株式交換のメリット
株式交換では子会社とする会社の株主から株式を取得し、親会社の株式を対価として支払います。買収に現金を用意しなくて済むことや、売り手とリスクを分担できること、少数株主から株式を吸い上げられるなど、売り手・買い手それぞれのメリットについて理解しましょう。
株式の売却で利益が得られる
株式交換自体には現金の支払いがありませんが、取得した株式を売却することで利益を得られます。売却数によってはまとまった現金を得られるので、資金調達が必要なときなどに活用できるでしょう。
株価は基本的に常に変動しているので、株価が上がればより多くの現金を得られます。ある程度利益が出るまで待って売却すれば、売却した事業の価値以上の現金を得ることも可能です。売却益以外に配当金も定期的にもらえるように株式を保有し続けるという選択肢もあります。
現金を用意しなくて済む
買い手にとってメリットとなるのが買収のための現金を用意しなくて済む点です。事業拡大などのために経営統合や組織再編を行う場合、通常の買収だと多額の現金を用意する必要があります。
株式交換は株式で支払えばよいので、現金がなくても買収が可能です。金融機関が融資に応じない場合や融資の額を増やしたくない場合などに株式交換の制度を活用でき、ビジネスチャンスを逃しません。
買収に現金を必要としないと、資金繰りも楽になります。買収で使うはずだった現金を買収後の事業展開のために使ってもよいので、事業がより安定するでしょう。
売り手とリスクの分担ができる
株式交換ならお互いにパートナーとして事業を行えるため、売り手と責任やリスクを分担できることもメリットでしょう。この場合でいうリスクとは、社内・社外両方の面についてです。
たとえば、従業員の採用や教育、評価などは、子会社となった売り手が継続して行うこととなるため、買い手側企業が頭を悩ませる必要はなくなります。
場合によっては税金がかからない
株式の譲渡は一般的に課税対象となりますが、一定の要件を満たせば株式交換では税金がかからないこともあります。税金がかからない条件のひとつが、現金の受け渡しがないことです。
また、グループ内の会社で株式交換を行うか、共同事業を目的として株式交換を行うかでも条件が変わります。グループ内の組織再編でもともと株式を50%以上保有していた場合、80%以上の従業員を引き続き雇用することが条件のひとつです。
共同事業の場合、親会社が子会社を継続保有する必要もあります。これらは税制適格要件という非課税の条件の一部で、条件をすべて満たしているかどうかは専門家に確かめるのがおすすめです。
(参考: 財務省『組織再編税制に関する資料』)
親会社の経営に参画できる
買収の対価として株式を取得できるので、親会社の経営に参画できまることは売り手側のメリットでしょう。株式総会の決議や配当金の決議にも参加できるので、役員の選任や解任、報酬などの決定にもかかわることができます。
親会社の生み出す利益がより大きければ、子会社にもより多くの利益を期待できるでしょう。
買収した会社は別法人
株式交換なら買収した会社は合併とことなり子会社という別法人ですので、会社ごとに経営を分けられます。社内ルールなどを統一する必要がないので、子会社としても大きな変化を経験しません。合併であれば売り手の勤務地や待遇、組織文化が大きく変わることもあり、貴重な人材が流出してしまうこともあります。
しかし、子会社化であれば、もともとの労働環境を引き継げるので、社員も残りやすくなるでしょう。売り手企業の社内環境の変化が大きくないこともメリットといえそうです。
少数株主からの株式の吸い上げ
株主交換は株主総会の特別決議で決められるので、3分の2以上の株主が同意すれば実施できます。少数株主が反対しても問題なく、少数株主の保有株式を回収するのにはおすすめの方法です。
株式譲渡の場合は、株主それぞれの合意を得ないと株式を取得できないので、回収がスムーズに進みません。株式交換が役立つのは売り手の少数株主が事業の拡大に反対姿勢を示している場合などです。株式を買い手に集めることで意思決定が円滑に行えるようになります。
株式交換のデメリット
株式交換には多くのメリットがありますが、デメリットがあることも無視できません。デメリットのひとつは手続きが大変なことで、専門家に頼まないと手続きを進めるのが難しいこともあります。株価が下落する危険性があり、現金化が難しいケースがあることもデメリットです。株式交換を行う前に押さえておきたいデメリットを解説します。
手続きが大変
株式交換を成立させるためには、買い手と売り手間の手続きとそれぞれの株主に対する説明・手続きが必要になります。たとえば、事前開示書類や事後開示書類を用意するには法律や会計に関する知識が必要です。書類を用意するタイミングや保管する期間・場所も決まっているので、漏れなく遵守する必要があります。
株主総会は買い手・売り手の両方で行い、特別決議で3分の2以上の同意が必要です。反対株主の買取請求があれば、法律にもとづいて適正価格で買い取りましょう。
ほかにも債権者保護手続きが必要ですし、企業によっては金融商品取引法上の手続き、公正取引委員会への手続きが必要になることもあるので、専門家に相談しながら進めるのがおすすめです。
株価が下落する危険性
買い手から対価として受け取った株式は価格が変動するので、株価が上がって利益になることもあれば、下落して赤字を出すリスクもあります。
通常の株価の動きに加えて、株式交換の発表による株価の変動にも注意が必要です。買い手・売り手が株式交換を行うことで得られるメリットやデメリットを考えて市場が反応するので、株価が変動します。
株式の交換比率も株価に影響を与える要素です。既存株主と投資家が納得できる交換比率にしないと、株式の売却が増えて株価が下落することがあります。株式交換時にはプレミアムが付いて既存株主が得をすることもよくありますが、株価の動きには注意する必要があるでしょう。
現金化に苦労する
取得した株式の種類にもよりますが、現金化が難しい場合もあります。たとえば、非公開会社が発行している株式の場合、証券取引所では売買できません。売却は個人間で行うので、購入したい方を見つけて交渉する必要があります。
非公開会社の株には、売却するには取締役会や株主総会での承認が必要となっている「譲渡制限株式」のケースが多くあります。会社の乗っ取りや株式の散逸を恐れて売却を承認しないケースも考えられるので、現金化には苦労するでしょう。
上場会社でも譲渡制限株式を発行している場合があり、譲渡制限株式は非公開会社と同じく現金化が困難です。上場会社から株式を取得する場合には、株式の種類をチェックしておきましょう。
新たな株主が増える
株式交換の場合、売り手の株主が新たに買い手の株主に加わります。売り手のメリットとして経営に参画できる一方で、買い手から見ると新たな株主により経営面での調整が増えることとなります。
反対株主のような立場の方が買い手の株主になることによりいろいろと経営に口をはさんだりすることもありますので、割り当てる株式の割合などをあらかじめ検討しておく必要があります。
株式交換と株式移転との違いを事例で見る
株式交換について調べていると、株式移転という言葉を目にすることがあります。どちらも現金ではなく株式で支払いを済ませられるので、組織再編を効率的に進められるという点では、株式交換と株式移転は似ている制度です。
しかし、2つの制度には大きく異なる部分もあるので、それぞれの制度の違いを理解しましょう。特徴の違いや具体的な事例をご紹介します。
株式移転とは
株式交換では売り手の株式を既存の会社が取得しますが、株式移転では会社が新たに設立されると同時に売り手の株式を取得します。その結果、売り手の株主は全て新会社の株主に変わることとなります。複数の会社が売り手となることもあり、大きなグループ会社が組織再編のために用いるのが一般的です。
株式移転を行った事例では、株式会社KADOKAWAと株式会社ドワンゴが、2014年に株式会社KADOKAWA・DWANGOを設立しました。
KADOKAWAは出版や映像などのコンテンツが強みで、ドワンゴはニコニコ動画やニコニコ生放送などのプラットフォームを提供しています。新たなプラットフォームを作り上げることを目標として、株式移転を実施しました。
株式移転ではそれぞれの事業を継続しつつ、新たなサービスを提供したり協力して相乗効果を発揮したりできます。
株式交換の事例
2016年にパナソニック株式会社がグループ会社だったパナホーム株式会社を子会社にした事例があります。パナソニックは家電や住宅、B2B事業に特化し、パナホームは住宅事業のなかでも住宅設計や建築技術、施工品質マネジメントなどが強みです。
株式交換を行ったのは、日本国内の新築住宅の建築件数が減ると予想したことが要因とされています。国内外の住宅事業を加速させるために、資産やリソースを一本化するのが最適だという判断です。
パナソニックのブランド力を最大限に発揮することで、顧客獲得や資本・業務提携などの資金調達もできるようになります。インフラの共同利用によるコストカットや効率化も見込めるので、株式交換を行うことが決まりました。
非上場会社の事例
株式交換は上場していない会社でも多く用いられます。ただし、非上場会社の場合は自社グループでの資本関係の整理やホールディングス会社への集約のための用いられることが多く、上場会社のようにM&Aの対価としてや、他社と共同事業を行うためといったケースは少ないと言えます。
しかし、兄弟会社を子会社にしたい、資本関係がいびつになっている部分を解消したい、一部が個人所有となっている子会社を100%子会社にしたい、といったケースは非上場会社においても株式交換を検討するにふさわしいと言えます。
まとめ
株式交換は現金を用意しなくても会社を買収して子会社にできる手法です。それぞれの会社の法人を別にできるので、売り手のスタイルを変えずに経営を続けられるメリットもあります。手続きには法律や会計の知識が必要なので、専門家に相談しながら進めるのがよいでしょう。
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