財務諸表は、会社の業績や財務の状態を客観的に報告するための書類群
「財務諸表」とは、企業の一定期間の経営成績や財務状態等を利害関係者に対して報告するために作成された計算書類です。一般的には「決算書」とも呼ばれます。
上の定義をもう少しかみ砕いて、説明しましょう。
まず、「一定期間」とは、会計年度とも呼ばれる、任意の1期間(通常は1年間)です。「1期」「2期」という数え方をします。
次に、「経営成績や財務状態等」とは、主に、売上や経費、利益などの「業績」と、その結果、資金や資産、負債などがどれくらい残っているのかという「財務」、そして、現金や預金が何に使われ、どれくらい増減して、どれくらい残っているのかを示す「キャッシュ」の3つの面に別れます。
「決算書」という呼び方だと1つの書類のようにも思われますが、上記のような経営のさまざまな面を表すために、財務諸表は、「損益計算書」「貸借対照表」「キャッシュフロー計算書」「株主資本等変動計算書」「附属明細書」など、複数の計算書類から構成されています。複数の書類があるために、「財務“諸”表」と呼ばれるのです。
財務諸表により、利害関係者に会社のことを客観的に理解してもらえる
次に、「利害関係者に対して報告する」とはどういうことでしょうか? これは決算書が求められる場面を考えれば見えてきます。
金融機関に対して
多くの会社は金融機関から融資を受けています。その際に、会社にどれくらいの資産があり、どれくらい儲けを出しているのかといった内情を正確に伝え、融資をきちんと返済できるかどうかを判断する根拠を提示するために用いられるのが決算書です。
取引先に対して
取引先に対して、「取引しても代金が焦げ付いたり、いきなり倒産したりしない会社」であることを示すために、決算書の提示が求められることがあります。
国や自治体(税務当局)に対して
税金を納める国や自治体に対しては、正しい法人税等の納税額を決めるためにも、どれくらいの利益があったのかを客観的に示している決算書が必要になります。
株主に対して
株式を上場している会社やこれからする予定の会社、あるいは上場しないまでも第三者割当増資などを実施して出資を受けようとする会社は、株主や株主となることを検討する投資家に対して、決算書で、投資先として有望であることを示さなければなりません。
財務諸表は、経営者自身が会社を正しく経営していくためのモニターともなる
財務諸表は、経営者が、金融機関、取引先、国や自治体、株主、などのステークホルダーに提示するためだけに作成されるものではありません。
経営者自身にとっても、財務諸表の内容をきちんと理解しておくことはとても大切なのです。
中小企業では、「決算の数字は売上と利益だけがわかればそれでいい。そんなことより、いい製品を作って、しっかり営業して、売上と利益をどう伸ばすかを考えるほうが重要だ」というような考えの経営者様も少なくありません。
もし、この先もこれまでと同じように事業市場が成長し、製品の需要が伸びていくのなら、売上成長だけを考えていればいいでしょう。しかし、今の日本国内に、そんな事業は多くはないはずです。いい製品やサービスを作り、売上や利益を伸ばすことはもちろん大切です。しかしそれだけでは、会社に大きな変化が起きたときに対応できなくなります。
コロナ禍の例でわかるように、事業の外部環境は突然大きく変化することがあります。また、会社の内部環境も人が入れ替わるなどして常に変化しています。あるいは、取引先の倒産などにより、突発的に資金の流れが止まってしまうこともあります。
そのような外部・内部の変化に直面したときに、どのように舵取りをすればいいのかを判断するための重要な資料となるのが、財務諸表なのです。
財務三表=損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書
財務諸表の大まかな存在意義がわかったところで、次はその中身を、少し具体的に見ていきましょう。
財務諸表の中でも、もっとも重要なのは、「損益計算書」「貸借対照表」「キャッシュフロー計算書」で、これらをまとめて「財務三表」と呼ぶこともあります。この三表は、会社の事業活動を下記のような観点からそれぞれまとめたものです。
貸借対照表(BS):1期間の期末時点での、調達した資金の残額や、資産、負債などの「財務」をまとめたもの。
キャッシュフロー計算書(CF):1期間にキャッシュ(現金や預金など)にどれだけ増減があり、最終的なキャッシュの残高がいくらあるのかを集計したもの。
これらは別々の書類ではあるのですが、それぞれの数値は、相互に関連して動いています。
損益計算書で、売上、費用、利益などの「業績」がわかる
財務三表の中で、もっとも直感的に理解しやすいのは、損益計算書でしょう。損益計算書は、英語で「Profit and Loss statement」なので、略して「PL」と呼ばれることもあります。
損益計算書は、単純化すれば「売上-経費=利益」
損益計算書は下図のような構造になっています。
一番上の「売上高」から、さまざまな項目を加減して、最終的に、一番下の「当期純利益」が求められます。つまり、要約すれば、1期間の「売上-経費=利益」の計算を表しているといえます。
当期純利益は、その期の事業活動の結果、会社に最終的に残った「手取り金額」です。配当を出している会社であれば、ここが配当の原資になります。配当を出した後で(あるいは配当を出さずに)残った分は、利益剰余金として、貸借対照表の「純資産の部」に加えられます。
①売上高
1年間の売上の合計。損益計算書の最上部にあることから、「トップライン」と呼ばれることもあります。
②売上原価
その期の売上高を上げるために使った仕入や原材料費、製造経費などです。「粗利益」「粗利」とも呼ばれます。在庫量との関係で理解しなければなりません。
③売上総利益
①売上高-②売上原価=③売上総利益です。
もっとも重要な利益概念であり、ここがマイナスになるのであれば、そもそもそのビジネスモデルは破綻していると考えられます。
④販売費および一般管理費(販管費)
人件費、事務所家賃、広告宣伝費など、直接売上に連動していない経費です。ここが適正であるかどうかは、損益計算書をチェックする上での重要なポイントです。「販管費」と略されることもあります。
⑤営業利益
③売上総利益-④販売費および一般管理費=⑤営業利益です。
いわゆる本業の利益です。単に「利益」という場合、営業利益の意味であることが多いでしょう。営業利益に減価償却費(現金支出を伴わない費用)を足し戻したものが「EBITDA」と呼ばれ、M&Aの場面等でも企業価値評価でよく用いられる指標といえます。
⑥営業外収益
本業以外で、経常的に(毎期安定して)入る収益です。たとえば、本社ビルの一部を他社に貸しているときの家賃収入などがあります。
⑦営業外費用
本業以外で、経常的に支払う費用です。たとえば、融資に対する支払い利息などがあります。
⑧経常利益
⑤営業利益+⑥営業外収益-⑦営業外損失=⑧経常利益です。毎期の通常の経営において発生した利益です。
⑨特別利益
その期だけ発生した利益。たとえば、固定資産の売却益などがあります。
⑩特別損失
毎期発生するわけではない偶発的な損失です。たとえば、固定資産売却に伴う損失や、災害で被害を受けた場合の損失などがあります。
⑪税引前当期利益
⑧経常利益+⑨特別利益-⑩特別損失=⑪税引前当期利益です。事業活動によるすべての収益等からすべての費用等を差し引いた利益。これを基に税金が計算されます。
⑫法人税等
法人税等とは、法人税、法人住民税、法人事業税等のことです。
⑬当期純利益
⑪税引前当期利益-⑫法人税等=⑬当期純利益。「税引後利益」であり、会社の「手取り」となる部分です。マイナスであれば当期純損失=赤字です。配当金を支払う場合は、ここから支払い、最終的に残った金額が、貸借対照表の利益剰余金に加算されます。
貸借対照表で資金の調達状況や資産の規模など財務状況がわかる
事業とは、自己資本(株主からの出資金や過去の利益の蓄積など)か、あるいは、負債(借入金など。他人資本とも呼ばれる)によって、資金を調達して、その資金をなんらかの資産に変えて生産・販売活動をおこない、利益を生み出すことだといえます。そして、事業をおこなうための「箱」が会社です。
貸借対照表は、どのようにして資金を調達して、調達した資金がどのような形の資産として残っているのかを、決算期末の一時点で集計した計算書類です。
左右の合計が一致するから「バランスシート」とも
貸借対照表の右側(負債の部と純資産の部)は、主に資金をどうやって調達しているのかを示し、左側(資産の部)は、調達した資金がどのような形になって残っているのかを集計しています。
会社は、まず資金を調達して、それを何らかの形に変えます。たとえば、預金であったり、商品(在庫)であったり、機械・設備であったりです。
このような、資産に変化が生じる活動のことを、会計の世界では「簿記上の取引」と呼びます。そして取引は、必ず、原因/結果の2面にわけて記載されるのが会計の基本的な考え方です。
これは簿記では、「仕訳」(しわけ)という記載方法のルールになっています。
たとえば、1000万円の融資を受けて、預金が増えたということであれば
と記載されます。
この場合、借入金を原因として、現金・預金が1000万円増えた、ということを示します。
仕訳は1つの取引を2つの面から見たものなので、必ず金額は一致します。
貸借対照表も、この簿記のルールに基づいて作成されているため、「負債・純資産の部合計」と、左側の「資産の部合計」は必ず一致するのです。
このように左右が一致(バランス)することから、貸借対照表は英語で「Balance Sheet」と呼ばれ(※)、略して「B/S」と表記されることがあります。
※実際には貸借対照表は、各科目の「残高」(=英語でBalance)を示すことからBalance sheetと呼ばれます。
「負債の部」は、将来、返済や支払いをしなければならないもの
負債とは、融資や買掛金、発行した債券などの「いつかは返済や支払いをしなければならないお金」がまとめられています。
なお、負債と資産の部には、「流動」「固定」の区別があります。これは、「1年以内に支払いや受け取りができるかどうか」という目安でわけられており、1年以内に現金化できると思われるものが「流動」、それ以上かかるものが「固定」と呼ばれます。
「純資産の部」は、会社自身の資産
「純資産の部」は、主に、出資された資金や過去の利益の蓄積による会社自身のお金が記載されます。たとえば創業時などに株主が出資した資本金や、過去の当期純利益が加算された「繰越利益剰余金」などです。
ここに記載されている項目は、負債の部と異なり、原則的に将来支払いや返済をする必要がないものです。したがって、純粋な意味で「会社自身の資産」だといえます。そのため、純資産の部という名前になっています。また、同じ意味で、純資産の部を「自己資本」と呼ぶこともあります。
(厳密にいうと、純資産の部と自己資本は同一ではありませんが、細かい話になるので、割愛します)。
「資産の部」は、調達した資金が形を変えた姿
資産の部は、負債あるいは純資産として調達した資金が、どのような形で、会社に存在しているかを示しています。
参考記事「貸借対照表(バランスシートB/S)とは【動画要約記事】」
キャッシュフロー計算書で、キャッシュの動きわかる
会計のルールでは、費用や利益の動きと、現金の動きは必ずしも一致しません。
たとえば、BtoBの取引では、当月の取引について月末にまとめて請求して、売上高と売掛金の増加を計上しておき、翌月や翌々月末に振込入金があったときに、売掛金の減少と預金の増加を計上する、ということが普通です。
すると、売上高が計上される時期と、実際に現金が入金される時期に時間差が生じます。
手形取引をしていると、その時間差はさらに長くなります。
また、機械設備や車両などの高額な資産を購入した場合は、減価償却という特殊な会計上のルールが適用されるので、現金の動きと費用の動きはまったく一致しなくなります。
このように、会計上の利益や費用と、現金の動きは一致しないことが普通なのですが、そうすると、「損益計算書では利益が出ているのに、なぜか現金が足りなくて困る」という場合があります。
一方、投資家や債権者の立場であれば、自分たちが投資または融資した現金を、会社が稼いだ現金を、どこに、どのように使っているのかを知りたいということもあります。
そういった理由から、損益計算書で示される利益や費用の動きとは別に、キャッシュ(現金および現金同等物)の動きに焦点を絞って、集計した計算書類が求められるようになりました。それがキャッシュフロー計算書です。英語では、「Cash flow statement」といい、「C/S」と略されることもあります。
営業活動によるキャッシュフロー
主たる事業活動によって、どれだけのキャッシュが増減したのかが示されます。当然ながらプラスであるのが望ましい結果であり、ここがマイナスになっているのは、何らかの異常事態が発生していると考えられます。
投資活動によるキャッシュフロー
設備投資などによる、キャッシュの増減を示します。前向きな投資によってここがマイナスになるのは、基本的には良いことだと考えられます。
財務活動によるキャッシュフロー
融資実行や返済、出資などによるキャッシュの増減を示します。たとえば、新規融資を受けずに、返済だけを続けていれば、ここはマイナスになります。プラスがよいか、マイナスがよいかは、ケースバイケースです。
キャッシュフロー計算書の作成は、中小企業には義務づけられていない
ただし、キャッシュフロー計算書は比較的新しくできたもので、現在のところ、中小企業には作成が義務づけられていません。
おそらく、皆さんの会社でも損益計算書と貸借対照表しか作っていない会社が多いのではないかと思われます。
そこでまずは、損益計算書と貸借対照表、とくに貸借対照表をしっかり理解するようにしましょう。
財務諸表を読み解く際のポイント
経営者が経営に役立てるために、財務諸表を読み解く際のポイントについて解説します。
損益計算書の読み方のポイント(1)指数化、指標化してとらえる
「売上高」「営業利益」「負債」「純資産」などを、個々の数値を実数で把握するだけではなく、数値と数値を比較した比率でも把握すると良いでしょう。
財務諸表の数値を比率化したものは、経営指標とも呼ばれ、財務分析によく用いられています。
代表的な経営指標
名前 | 使う書類 | 計算式 | 内容 |
売上高販管費率 | 損益計算書 | 販管費÷売上高 | 売上高に対する販管費の割合。一般的には低いほどよい。 |
売上高営業利益率 | 損益計算書 | 営業利益÷売上高 | 売上高に対する営業利益の割合。一般的には高いほどよい。 |
売上高当期純利益率 | 損益計算書 | 当期純利益÷売上高 | 売上高に対する当期純利益の割合。一般的には高いほどよい。 |
自己資本比率 | 貸借対照表 | 純資産÷(負債+純資産) | 負債・純資産合計に対する純資産額の割合。高いほど長期的な財務の安定性が高い。 |
流動比率 | 貸借対照表 | 流動資産÷流動負債 | 流動負債に対する流動資産の割合。高いほど、短期的な資金繰りの安全性が高い。 |
棚卸資産回転率 | 損益計算書+貸借対照表 | 売上高÷棚卸資産 | 売上高に対する棚卸資産の割合。一般的には、高いほどよい(売上高の代わりに売上原価を使う場合もある)。 |
総資産利益率 (ROA:Return On Asset) | 損益計算書+貸借対照表 | 当期純利益÷総資産 | 総資産に対する当期純利益の割合。高いほど、資金を効率よく活用している。 |
損益計算書の読み方のポイント(2)推移を見て変化に着目すること
財務諸表の数値や、経営指標は、1期分だけを見てもあまり情報は読み取れません。まず、前期、前々期などと比較して、推移を見ることがポイントです。できれば5年程度、最低でも3年分は比較するとよいでしょう。
そして、数値であれば伸びているのか、減っているのか、経営指標であれば、良化しているのか、悪化しているのかをとらえます。つまり、変化に敏感になることが大切です。
たとえば、損益計算書を並べて「売上高は毎年伸びているのに、売上総利益はあまり変わらない(=売上総利益率が悪化している)」であるとか、「ある年度から急に棚卸資産回転率が落ちた」などの大きな変化があったときに、その変化の理由を特定して、必要に応じた対処をします。
もし、変化の理由にまったく見当がつかないといった状況なら、経営者として経営状態の把握不足だといえるでしょう。
損益計算書の読み方のポイント(3)同業他社、業界平均などと比較すること
経営指標については、同業他社や、業界の平均値などが把握できれば、それと比べて自社が劣っているところを見つけるのも有効な方法です。
中小企業の場合は、データを集めることがなかなか難しいかもしれませんが、顧問税理士、メインバンク、商工会などに問い合わせたりすれば、教えてもらえることもあります。
5つの財務諸表分析法
財務分析とは、「貸借対照表」「損益計算書」「キャッシュフロー計算書」の財務三表(決算書)を使って、その会社の「収益性」「安全性」「生産性」「効率性」「成長性」の5つを総合的に分析することです。
1.収益性分析
収益性分析は、会社の収益力を見るもので稼ぐ力が分かります。代表的な指標は次の2つです。
・売上高営業利益率(=売上総利益÷売上高×100)
2.安全性分析
安全性分析とは、会社の支払能力を示す指標で、短期的・長期的な支払能力を分析することで、会社の倒産リスクを図ることができます。
②長期的な安全性の分析指標:
(1) 負債比率(= 他人資本(負債)÷自己資本×100%)
(2) 固定比率(=固定資産÷自己資本×100%)
(3) 自己資本比率(=自己資本÷(自己資本+他人資本)×100)
3.生産性分析
生産性分析とは、会社が投入した経営資源(従業員や設備など)を効率よく活用し、そこからどれだけの売上や付加価値を生んでいるかをみるものです。代表的な指標は以下です。
②労働分配率(売上総利益÷人件費×100%)
4.効率性分析
効率性分析とは、会社が投下した資本などが、いかに効率よく売上や利益を生み出しているのかをみるものです。指標は多数ありますが、代表的な2つを紹介します。
②総資本回転率(=売上高÷総資本)
5.成長性分析
成長性分析とは、会社における一定期間の成長度合いを示す指標で、1年間でどれだけ成長したのかを分析するものです。代表的な指標は次の3つです。
②経常利益成長率(=(当期経常利益-前期経常利益)÷前期経常利益×100)
まとめ
財務諸表にまとめられた数値は、車のダッシュボードの計器類が示す数値のようなものです。いま、時速何キロで走っているのか? エンジンの回転数は? エンジン温度は? ガソリンの残量は?……。
ダッシュボードに示されるそれらの情報の意味をまったく知らないまま車を運転しているのでは、いつエンジンストップや事故を起こしてしまうかわかりません。
「商品が売れて、事業が伸びていれば決算書の数字なんてわからなくてもいい」という経営者は、「俺は運転がうまいから、ダッシュボードのメーターなんて、一切見なくてもいい」というドライバーと同じように危険なのです。
本記事をきっかけにして、ぜひ財務諸表への理解を深めていただければ幸いです。
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