遺産分割協議で、遺産はどのようにわければよいのか
遺産分割協議をする際には、法律で定められた相続分(「法定相続分」といいます)が目安になります。法定相続分は、それぞれ次のとおりです。
●図表1 パターン別の法定相続分
相続人の状況 | 配偶者の 法定相続分 | 配偶者以外の相続人の 法定相続分 | |||
配偶者 | 第一順位の相続人 (子など) | 第二順位の相続人 (父母など) | 第三順位の相続人 (兄弟姉妹など) | ||
あり | 不在 | 不在 | 不在 | 財産のすべて | ― |
あり | あり | ― | ― | 2分の1 | 2分の1 |
あり | 不在 | あり | ― | 3分の2 | 3分の1 |
あり | 不在 | 不在 | あり | 4分の3 | 4分の1 |
不在 | あり | ― | ― | ― | 財産のすべて |
不在 | 不在 | あり | ― | ― | 財産のすべて |
不在 | 不在 | 不在 | あり | ― | 財産のすべて |
遺産分割協議にあたり、この法定相続分が一応の目安になります。
しかし、必ずしも法定相続分で分けなければならないわけではありません。相続人全員が同意するのであれば、たとえば配偶者が全財産を相続したり、長男は少額の遺産しか相続せず配偶者と長女がほとんどの遺産を相続したりといった、偏った分け方をしてもよいのです。
ただし、仮に争いになった場合には、法定相続分を基準として分けることになります。そのため、それぞれが主張できる取り分の上限が法定相続分であると考えておくとよいでしょう。
遺産分割協議における財産評価と、相続税申告のための財産評価
遺産分割をするためには、その前に、その財産が「いくら」なのかを確定させなければなりません。現金や預金ならそれは簡単ですが、たとえば、不動産の場合は、なんらかの基準で評価額を見積もるしかありません。
ここで誤解しやすいポイントは、遺産分割協議における評価額と、相続税申告のための評価額が必ずしも同じではないという点です。
相続税申告のための評価額算定方法は、国税庁の「財産評価基本通達」などにより明確に定められています。しかし、土地の評価方法にもいくつもの方法があり、国税庁が定めているのは、あくまで「相続税を課税するための基準」であり、評価方法の中の1つに過ぎないのです。
そこで、相続人全員の納得が得られるのなら、別の評価基準で評価してもよいのです。
たとえば、土地について、「相続税申告のための財産評価では、その土地は1億円だが、別の評価を使えば1億2000万円になるので、私たちは1億2000万円と評価して、それを基準に他の財産とのバランスを見て遺産分割しましょう」と決めても、まったく問題ないということです。
遺産分割の各種の方法
遺産を分けるもっともシンプルな方法は「土地建物は配偶者、A銀行の普通預金は長男」というように、それぞれの財産をそのまま分割する方法です。しかし、財産の内容などによっては、このように分けることが難しい場合もあるでしょう。
遺産の分け方にはこのほかにも様々なバリエーションがあるため、それぞれ解説します。
現物分割
現物分割は、もっともシンプルな遺産分割方法です。
上で挙げた例のように、たとえば「自宅の土地建物は配偶者が相続し、A銀行の普通預金と定期預金は長男が相続し、B証券会社の有価証券は長女が相続する」というように、それぞれの財産について取得者を決めていきます。
代償分割
代償分割とは、一部の相続人が評価額の大きな遺産を受け取る代わりに、他の相続人にいくらかの金銭を支払うことで調整をはかる方法です。今後も配偶者が住む予定の自宅不動産や自社株など、状況的に売却が困難である財産が遺産の大半を占める場合などに活用されます。
たとえば、唯一の遺産である自宅不動産を配偶者が相続する代わりに、配偶者から長男と長女にそれぞれ500万円を支払うような場合が、これに当たります。
換価分割
換価分割とは、遺産を売ってお金に変え、そのお金を分ける方法です。
たとえば、被相続人の死亡により空き家となった自宅不動産を売却してお金に変え、そのお金を法定相続分で分ける場合などがこれに該当します。
相続人同士の関係性がよくない場合には、どの程度の対価であれば売却に承諾するかといったことや、どの程度急いで売却するかなど、売却の条件面で争いとなる可能性もあります。
共有分割
共有分割とは、相続人同士で財産を共有する分割方法です。
たとえば、自宅不動産の持ち分を長男と二男がそれぞれ2分の1の割合で取得する場合がこれに該当します。
他の方法で分割協議がまとまらない場合や、争いを避ける一時しのぎとして選択されることがありますが、できる限り避けたほうがよいでしょう。
なぜなら、その後不動産を活用しようにも、共有者間で意見が異なればトラブルになる可能性があるためです。
また、共有者である長男と二男が亡くなればゆくゆくは長男の子と二男の子とが共有することになるなど関係者が広がっていき、より権利関係が複雑になることも懸念されます。
共有分割は、問題の先送りでしかないことを知っておきましょう。
被相続人に特別に貢献した人に認められる「寄与分」とは
寄与分とは、被相続人の財産を増加させることや減らさなかったことに貢献した相続人に、法定相続分に上乗せして認められる相続での取り分です。
たとえば、被相続人の事業を無償で手伝ったことにより遺産が増加した場合や、通常の範囲を超えて熱心に無償で介護をしたことによりヘルパーなどにかかるはずであった費用が削減できた場合などに、認められる可能性があります。
しかし、寄与分が認められるハードルは高く、通常程度の介護では認められません。なぜなら、子が親に対して通常程度の介護をすることは扶養義務の範囲内であり、特別なことではないと考えられるためです。
なお、従来は寄与分の請求ができるのは相続人のみに限定されていましたが、2018年の民法改正により、相続人ではない親族が特別寄与料を請求できる特別の寄与制度が新たに創設されました。たとえば、長男の妻や子が存命の場合の孫などは相続人ではありませんが、この制度をつかうことで特別寄与料が受け取れる可能性があります。
ただし、特別寄与料は要件を満たしたからといって自動的に付与されるわけではなく、相続人に対して請求をする必要がある点に注意が必要です。
寄与分が認められるハードルは決して低くありません。そのため、遺産をのこす側の方としては寄与分制度に頼るのではなく、特にお世話になった人には財産を多く残す内容の遺言書を作成するなど対策をしておいたほうがよいでしょう。
被相続人から特別な便宜をはかってもらった人の「特別受益」とは
特別受益とは、相続人が被相続人から受けた特別な便宜を指します。
相続人の一部に特別受益がある場合には、その特別受益を加味したうえで相続分が調整されます。
たとえば、法定相続人が配偶者と長男、二男であり、遺産総額が5,000万円である場合に、長男が生前に特別受益に該当する1,000万円の生前贈与を受けていた場合の相続分は、次のとおりです。
・配偶者:(5,000万円+1,000万円)×2分の1=3,000万円
・長男:(5,000万円+1,000万円)×4分の1-1,000万円(特別受益)=500万円
・二男:(5,000万円+1,000万円)×4分の1=1,500万円
この特別受益の対象となるものには、次のものが挙げられます。
・遺贈:遺言で受け取った財産のことです
・生計の資本などとしての贈与:期間の制限はありません
特別受益の対象となる贈与は生計の資本などのための贈与に限定されています。そのため、たとえばギャンブルで費消するための贈与などは該当しないでしょう。
また、被相続人が遺言などで特別受益として持ち戻しの対象にしない旨の意思表示をした場合には、持ち戻しの対象としないことも可能です。
さらに、婚姻期間が20年以上である配偶者に対する居住用の建物や敷地の遺贈や贈与であれば、あえて持ち戻し免除の意思表示をしなくても、この意思表示をしたものと推定されます。
遺産分割協議がまとまらなければどうなるのか
遺産分割協議は、相続人全員の話し合いでまとめることが原則です。ただし、相続人だけでは話し合いがまとまらない場合もあるでしょう。この場合には、調停や審判で解決をはかることとなります。
なお、特に事情がない場合には、無理に相続税の申告期限である10か月以内にまとめようと急がないほうが得策である場合もあります。急いでいることが相手方に伝わってしまえば、不利な条件を飲まされてしまう可能性もあるためです。
どのように交渉すれば有利となり得るのかは状況により異なりますので、遺産分割にくわしい弁護士へ相談してください。
調停と審判の概要は、それぞれ次のとおりです。
調停
調停とは、家庭裁判所でおこなう話し合いのことです。
調停には裁判所の調停委員が立ち会いますが、調停委員は参考意見を述べたり話し合いの調整をしてくれますが、最終的な決断をくだすわけではありません。
調停においても話し合いがまとまらない場合には、審判に移行します。
審判
審判とは、審判官が遺産の内容やその他一切の事情を考慮して、遺産分割の決断をくだす手続きです。審判となれば解決までかなりの時間を要する場合も少なくありません。途中で妥協点が見つかれば、和解をすることも可能です。
まとめ
遺産分割についての基本ルールを知らなければ、遺産分割協議で不利な条件を飲まされてしまうかもしれません。また、法律で認められる以上の無理な主張をしてしまえば、トラブルに発展する可能性もあるでしょう。
遺産分割でトラブルになってしまえば解決まで長い期間を要する可能性があるほか、家族の間に深い溝ができてしまう可能性もあります。
遺産分割協議をおこなう際には、無用なトラブルを避けるため、あらかじめ基本のルールを確認しておくとよいでしょう。