企業再生ファンドとは
投資家から資金を集め、ファンド=基金の形でプールし、それを投資して収益を得るシステムや運営機関である投資ファンド。その中でも企業や事業の再生に特化しているのが企業再生ファンドです。
経営が傾き、過剰債務に陥っていたとしても、優れた技術や知見を持ち、将来性の見込める事業を有するケースは少なくありません。また本業の業績は悪くなくても、経営の多角化などが原因で債務がふくらみ、経営不振に陥る会社もあります。
企業再生ファンドは、このような再生の可能性のある会社のスポンサーとして融資や出資を行って、まずは会社の再建を図ります。会社を立て直した後、株式公開や第三者への株式譲渡などを実行して売却益を上げ、それを投資家に還元しています。
ハゲタカファンドとは?
ハゲタカというのは鷹や鷲などの俗称で、動物の死骸を容赦なく食べる姿が思い浮かびます。その様子に経営破綻寸前の会社を買い取り、その経営をも握って企業の再生を図る企業再生ファンドの姿をなぞらえ、「ハゲタカファンド」と呼称がつけられるようになりました。
小説やドラマなどで話題となった「ハゲタカ」もハゲタカファンドを題材としたことでも、広く知られるようになったのです。
上場していない未公開株式に投資し、バリューアップを図るファンドは、プライベートエクイティファンド(PEファンド)と呼ばれています。
PEファンドにはベンチャー企業に投資するVC(ベンチャーキャピタル)、成長が見込まれる成熟した企業を買収するバイアウトファンドといった形があります。
「ハゲタカ」と風刺されたのは、ほぼ倒産寸前の企業に狙いを定め、容赦ない手法を取ることからでもありました。容赦ない手法だけではなく、買収後に目ぼしい資産を換金してしまう手法等から、しばしば世間の注目を集めることがあります。しかし、最近ではハゲタカファンドを見掛けることも少なくなり、健全にバリューアップをはかるPEファンドがほとんどとなりました。
また中小企業の再生支援をメインに行うファンドに中小企業再生ファンドがあります。地域金融機関、民間投資会社や官民共同出資組織である地域経済活性化支援機構が出資するファンドです。地方も含めた中小・中堅企業の再生のため、投資という形で支援を行います。
企業再生ファンドの基本的な仕組み
会社が傾いた際や経営不振で再生を目指すときに、その支援を行うのが企業再生ファンドだと説明してきました。ただ、どんな会社であっても投資を行うわけではありません。どういった場合に活用されるのかを含め、基本的な仕組みを見ていきましょう。
活用される条件下とは
債権カットや出資など、ある程度の金融支援を行えば再生できると見込まれた会社と判断できるかどうかが前提となります。
またオリジナリティのある優秀な技術を持ち、将来性の高い事業を持つ会社も、企業再生ファンドの投資先となりえます。現状のままでは存続が危ぶまれるような会社であっても、本業そのものは好調である会社も同様です。
投資の判断材料について
投資に見合う資金が回収でき、しっかりと投資家へのリターンを支払えるかどうかが、投資の判断材料となります。投資にはリスクも伴いますから、再生の手法も適切に選ぶ必要があります。再生の手法には、主に以下の2つがあります。
●ターンアラウンド
方向転換を意味するターンアラウンドとは、立て直しのための中長期的な改革を行う手法になります。企業再生ファンドは会社を再建するため、事業内容を再考する他、営業をはじめ、財務や組織構造などさまざまな面において改革を実行します。
会社の本質を改革することでもあり、営業力や研究開発力を磨くなど、会社の武器となる事業を再構築するのもターンアラウンドです。企業再生の専門家であるターンアラウンド・マネジャーを選任し、進めていくこともあります。
●ワークアウト
ターンアラウンドと対をなすのがワークアウトで、短期的な収益改善手法にあたります。コスト削減のためのリストラ策、資産売却などのコスト削減などが該当します。
事業承継における企業再生ファンドの役割
有力な事業を第三者に引き継いでもらうまたは譲渡する、事業承継を用いるのも会社の再建に有用です。事業承継を検討する際、事業再生ファンドはどのような役割を果たすのでしょうか。
事業承継で用いるケース
一口に事業承継といっても、そのスタイルは多様です。また経営者だけでなく、M&Aの仲介会社をはじめとした、プロの支援を受けるケースが一般的です。
ケースによりタイプが異なる
事業承継は、大まかに2タイプに分かれます。まず、さらに大きく発展を遂げるよう、戦略的に行うのが攻め型の事業承継と呼ばれるタイプです。株式公開(IPO)やM&Aなど、経済基盤の大きいスポンサーの傘下に入り、会社の成長を目指します。
一方、経営者が高齢化し、後継者も見つからず、会社の存続を解消するために事業承継を行う場合もあります。こちらが守り型と呼ばれるタイプの事業承継です。
それぞれの会社の置かれた状況によって、攻め型、守り型の事業承継を選択します。
メリット
事業承継において、企業再生ファンドを用いるメリットには、次のようなものがあります。
●基本的に豊富な資金を有している
企業再生ファンドは資金調達力に長けていますから、再生の選択肢も広がります。
●企業再生における幅広いノウハウを持っている
会社の再建は、企業再生ファンドにとっても目標になります。多岐にわたる再生のノウハウを持ち、企業価値のアップやキャッシュ・フローの改善を提案してくれるのもメリットです。これまでの企業風土を生かしながら、経営のサポートを受けることも可能です。
●M&Aにおける買手・売手のマッチングが容易
出口戦略としてM&Aを用いる場合、企業再生ファンドは豊富なネットワークの中から、最適な買手と引き合わせてくれます。
企業再生の基本的な流れと事例をご紹介
企業再生ファンドが、過剰債務など窮地に陥った会社を立て直す役割を果たすことをお伝えしてきました。ここからは企業再生の基本的なフローを事例ともにご紹介します。
相談を受けてからの流れ
企業再生において、最も重要なのが、再建できるかどうかの見極めとなります。まずは、収益性を中心に、法務面、財務面、税務面などのデューディリジェンス(DD)を行い、情報収集します。
このプロセスによって、再生の全体像が明確になり、現経営者や債権者や株主等と共有も可能となります。
その後、事業面での再構築、財務面の再生計画を策定します。
日本における成功事例一覧
日本でも大企業から中小企業まで、企業再生に成功しているケースが増えています。実際の事例から2つピックアップしてお伝えします。
事例1 ターンアラウンド戦略を行ったカネボウ
企業再生の有名な事例の1つにカネボウの例があります。
創業時は繊維事業中心の企業で、かつては鐘淵紡績株式会社を商号としていたカネボウ。戦前から化粧品事業をスタート、中核事業に成長させます。
さらに1960年代後半からは化粧品以外の食品や薬品分野にも進出、多角化に踏み出します。
ところが化粧品以外の新規事業は大苦戦し、赤字事業に資金を回したため、経営に暗雲がたれこめます。粉飾決算を繰り返し、2003年9月には629億円もの債務超過を抱えて事実上の破綻を迎えます。その後、国の産業再生機構による支援が決まります。
収益性の見込める化粧品事業を切り離し、経営陣の刷新や社内組織体制の再考などターンアラウンド戦略を実行します。その他にもリストラを実施、再生の道筋を立てたのです。化粧品部門は花王に売却、それ以外は投資ファンドに売却されました。
事例2 部品メーカーのケース
2つめに電子部品を製造する下請けメーカーBの再生事例をご紹介します。製造のスキルやノウハウが知られているBでしたが、主業務では赤字を計上。メインバンクへの返済も遅れがちで、役員の個人保証による借入で何とかしのいでいる状態でした。
金融機関からの追加借入はできず、企業再生ファンドが支援をすることになり、新しい会社へと事業承継を実行します。
今後の事業の立て直しに向け、部門や顧客それぞれで損益分析を行うなど、営業における取引データを丁寧に構築しました。
ネックとなっていたのは元請企業との取引でした。新経営陣が取引単価のアップなどを提案し、事業の立て直しに導きました。
まとめ
投資家から集めた資金を元手に、会社の再建を図る役割を持つ企業再生ファンド。リターンを得るために手段を選ばない「ハゲタカ」のネガティブなイメージはごく一部のものに過ぎません。進路に悩む会社の有効な選択肢の1つと捉えるべき存在です。
企業再生は複雑で会社の状況によりケースバイケースな側面を持っています。企業再生ファンドの活用を含め、信頼のおけるM&Aアドバイザリーなどにまずは相談してみるのがおすすめです。