相続時の有価証券の相続税計算方法 – 上場株の評価方法 その他金融資産の評価方法も解説!

会計士 山田武弥

有限責任監査法人トーマツ入所。金融業及び卸売業を中心とした各種業務の法定監査業務に携わる。 その後、大手税理士法人及びコンサルティング会社にて事業承継・事業再生・法人顧問業務に従事。 組織再編税制を活用した事業承継スキームの構築や株価対策、事業再生計画の立案やその後のモニタリング及び金融機関対応等に豊富な経験を有する。 山田武弥公認会計士・税理士事務所として独立後、株式会社M&A DXに参画し、現在に至る。

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亡くなった方が有価証券を保有していた場合、相続財産として、相続税評価の対象となります。有価証券にはさまざまな種類がありますが、一般の人が保有していることが多いのは、株式(株式市場で売買できる上場株式)や個人向け国債などでしょう。
この記事では、上場株式、国債などの有価証券を中心に、その他の換金性のある代表的な金融資産について、相続税法上の評価方法を解説します。
有価証券には評価方法が複数ある場合がありますので、損な方法を選んでしまわないように注意しましょう。

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【相続時の有価証券】相続財産として課税対象となる有価証券にはどのようなものがあるか

相続財産として課税される金融資産は、貯金が中心ですが、貯金以外に、有価証券を保有している人も多いでしょう。代表的なものには、次のようなものがあります。

・上場株式(株式市場で売買できる株式)
・公社債(国債、地方債、社債など)
・投資信託
・外国債券
・非上場株式(非上場企業の創業社長が保有する自社株式など)

また、厳密にいえば有価証券ではないものの、暗号資産(仮想通貨)や商品先物取引、FX(外国為替証拠金取引)などの保有残高があれば、それらも当然、相続財産として課税対象となります。

【相続時の有価証券】上場株式の評価計算方法

上場株式の株価は、次の4つの価格のうち、もっとも低い価格で評価します。

①被相続人の死亡の日の最終価格

(評価したい日が日曜など市場の休場日にあたる場合には、当日の最終価格はありません。その場合、評価をしたい日に最も近い日(土曜日に死亡した場合は金曜日)を死亡日の最終価格とします。また、3連休の真ん中の日に死亡した場合は、最も近い日が2日あることになるので、その平均額を用います。)

②被相続人が死亡した月の毎日の最終価格の平均額
③被相続人が死亡した月の前月の毎日の最終価格の平均額
④被相続人が死亡した月の前々月の毎日の最終価格の平均額

たとえば、上場しているX社の株式を500株持っていた被相続人が令和3年8月17日に亡くなった場合には、X株は「8月17日の最終価格」「8月の毎日の最終価格の平均額」「7月の毎日の最終価格の平均額」「6月の毎日の最終価格の平均額」のうち最も低い価格で評価します。

●図表1 令和3年8月17日に死亡した人の上場株式の評価例 

令和3年8月17日(月)の最終価格850円
令和3年8月の毎日の最終価格の平均額844円
令和3年7月の毎日の最終価格の平均額831円
令和3年6月の毎日の最終価格の平均額840円

上記例なら、「令和3年7月の毎日の最終価格の平均額」である831円が基準の株価となります。これに、被相続人が亡くなった時点で保有していた株数を乗じて、X株全体を評価します。

831円×500株=415,500円

上場株式の最近の最終価格(終値)は、Yahoo!ファイナンスなどのWebサイトで確認することができます。
たとえばYahoo!ファイナンスなら、個別銘柄の「詳細情報」→「時系列」で、過去の株価を一覧表示できます。死亡日や、死亡した月の毎日の最終価格の平均額を求めたい場合は、このデータを用いて算出するといいでしょう。
また、上記③(前月平均)や④(前々月平均)のデータを調べたい場合は、日本取引所のWebサイトの、「マーケット情報」→「統計情報(株式関連)」に掲載されている「月間相場表」で確認するのが簡単です。

なお、証券会社に残高証明書を請求する際に、証券会社へ依頼すれば評価対象月のデータを付けて残高証明書を出してくれることも多いため、問い合わせてみるのもよいでしょう。

特別な修正が必要な場合もある

課税時期に最終価格がない場合(株式市場で値段がつかなかった場合)や、その株式に配当金の権利落ちなどがある場合には、一定の修正をすることになっています。これらの場合の計算は複雑なので、実際の申告の際には税理士に相談するのがベターでしょう。

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【相続時の有価証券】公社債の評価方法

「公社債」とは、公共団体、民間企業などが一般投資家から資金を調達するために発行する有価証券の総称です。「債券」ともいいます。

公社債の種類

公社債は、種類が多く、さまざまな観点から分類できます。

(1)発行主体による分類

公共債国が発行する「国債」、地方自治体が発行する「地方債」、など
民間債民間企業が発行する「社債」など
外国債発行体、発行通貨、発行地のいずれかが海外のもの

(2)利息の支払い方などの形態による分類

①利付債償還日(出資した元本返済される日)までの間、定期的に利息が支払われる債券。利払いは、通常は年2回。たとえば、額面額5万円の10年利付き国債なら、投資家は5万円で購入し、10年間は毎年2回利息を受け取り、10年後に5万円が償還(払戻)される、ということです。
②割引債利息の支払いがなく、その代わり、額面金額(償還日に償還される金額)よりも、低い価格で発行される債券。たとえば、額面額5万円、発行額4万円の10年割引国債なら、投資家は4万円で購入し、途中の利息はなく、10年後に5万円が償還(払戻)される、ということです。
③仕組債オプションなどの、金融派生商品(デリバティブ)の仕組みが組み込まれた債券です。

(3)上場・非上場などによる分類

(a)金融商品取引所に上場している銘柄上場株式などと同じように、取引所で売買できる銘柄です。その時々の価格は取引所が公表します。数は多くありません。
(b)日本証券業協会により売買参考統計値が公表される利付公社債(非上場の銘柄)いわゆる店頭取引(証券会社などと投資家との相対取引)で売買される銘柄です。その時々の価格は、日本証券業協会が売買参考統計値として公表します。一般の投資家が購入する公社債の主流です。
(c)その他の利付公社債上場されておらず、かつ、日本証券業協会から売買参考統計値も公表されない銘柄です。

公社債の種類ごとの相続税評価方法

公社債は種類によって評価方法が異なります。ただし、発行主体(国か、地方自治体か、など)による評価の差は基本的にありません(外国通貨が関係する場合以外)。
つまり、「利付債」か「割引債」か、また、「上場」か「非上場」か「その他」か、の区分の組み合わせで評価方法が定められているということになります。

利付債

①(a):金融商品取引所に上場している利付公社債の評価方法

(課税時期(※1)の最終価額(※2)または売買参考統計値(※3)のいずれか低い金額+源泉所得税控除後の既経過利息(※4)の額)×公社債の券面額/100円

(※1)被相続人が亡くなった日(相続財産を取得した日)
(※2)証券取引所の公表する価格
(※3)日本証券業協会が公表する価格
(※4)最終の利払い日から課税時期までに発生した利息

①(b):非上場の利付公社債の評価方法

(課税時期の売買参考統計値(平均値)+源泉所得税控除後の既経過利息の額)×公社債の券面額/100円

①(c):その他の利付公社債の評価方法

(発行価額+源泉所得税控除後の既経過利息)×公社債の券面額/100円

割引債

②(a):金融商品取引所に上場している割引公社債の評価方法
金融商品取引所の公表する課税時期の最終価格×公社債の券面額/100円

②(b):非上場の割引公社債の評価方法

日本証券業協会の公表する課税時期の平均額×公社債の券面額/100円

②(c):その他の割引公社債の評価方法

{発行価格+(券面額-発行価格)}×{発行日から課税時期までの日数/発行日から償還日までの日数}×公社債の券面額/100円

外国債券(米国債、米国社債など)の評価計算方法

外国債券の相続税評価額の計算方法は、原則として上で解説をした国内債券と同様です。
ただし、外貨建ての債券の場合にはいったん外貨建てのまま評価を行い、最終的に日本円に換算をして評価します。
日本円に換算する際のレートは、相続開始日時点の対顧客直物電信買相場(TTB)レートです。

個人向け国債の評価方法

個人向け国債は、その名のとおり国債の一種ですが、通常の利付債とはやや異なり、課税時期(被相続人の死亡時点)において中途換金した場合に取扱機関から支払いを受けることができる価額により評価します。
個人向け国債を中途換金する場合は、前回の利子受け取りから、換金時点までの利子を、経過利子として受け取れます。また、原則として中途換金調整額が、差し引かれます。それらを加減した金額で評価します。

個人向け国債の評価額=額面金額+経過利子相当額-中途換金調整額

なお、中途換金調整額などは購入をした金融機関等で確認することができるほか、財務省のWebサイトで確認をすることも可能です。

【相続時の有価証券】投資信託の評価計算方法

投資信託には株式などと同様に取引所に上場されている「上場投資信託」と、非上場の投資信託があります。
さらに、非上場の投資信託は、MRFやMMFなどのような「日々決算型投資信託」と、それ以外の投資信託とにわかれます。

上場投資信託(ETF)

上場投資信託(ETF)は、上場株式と同様の方法で評価します。

日々決算型の証券投資信託

上場していない投資信託は、課税時期において解約請求等をすることにより証券会社などから支払いを受けることができる価額で評価をします。

中期国債ファンドやMMFなど日々決算型の証券投資信託の評価方法は、次のとおりです。

評価額=1口あたりの基準価額×口数+再投資されていない未収分配金(A)-Aにつき源泉徴収されるべき所得税の額に相当する金額-信託財産留保額及び解約手数料

まず、「1口当たりの基準価額×口数」が投資信託の本体部分の評価額です。
これに課税時期においてまだ本体部分に組み込まれていない未収分配金を加算しますが、未収分配金を受け取るためには所得税が引かれるため、その所得税を引いた残りの額のみが加算されます。
最後に、投資信託を解約するには手数料がかかったり、信託財産留保額として一定の額が差し引かれたりするため、これが控除されます。

その他の証券投資信託

日々決算型ではない証券投資信託は、次のように評価をします。

評価額=課税時期の1口あたりの基準価額×口数-課税時期に解約請求等をした場合に源泉徴収されるべき所得税の額に相当する金額-信託財産留保額及び解約手数料

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【相続時の有価証券】暗号資産、FX、先物取引などの評価方法

最近は、暗号資産(仮想通貨)やFX(外国為替証拠金取引)などで資産運用をしている人もたくさんいます。それらの評価方法は、以下の通りです。

暗号資産(仮想通貨)

活発な市場が存在する暗号資産(ビットコインやリップルなど)であれば、仮想通貨交換業者が公表する課税時期における取引価格によって評価します。
一方で、活発な市場が存在しない仮想通貨の場合には、その仮想通貨の内容や性質、取引実態等を勘案したうえでの個別評価が必要です。

FX(外国為替証拠金取引)

FXのポジション(未確定状態の建玉)がある場合、被相続人が死亡した日に存在するポジション(建玉)の最終価格により、FX会社への預け金、証拠金、またスワップポイント(利息のようなもの)と相殺して評価します。預け金は増えていることもあれば、減っていることもあります。
なお、被相続人のFX口座にあったポジションを決済しないまま、相続人のFX口座に移管することはできないため、必ず決済されます。

株式の相続での節税方法

評価額を下げる

上場株式の場合は相続発生月の月から前々月の最終価格の平均額を選ぶことができ、一番安い価格を選択することができます。また、市場価格のない非上場自社株式の場合も株価を調整することができ相続税評価額を調整することが可能になります。非上場株式の評価方法は3種類あります。類似業種比準方式もしくは純資産価額方式、または2つの併用があります。どの方式が適用されるかは、会社の規模感によって決まります。大規模会社では類似業種比準方式を使用し、業績と評価額の連動性が高いのが特徴です。特別配当を実施すること等で評価額の引き下げは可能です。小規模会社では純資産価額方式を使用し、保有純資産と評価額の連動性が高くなるのが特徴です。含み損のある資産を売却し赤字を計上したり、役員へ退職金を支給すること等で評価額を下げることは可能になります。中規模会社はこの両方式を併用しているので、この2方式についての対策を併用します。

生前贈与

市場価格の決まっている株式については、相続発生後に節税できることはほとんどありません。
しかし、株式を生前贈与することによって相続税の対象となる株式自体を減らすことは可能です。
ただし、生前贈与には一部例外を除いて、原則として贈与税がかかります。1月1日~12月31日までの1年間に贈与を受けた場合、受け取り財産の合計額が110万円を超えていると、110万円を超えた分に対して贈与税が課税されます。逆を言えば110万円までは非課税で相続することが可能になります。すなわち、贈与税が課税されずに相続税の課税対象となる財産を毎年少しづつ減らしていくことが可能となります。

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【相続時の有価証券】昔の紙の「株券」が出てきたときはどうする?

上場企業の株式は、以前は紙の「株券」での発行が原則でしたが、2009年1月からはすべて電子化され、現在では紙の株券は廃止になっています。
したがって、紙の株券が出てきてもそれ自体には、相続財産としての価値はありません。
ただし、株券があるということは、株主として登録されている可能性があります。もし、リストアップされた相続財産のなかに、その株券を発行している会社の株式が存在していなかったら、その企業の株主名簿管理人となっている信託銀行へ問い合わせてみるとよいでしょう。問い合わせても株主名簿に掲載がなければ、なんらかの事情で株券だけ残していたが、株式自体は売ってしまっているということだと思われます。

【相続時の有価証券】まとめ

まとめ

有価証券のおおよその評価額は、証券会社などから送付される取引履歴報告書などで確認することができます。大まかに相続税の試算をしたい場合などには、これを参考にされるとよいでしょう。
ただし、実際に相続税の申告をするにあたっての有価証券の評価方法はその有価証券の種類によって異なるうえ、複雑です。
これを自分で評価することは容易ではありませんので、実際の申告の際には税理士へ依頼することをおすすめします。

当社では、大手会計系ファーム出身の公認会計士、税理士、弁護士による相続税対策のご相談も受け付けております。企業オーナー様の事業承継対策から個人の相続財産対策まで、誰に相談すればいいのかわからないという方は、些細なことでもお気軽にお問い合わせください。専門家から、わかりやすくご説明させていただきます。

関連記事はこちら「【中小企業オーナー必見】相続時の有価証券の相続税計算方法 – 未上場株の評価方法」

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