家業とは
家業とは、家の生計を立てるための職業、あるいは、その家が代々従事してきた職業の意味で使われます。
家の生計を立てるための職業とは、「生業(なりわい)」とも呼ばれ、自営業を指すことも多いが、法人化している場合も家業と言えるでしょう。この場合は、「家業の精肉店を継ぐことになった」「家業の喫茶店を手伝っている」のように使われます。
その家が代々従事してきた職業とは、「世襲制で子孫が代々承継してきた技術や才能を活かした職業」を継ぐという意味で使われます。
家業を継ぐことに迷った時の考え方
いざ真剣に家業を継ぐことを考える際には、どんな人でもさまざまな迷いが胸中に湧き起こるのは当然でしょう。そのように迷った場合に、参考になるかもしれない考え方をここではいくつか紹介しましょう。
現在の仕事を退職したくない
現在勤めている企業や従事している仕事を継続していきたい場合というのは、おおむねその仕事にやりがいや愛着、意欲を持って取り組めているからそう感じるのでしょう。家業にはその時点で、そこまでの魅力を感じられないことも多々あるのではないでしょうか。
そういう場合に無理して継ぐのは、あまり得策ではないこともあります。規模はともかく経営者という立場は、企業の社員とは異なる大きなリスクを抱え、求められる知識もスキルも変わります。
関心の持てない領域の仕事に対して大きい責任を持って取り組むのは、苦痛がともなうものです。社外の信頼できる方などの、第三者承継を検討するという選択肢も視野に入れてよいかもしれません。
結婚して家族がいる
後継者が独身であればまだ身軽なので、確信がなくてもチャレンジする気持ちで継ぐこともできます。しかし、すでに結婚していて家族を養っている場合は、家族の生活のことも考えなければならず安易な決断は許されません。
また、今後家族も経営の一員になる場合もあるため、家族とよく相談することは欠かせません。確実に生計を立てていける見込みがあるのか、根拠となるものや強い熱意がなければ判断が難しいでしょう。
女性でやっていけるか心配
後継者が女性の場合、女性でやっていけるのだろうかと迷いことがあるでしょう。しかし近年では、息子ではなく娘が家業を継ぐということが、女性の社会進出やダイバーシティの認識の広がりとともに増えているようです。
欧米では珍しくないことであり、決してそれ自体が不可能な理由にはならない時代になってきています。むしろ、結婚や出産、そして子育てと、人生でいくつものライフイベントをこなす女性は力強いといえるでしょう。
女性が経営者の道を選ぶのも、多様な働き方を認める時代の流れを表現する流れではないでしょうか。
家業を継ぐとはどんな意味があるか考えよう
家業を継ぐということは、ひとそれぞれに意味深いものです。親が築き上げた事業を守りたい場合もあることでしょう。サラリーマンにキリをつけて、経営者として一歩踏み出すチャレンジと捉えられる場合もありえます。あるいは幼い頃からそういう将来を想定してきた場合もあるでしょう。
いずれの場合も、継ぐと決めるのは最終的に自分自身であり、自分が決めたことによって、大変な苦労があっても耐えて頑張っていけるともいえます。
逆に言えば、自分で決断したのではない場合は、家業の将来は盤石とはいえなくなります。継ぐというのは、あくまでも自分で深く決断できる場合にこそ実行する、自分の人生の大きい分岐点だと考えるのが賢明でしょう。
家業を継ぐタイミング
後継者が家業を継ぐタイミングは、一体どのように訪れるのでしょうか。ここでは、家業を継ぐ代表的なタイミングを紹介します。
親の引退
一般的に家業を継ぐ話の中で多く見られるのが、経営者であった親の引退する際に事業を引き継ぐというパターンです。年齢的なものや健康上の理由などさまざまです。
この場合、後継者の社会経験や知識が不十分だと、後の経営に支障が出てしまいます。それが、家業を継ぐ立場にある人は、将来のその時に備えて日ごろから経営に欠かせない知識や経験を積むことが大切とされる理由です。
相続による承継
経営者である親の死によって相続の一環として会社の経営権や経営資産を相続するケースです。予期しない出来事ともいえるこの場合は、相続税や遺産を巡る親族間のトラブルなど、さまざまな問題が起こってくる可能性があります。
経営者を親に持つ人は、平生から親の体調面に気を配り、親族との関係にも配慮しておくことが大切です。
周囲が推薦
後継者が周囲の人からぜひと推薦されて、家業を継ぐこともよくあります。一般的に中小企業では、後継者に自らの子どもを推すことが少なくありません。
家族経営で何らかの事業を行っている場合は、自動的に家業を継がせるケースもあります。
また、経営の事情によっては周囲の人たちのさまざまな思惑が絡んで、家業を継がざるを得ない流れになることもあります。
家業を継ぐ人のありがちな悩み
家業を継ぐ後継者にとっての、よくある悩みを見てみましょう。
やり直しが効かなくなる
後継者は家業を継ぐにあたって、一旦継いでしまうとやり直しがきかなくなることに不安を感じがちです。一旦継いでしまえば、その事業の継続が周囲からも顧客からも求められます。サラリーマンのように、自身の都合のみで辞めることはできません。
このように、いったん決断すると後に引けないため、後継者は決心することをためらいやすいものです。もちろん誰しもそのような選択の局面では、慎重にならざるを得ません。
経営者としての勉強が大変
後継者は事業を継ぐことによって、それまでは使う場面のなかった会計、財務、法律、労務といった知識や、取引先の対応、社員との向き合い方、事業計画の作成など新たな経営者としての知識などの習得を求められます。
もともと後継者となる想定で働いていた場合は、その過程の中で勉強や経験をしながら家業を継ぐことができますが、いきなり後継者となったり、他社で働いていた場合などは、経営者になって初めてこれらの勉強を開始することとなります。
そのような背景から、後継者はそういったスキルを身に付ける大変さを想像すると悩みがちです。
長期借り入れの額に驚く
無借金経営ができている企業であればよいですが、多くの中小企業というものは、金融機関からの多額で長期の借入れによって運営していることが多いものです。
経営する立場になってそれを具体的に知り、驚いてしまうこともありがちです。そのような負債の返済が可能かどうか、不安になり悩んでしまう後継者も少なくありません。
従業員との関係
家業を後継者が継ぐことで、先代とは良好だった従業員との関係に変化が生じることがよくあります。
生え抜きや古参の経営幹部からの当たりがきつかったり、従業員からやっかみをいわれたりするおそれがあるのです。
しかし、何をいわれようが事業を支える従業員なので、人間関係はじっくり慎重に構築しなければなりません。
家業を継ぐことのメリット
家業を継ぐことはさまざまなメリットがあるといわれています。主なものをあげて、解説しましょう。
自分の裁量で仕事ができる
家業を継ぐことでサラリーマンと大きく異なるメリットは、自分の裁量で仕事ができることです。
例えば、事業の方向性を決められるということです。家業を継いだとしても、必ずしも既存の事業を継続しなければならないということはありません。自分が確信を持つなら、意見を通して他の事業に参入することもできます。
たとえ大胆な転換でなくとも、既存事業を残しつつ、新事業を立ち上げることも含めて、やりたい事業の方向性に進めます。
また、サラリーマンのように勤務に関する時間や場所の拘束もされません。こういう点は家業継ぐ大きなメリットといえるでしょう。
定年退職がない
高齢化社会となって、70〜80代の経営者も珍しくなくなりました。自分が経営している場合には、定年退職はありません。リタイアは自分が決めることです。
健康で頭脳明晰である限り、仕事を続けられるのは経営者や自営業だけが持つメリットです。
新しい人脈が生まれる
家業を継ぐことで、それまでなかった多くの人脈が生まれます。また、既存の人脈に限らず、事業の展開の中で新たな人脈が生まれます。
それらはサラリーマンが築ける人脈とは、また次元が違う人脈なので、世界が広がることでしょう。
収入がアップする可能性がある
当然ながら、経営者になることで会社勤めの頃と比べて収入がアップする可能性があります。
もちろん、確実でもなく保証もありません。あくまで事業が順調に展開できればですが、自身のモチベーションは上がることでしょう。
将来家族に事業承継できる
家業を継いで、その事業を真摯に丁寧に継続していけば、将来は自分の息子や娘に後継を託すことが可能です。
自分が携わった事業を子どもが継承するのは、サラリーマンには味わえない大きい喜びではないでしょうか。
家業を継ぐことのデメリット
家業を継ぐことには、もちろんメリットだけでなく、当然デメリットも存在します。代表的なものを見ていきましょう。
会社勤めよりも不安定
家業を継ぐと、利益が上がるかどうかは経営者である自身の裁量が大きく影響します。経営手腕次第で業績が向上することもあれば、逆に悪化することもあります。安定しているかどうかという意味では、サラリーマンと比べて不安定であるともいえます。
常に安定した生活を送りたい人であれば、家業を継がずサラリーマンとして生活する方がよいかもしれません。
債務も引き継ぐことになる
前述のように、中小企業は金融機関からの長期借入れがつきものです。その重圧に耐えられる人でなければ、後継者となるのは難しいでしょう。
家族の理解が必要
ケースバイケースですが、家業を継ぐことは、家族の理解をもらうことが難しい面もあります。それまで築いた地位を捨てなければならず、事業の規模や進展の度合いによっては、以前よりも収入が減ることも想定されます。
そのため、配偶者や家族から反対されることも少なくありません。家業を継ぐという一大事は、ともに暮らす家族の理解を得ることも難関です。
人を雇うことの苦労がある
前述のありがちな悩みの中の、従業員との関係とも関連しますが、それまでは人に雇われていた後継者が、立場が逆転して人を雇う立場になるので、さまざまなカルチャーショックを受けることが予想されるでしょう。
人を雇うということの難しさに関しては、経験者でなくてはわからないものがあるといわれています。家業を継ぐと我が身をもって体験することになります。
時には心労で辛いこともあるでしょう。しかしその辛さを打ち明けて共有できる人もなかなかいません。乗り越えないとならない試練のひとつといえるでしょう。
家業を拡大するための戦略
家業を継ぐというのが目的ではなく、今ある家業をどうしていくのかを考えた上での承継でなければなりません。そこで、家業を拡大するために重要な要素と言えるのが後継者の育成、従業員、家業に執着しすぎないことです。
後継者の育成
後継者の育成では、現経営者の責務とも言えるのが、家業を継ぐ後継者の育成をしっかり行うことです。
事業に関するノウハウや業界の情報だけでなく、従業員とのコミュニケーション能力もしっかり教育する必要があるでしょう。金融機関等が主催する後継者向けセミナーなども広く行われていますから、それらに積極的に参加させましょう。また、その過程の中で後継者としての適性もジャッジできますし、従業員にも学ぼうとしている姿勢を見せることで承継がスムーズに行きやすくなるでしょう。
従業員
家業を拡大していくには、人、モノ、金が不可欠であり、その中でも人(従業員)は特に重要なリソースの一つです。従業員の性格や能力は、十人十色なので、経営者の接し方ひとつで会社の業績に貢献することもあれば、会社の足を引っ張る存在にもなることがあります。
もともと経営資源が乏しい家業(中小企業)ほど、家業拡大のカギは従業員が握っており、従業員だけでなく、その家族の生活にも責任を持たなければなりません。特に中小企業においては、良い経営者がいる会社が良い企業の条件の一つとなるため、経営者の手腕次第で良くもなれば悪くもなるのです。
家業に執着しすぎない
前述の後継者育成の中で、どうしても後継者としての適性に満たないという場合には、家業に執着しすぎないという決断をするのが家業のためになる場合もあるでしょう。
「継ぐ不幸・継がす不幸」という言葉があるように、もし強引に家業を継がせ失敗に終われば、継いだ者やその家族、継がした者、従業員、取引先その全てが不幸になることも考えられます。
たとえ事前に色々と学んだつもりでも、実際に家業を継いで、その立場になってみないとわからないこともたくさんあります。資金繰りや借入金といったお金事情もその1つです。特に、時代の変化も早く、先が読めない時代だからです。
そんな時、検討したい方法として、M&Aによる家業の売却です。廃業するのでは従業員も路頭に迷うことになりますが、M&Aなら基本的に雇用はそのまま維持される可能性が高くなります。したがって、家業に執着し不幸にするぐらいなら、その前にM&Aを試みるのは有効な手段と言えるでしょう。
まとめ
人生の一大イベントである家業を継ぐことにについて、迷った時の考え方や継ぐタイミング、そういう局面にありがちな悩みなどを、家業を継ぐメリットとデメリットとともに紹介しました。
さまざまなケースがありますが、根本的には自分が決断しなければならず、決断したからには腰を据えて取り組まなければならないという意味で、覚悟のいることに間違いありません。
しかし、大変なだけでなくメリットも多くて、何よりサラリーマンでは味わえない世界の広がりを感じることができるでしょう。
家業を継ぐ際、法的な手続きに悩む場合には、まず専門家に相談してみるといいでしょう。
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