会社分割における債権者保護手続きの概要
会社分割では包括的に事業を継承するため、債権者から個別に同意を得る必要はありません。ただし、会社分割により会社の資産状況に変化が生じた場合、債権者に不利益を与える可能性があることから債権者を保護する目的で行われるのが「債権者保護手続き」です。ここでは、債権者保護手続きの具体的な内容について解説します。
債権者保護手続きが必要になるのはいつ?
債権者保護手続きは、会社分割の当事会社が分割契約を締結し、分割計画の事前開示を行うタイミングで開始します。官報による公告と知れたる債権者への個別催告をするのが一般的ですが、官報と電子公告により個別催告を省略する方法もあります。
債権者保護手続きの特徴
会社分割のような組織再編では、資産の変動や債務者の変更により債権者の利害に影響を及ぼす恐れがあります。債権者の利益を守る目的で、会社法で定められた手続きが債権者保護手続きです。
官報公告や個別催告で組織再編の通知を受けた債権者は、最低1か月間は異議を述べる機会が与えられます。債権者が異議を申し立てた場合、当事会社は弁済もしくは相当の担保を提供するといった対応をしなければなりません。
債権者保護手続きの必要性
新設分割を行うとほかの会社に事業を承継する分割会社は、分割後の資産状況が変わる場合があります。新設分割計画を事前に知らされていない債権者は、分割会社の債権がいずれかの会社に振り分けられることで不利益を被る恐れもあるでしょう。
また、事業を多角的に展開していた会社が分割すると、分割する事業の業績や財産の状況によっては分割会社の債権者のリスクが高まることが考えられます。このような場合に、債権者の利益を守り、異議を述べる機会を与えるのが債権者保護手続きです。
債権者保護手続きを行う期間
会社分割の債権者保護手続きは、債権者に対し最低でも1か月間の異議申し立て期間を設ける必要があります。また、会社分割の効力が発生するのは、債権者保護手続きが完了した後です。したがって、債権者への公告や催告は、会社分割の効力発生日から1か月以上前に行わなければなりません。
予定した登記申請日までに債権者保護手続きが完了していない場合、会社分割の効力発生が遅れます。官報公告や個別催告の準備には時間がかかり、特に官報公告は申し込みから掲載まで時間を要することが多いため、余裕をもった手続きを心がけることが重要です。
債権者保護手続きの対象者
原則として、会社分割で債権者保護手続きの対象となるのは、会社分割の影響により分割前の債務履行請求ができなくなった債権者です。たとえば、分社型分割により承継会社に移転する債権の債権者が該当します。また、分割型分割では、分割会社資産が大きく変動する可能性があることからすべての債権者が債権者保護手続きの対象者となります。
一方、会社分割による影響がなく債務履行を請求できる債権者に関しては、債権者保護手続きにより保護する必要がないとされています。たとえば分社型分割によっても分割会社に残される債権の債権者が該当します。
債権者保護手続きを行わないと?
債権者保護手続きを適法に行わないと、会社分割の手続き自体が認められません。また債権者から会社分割の差止請求や、会社分割の無効を訴えられる可能性が生じます。最終的な判断は裁判所によって下されますが、会社分割自体が、差し止めもしくは無効になるリスクを背負います。
債権者保護手続きが不要になるケース
会社分割において必須とされる債権者保護手続きは、いかなる場合でも必要というわけではありません。ここでは、債権者保護手続きが不要なケースを2つご紹介します。いずれも債権者の債権回収の権利が損なわれていないことがポイントです。
会社分割で債務移転が生じない場合
会社分割で債務の移転がない場合、債権者保護手続きをする必要はありません。債務の移転がなければ債務者も変わらないので、債権者は分割会社に債務を弁済してもらえます。会社分割では分割会社が資産や株式を受け取ることはあっても、会社自体の資産や負債額が変わることはないため、債権者にも影響は与えません。
一方、事業を引き継ぐ承継会社は債権者保護手続きが必要です。承継会社は事業を引き継ぐ代わりに分割会社に資産や株式を譲渡するため、会社の資産状況が変動してすべての債権者に影響を与えます。
重畳的債務引受を設定する場合
会社分割契約を締結した際に「重畳的債務引受」を定めた場合、債権者保護手続きはしなくても構いません。重畳的債務引受とは、債務を引き継いだ承継会社が債務を弁済できなくなった際に、分割会社が承継会社の債権者に対して債務を支払うことです。会社分割の際に取り決めた連帯保証制度ともいえるでしょう。
重畳的債務引受を設定した場合、債権者は引き続き債務請求が可能なため保護を必要としません。また、分割会社が債務者でなくなる「免責的債務引受」という債務の移転方法もあります。いずれを選択したかは、会社分割の契約書や計画書に明記されます。
会社分割で債権者保護手続きを行うための流れ
債権者保護手続きでは債権者に対し会社分割を行う通知を出し、債権者からの異議申し立てを期間内に受け付けます。会社分割について債権者に知らせる方法は、広く告知する方法と個別に通知する方法の2種類があります。ここでは、債権者保護手続きの流れと具体的な内容をご紹介します。
1.官報公告・個別催告
債権者保護手続きでは、会社分割の当事会社が官報公告と個別催告により会社分割を行う旨と異議申し立てを受け付ける旨を告知します。官報公告に記載する内容は以下のとおりです。
・会社分割に関する基本事項
・当事会社の社名と住所
・当事会社の計算書類
・資本金・負債の変動額
・債権者から異議申し立てを受け付ける旨
個別催告は、「知れたる債権者」に対して個別に行う催告です。知れたる債権者とは、会社分割の影響で債権回収が危うくなる債権者を指します。個別催告の方法は特に定められていないため自由に決定でき、催告の内容も官報公告と同一のもので構いません。
2.異議申し立ての受付
会社分割の当事会社は官報公告と個別催告を行った後、債権者からの異議申し立てを受け付けます。異議申し立て期間は、最低1か月設けなければなりません。期間内に異議申し立てがあった場合、債権者に対して弁済を行うか、弁済に相当する担保提供や資産の信託を行う必要があります。
債権者への支払いが組織再編に与える影響が小さい場合や債権者から異議申し立てがなかった場合、債権者から賛同を得られたものとみなし会社分割を進められます。
会社分割で債権者保護手続きを行う際の注意点
会社分割で債権者保護手続きを行う際は、いくつか注意すべきポイントがあります。手続きに不備があったり期限に間に合わなかったりした場合、会社分割の効力が失われる恐れもあるので注意が必要です。ここでは、債権者保護手続きの注意点を4つご紹介します。
債権者保護手続きに不備がないようにする
何らかの不備があるまま債権者保護手続きの期限を迎えると、会社分割の手続き自体が認められません。手続きを最初からやり直すことは当事会社にとって大変な負担になります。不備のないよう注意して手続きを進めましょう。
また、会社合併では登記を行うことが効力の発生要件ですが、債権者保護手続きが完了した日以降でなければ登記はできません。予定していた登記申請日までに債権者保護手続きを完了させる計画の立案が大切です。
個別催告を忘れないようにする
当事会社が個別催告を忘れた場合は、裁判で要求を主張できます。債権者保護手続きの知らせを受けなかった債権者は、債務の支払い請求や組織編成の無効を裁判で求めることが可能です。会社分割後承継会社もしくは新設会社の債権者になる場合は「分割会社」に対して、分割会社の債権者になる場合は「承継会社もしくは新設会社」に対して債務の履行請求ができます。
また、債権者保護手続きを故意に行わないといった悪質性が認められると、会社分割の効力が失われるので注意しましょう。
官報公告の掲載までの日数に気をつける
官報に掲載を依頼してから実際に掲載されるまでには、1週間~2週間ほどかかります。官報公告は最低でも1か月は掲載する必要があるため、予定する登記申請日から日数を逆算してスケジュールを組まなくてはなりません。
なお、個別催告は分割会社が定款で定めることで日刊新聞紙による公告または電子公告に変更できます。個別催告の手間を省くことで、官報公告の準備の負担を軽減できるでしょう。
登記の際には証明書類が必要となる
債権者保護手続きが完了すると会社設立の登記を行いますが、登記の際は「会社分割に異議を述べた債権者がいない旨の上申書」と「官報公告のコピー」を用意しなければなりません。吸収分割と新設分割、どちらの場合も2つの証明書類は必要です。
会社分割の効力発生日から2週間以内に登記申請をしなければ過料が発生するため、できるだけ早く準備するとよいでしょう。
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会社分割における債権者保護手続きは、迅速かつ丁寧に進めることが重要です。また、債権者保護手続きのほかにもさまざまな手続きが必要なため、会社分割にはプロのサポートが不可欠といえるでしょう。
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まとめ
会社分割を成立させるには、債権者保護手続きに関する理解を深めることが重要です。債権者保護手続きの際には債権者に対して官報公告と個別催告をし、最低1か月の期間内に異議申し立てを受け付けましょう。ただし、会社分割に関わる業務は複雑です。高い専門性が求められます。
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