの所要時間がかかるので、分割の際には調査期間を設けておくことでリスクヘッジとなるかもしれません。

まとめ

まとめ

ここまで吸収分割の意味や方法、メリット、デメリットについて解説しました。吸収分割は事業譲渡に比べると「包括的に承継できること」「多額な買収資金がなくても、株の交付で事業承継できること」「手続きや税制面で有利な点が多くあること」など多くのメリットがあります。

吸収分割は、事業買収や株式買収ほどその実施頻度は多くはないかもしれません。しかし正しくメリット・デメリットを理解し、事業再生や経営戦略の一つとして取り入れることで今ある経営課題をクリアできる可能性も十分にあるでしょう。

またこのような大きな事業課題をクリアするには専門家の意見を聞いてみるのも方法の1つです。多くの経験を積んだプロの意見は必ず役立ちます。

自ら学ぶだけでなく、専門家の貴重な意見はアイデアが広がります。もっと「吸収分割」について詳しく知りたいという方は、専門家のアドバイスを聞いてみてはいかがでしょうか。

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