零細企業とは
ここでは、零細企業について、中小企業との違いなどを含めて基本的な部分について解説します。
零細企業とは何か
零細企業とは中小企業のなかでもさらに小規模な企業を指す用語であり、法律などで正式に定義された言葉ではありません。零細企業と聞くと、家族経営の商店や町工場をイメージする人も多いでしょう。中小企業基本法(第2条第1項)では、小規模企業者という概念があり、「製造業、建設業、運輸業その他の業種」では従業員が20人以下、「商業(卸売業・小売業)・サービス業」では従業員5人以下の企業と定められています。小規模企業の考え方が一般的な零細企業のイメージに近いといえるでしょう。
中小企業との違い
ここではよく聞かれる中小企業との違いについて解説します。零細企業は広義には中小企業の概念に含まれます。中小企業は中小企業基本法によって以下の表の通り明確な定義が定められていることが特徴です。そのため、零細企業という言葉は個人によってイメージが異なるため、ビジネスの場で使用する際は前提条件を置くなど、注意して使用する必要があります。
零細企業の現状
2016年時点では零細企業に近い概念である小規模企業の数は会社全体の数、約359万社の内、約305万社であり約85%と大きな割合を占めることがわかります。しかし、徐々に経営者の高齢化、後継者不在によってその数を減らしています。近年は後継者問題を解消する手段として零細企業に対するM&Aが注目されています。
零細企業のM&A動向とM&Aを行うメリット
ここでは、零細企業に対するM&Aの動向と実際にM&Aを行うメリットについて解説します。
零細企業のM&A動向
国内におけるM&A件数は増加傾向にあり、2021年は4,280件、2022年は4,304件と過去最高になっています。これは国内事業者の多数を占める中小企業や小規模事業にもM&Aが浸透しつつあることを示しています。その要因としては小規模な企業でも利用できるM&Aサービスが普及したこと、M&Aに対して慎重であった経営者がM&Aに対するマイナスイメージを改めつつあることが考えられます。今後も零細企業の少子高齢化に伴う後継者問題は続くとみられ、零細企業へのM&Aの件数は高い水準で推移することが予想されます。
買い手のメリット
新たな顧客基盤を得ることができる
零細企業のM&Aにおける買い手のメリットの一つとして、新たな顧客基盤の獲得があげられます。
例えば、これまでBtoBのビジネスを中心に展開してきた企業が店舗運営を中心とするBtoCビジネスを手掛ける企業を買収した場合、一般消費者の顧客基盤を得ることができます。また、不動産業など地域の顧客ネットワーク重視されるビジネスにおいては新たな地域に進出する足掛かりになるでしょう。零細企業の中には、ある地域で強固な顧客基盤を持っているケースがあり、このような強みは財務指標に表れないことから買い手側には入念な事前調査が求められます。
人材育成の手間とコストが省ける
買い手となる企業が新たな事業領域への進出を試みる場合、その領域で必要なスキルを持つ人材を採用する、もしくは自社で育成することが必要となります。しかし、人材の採用や育成には長い時間と大きなコストが必要であり、必要な人材が揃う頃にはビジネスチャンスを逃してしまうことになりかねません。しかし、新事業で必要な人材をM&Aで獲得すれば事業拡大の大幅なスピードアップが期待できます。また、場合によっては一から人材を育成するよりもコストが削減できる可能性もあるでしょう。
売り手のメリット
後継者問題が解決できる
零細企業では全体的に経営者の高齢化が進んでおり、後継者不在を理由に廃業してしまうケースも多く見られます。特に長年地域に根差した経営を続けている場合や、代々家業として受け継いできた事業を自分の代で畳んでしまうことを残念に思う経営者は多く、M&Aによる事業承継が後継者問題を解消する手段として注目されつつあります。近年はM&A仲介サービスなども利用しやすくなり、M&Aの敷居も低くなりつつあるといえるでしょう。。後継者問題に悩む売り手にとって、M&Aは今後も有力な手段であり続けるでしょう。
売却資金を獲得できる
M&Aで会社を売却することにより売却益が獲得できることも、売り手にとっての大きなメリットです。M&Aによって得た資金は高齢の経営者にとっての老後資金として将来に安心をもたらすでしょうし、新たな事業を興すための資金にもなるでしょう。先述の通り、自社の持つ価値を正しく理解して、正当な価格で売却することができれば想定より多額の資金が得られる可能性もあります。
零細企業でM&Aを行う際のポイント・注意点
ここでは、零細企業に対してM&Aを実施する際のポイント、注意点について、買い手と売り手の双方の視点で解説します。
買い手の視点
買収金額に見合うメリットがあるか
零細企業かそうでないかに関わらず、M&Aを行う際にはそれに見合う投資対効果があるかどうかを見極めることが重要です。例えば、規模は小さくとも競合他社にはない技術を持っている、ある地域で有力な顧客基盤を持っているなど、財務指標に表れない強みを的確に見抜く力が求められます。
M&Aは決して安い投資ではありません。事前の入念なリサーチがM&A実施後の投資対効果に影響することは言うまでもないでしょう。
コンプライアンス上の問題を抱えていないか
零細企業には大企業と違い、情報セキュリティーや労使問題などコンプライアンスの対策にかける余力に乏しい場合があり、これらの問題が放置されていることが少なくありません。特に近年は時間外労働の上限や有給休暇取得の義務化を定めた働き方改革関連法案が中小規模の企業にも適用されるようになっており、会社の規模を言い訳に対策を先延ばしにできない状況になっています。当然ながら既にコンプライアンス上の問題を抱えた企業を買収する場合、その責任は買収した企業が負うことになるため、入念に調査することが重要です。
売り手の視点
妥当な売却価格で合意できるか
売り手としては買い手に対して納得のいく価格で売却できるよう交渉に有利な条件を揃えることが重要です。一般的にM&Aは買い手が有利とされており、仲介業者もM&Aを成立させることを優先する傾向があるため、売り手が有利に交渉を進められるケースは意外と多くはありません。しかし、自社が競合他社に勝る点を正しく訴求し、買い手に対して付加価値を感じさせることができれば納得のいく形で売却できる可能性があります。買い手の視点に立って自社のアピールポイントを整理した上で、交渉に臨むことが重要です。
従業員の不安を和らげることができるか
自分の働く会社が売却されることを知った従業員は多くの場合、不安を抱くのは自然なこと
でしょう。自社の従業員に対して、M&Aによって労働環境の改善や待遇改善など
従業員に対してのメリットを説明し、少しずつ不安を和らげていくことが重要です。従業員の不安を軽減させることができれば、従業員の離職やモチベーション低下といった懸念を最小限に抑えることができるでしょう。
まとめ
零細企業は日本国内における企業数の大半を占めるものの、経営者の高齢化や後継者不在で年々その数を減らしています。一方で、零細企業の後継者問題を解決する手段としてM&Aが注目されつつあり、実際にM&A成約件数も増加傾向にあります。M&Aは事前の入念な調査や費用対効果の見極めを正しく行えば、売り手と買い手の双方に多くのメリットがあります。本記事を通して零細企業のM&Aに対して関心を持っていただけると幸いです。