創業者利益の概要
創業者利益とは企業の創業者(一族)が、保有している自社の株式を譲渡して得た利益を意味します。
ここでは創業者利益の獲得方法とキャピタルゲインの違いについてご紹介します。
創業者利益とは創業者が株式の譲渡で得る利益
創業者利益とは会社を創業した人が株式を譲渡や売却することで得ることができる譲渡益で創業時の資本金の差額と考えることができます。株式を売却するという意味合いもあるため売却益と呼ばれることもあります。
例えば創業者の自己資金200万円で会社を創業したとします。創業から5年後に株式を5,000万円で売却した場合、4,800万円が創業者利益となります。
創業者が創業者利益を得る流れは下記の通りです。
1. 資本金を準備し、株式会社を創業する
2. 経営を行い事業を育て、企業価値を高める
3. 企業価値が高まった状態で他社に株式譲渡し、譲渡益を得る
4. 譲渡価格から創業が出資した金額をひいた額が創業者利益となる
創業者利益は会社の経営状態によって大きく影響されます。
創業者利益とキャピタルゲインの違い
キャピタルゲインとは、他人から株式や債権などの資産を購入し、資産価値が上がったタイミングで資産を売却することで得る利益です。例えば100万円で土地を購入し500万円で売却した場合は400万円のキャピタルゲインを得ることができます。
広義では、創業者利益もキャピタルゲインの一種です。では創業者利益とキャピタルゲインの違いはどこでしょうか。両者の違いは大きく分けて2つあります。
1つ目は会社を創業する際に出資しているかです。
創業者利益の場合は譲渡価格から創業者が出資した金額(増資している場合は創業者が追加出資した金額を含む)と、売却時に創業者が得た金額の差額が創業者利益となりますが、キャピタルゲインの場合は資産の購入額と売却額の差額がそのまま利益となります。
2つ目は企業を経営できない場合が多いという点です。
創業者利益は前述のとおり創業者が自ら会社を起こし、事業を育て、企業価値を高めることができます。キャピタルゲインは他人から株式を購入しますが、経営する権利はついてこない場合が多いです。
創業者利益はいくら入る?
会社の業績や規模、企業価値に応じて創業者利益を得ることが可能です。
創業者利益で代表的な事例は、2019年のヤフー株式会社と株式会社スタートトゥデイのM&Aです。株式会社スタートトゥデイはZOZOTOWNを運営している会社で、創業者は前澤友作氏です。
買収額は4,000億円規模で、前澤氏が持つZOZO株約37%のTOBに応じました。前澤氏は同社の経営から退く一方、多額の創業者利益を得ています。
次に、創業者利益にかかる税金をご紹介します。
創業者利益は「株式等の譲渡所得」に分類され課税対象となり20.315%の税率がかかります。税率の内訳は次のとおりです。
● 所得税……15%
● 復興所得税……0.315%
● 住民税……5%
上記をあわせた税率が20.315%です。例えば2,400億円の創業者利益を得た場合、創業者利益にかかる税金は487億5,600万円となりますので、実質手元に残るのは1,912億4,400万円となります。創業者利益を得る際はその後支払う税金のことも念頭に入れておきましょう。
創業者利益を得る4つの目的
ここでは創業者利益を得る目的を下記4つ紹介します。
● 創業の目的が売却益を得ること
● 新規事業への資金確保のため
● 倒産や廃業を回避するため
● 負債の継承を避けるため
創業の目的が売却益を得ること
創業者利益を得ることを目的に創業した場合です。複数の事業を立ち上げ、売却を繰り返すことで創業者利益を連続的に獲得している連続起業家(シリアルアントレプレナー)もいます。
ベンチャー企業などは、先進技術や新なビジネスモデルの構築が求められる場合があります。そのため事業運営が短く企業価値が低い状態で売却すると大きな創業者利益を得られません。
また創業者利益を得ることを目的として起業した場合、株式市場上場(IPO)を行うと利益の大半は現金で得られません。
新規事業への資金確保のため
新規事業を立ち上げる場合、事業運転資金が発生する場合があります。金融機関から融資を受ける際、個人保証や担保を提供しなければならず事業が失敗すると、保有資産を失う可能性があります。
一方で、2013年12月に経営者保証ガイドラインが公表され、翌年から運用が開始されています。ガイドラインの適用対象にある場合で、さらに一定要件を満たせば経営者保証なしで新規融資が受けられます。
新規事業の資金繰りに苦心している方はご相談ください。
参考記事「経営者保証ガイドラインとは?適用対象や保証債務への影響について」
倒産や廃業を回避するため
倒産や廃業になった場合、従業員の生活の糧となりうる給与の支払いや、取引先との関係性が一切なくなります。従業員の将来のことを考えると廃業は避けたいと考える創業者は少なくありません。
そこで会社(株式)の売却です。会社売却時は売上や営業利益が売却金額に影響し、資産は時価で評価されます。このように倒産や廃業回避とそのデメリットをつぶすために創業者利益を得るケースもあります。
負債の継承を避けるため
負債の承継を避けるのを目的に会社売却を行う場合もあります。会社売却を行うと買収した会社は資産と負債を引き継ぎます。
つまり会社を売却した創業者は創業者利益を得ると同時に借入金などの負債がなくなります。
創業者利益を得るためのエグジット方法
イグジット(EXIT)とは出口という意味で、創業者が株式を売却し、創業者利益を手にすることを意味します。これまではエグジット方法としてはIPOが一般的でした。
しかし近年ではアメリカを中心にM&Aによるイグジットが増えています。
ここでは創業者利益を得るイグジット方法を紹介します。代表的な方法は下記の3つです。
● IPOM&A
それぞれの特徴を紹介します。
企業の知名度や信用も向上する「IPO」
1つ目が「IPO」です。IPOはInitial Public Offeringの略称で日本語では新規株式公開や新規上場という意味です。
株式市場に上場して株式を新規に公開し、流通させると方法です。株式市場へ上場すると金融市場からの直接の資金調達ができ、多くの投資家から資金を集められるようになります。
しかし上場の準備はもちろん上場を維持するためには、情報の公開や審査など莫大なコストと時間を要します。また、インサイダー取引など株式売却に対する制限があります。
企業の合併や買収をする「M&A」
最後が「M&A」です。M&AはMergers and Acquisitionsの略称で、会社の合併や買収によるイグジット方法です。
MBOやEBOなど、創業者の株式を経営陣や従業員が買収するバイアウトと呼ばれる方法もM&Aの1つです。M&Aは資金調達や創業者利益を短い期間で得ることができる点もメリットといえるでしょう。
譲受側はシナジー効果を得ることができるため、企業成長を見込めるメリットもあります。アメリカではIPOよりM&Aが主流となりつつあり、日本でもその傾向が強くなっています。
関連記事「M&AとIPOはどちらがいい?それぞれの特徴やメリット・デメリット」
創業者利益を得るために注意すべきポイント
ここからは創業者利益を得るために注意するポイントをご紹介します。
● 市場が伸びている時や好業績のタイミングで売却する
● 希望通りの創業者利益を得られない場合もある
● IPOは現金による創業者利益を得にくい
市場が伸びている時や好業績のタイミングで売却する
特に売上や利益が右肩上がりに伸びているタイミングは企業価値が高額になる可能性があります。売却タイミングを逃さないようにしっかりと市場動向を意識しておきましょう。
希望通りの創業者利益を得られない場合もある
会社の価値を高めて売却した場合でも希望通りの企業者利益を得られない場合があります。なぜなら、会社の価値は事業の将来性などを鑑み、最終的に買手と売手の合意した金額で取引を行うからです。売手は高く売りたい一方、買手は安く買いたい心理が働くため、両者が合意する金額に落ち着きます。
IPOは現金による創業者利益が少ない
イグジット方法のうちIPOの場合は現金による創業者利益が得にくい場合があります。
IPO後に創業者が株式を売却すると「この会社大丈夫?」と市場から不安視され、企業価値が下がる可能性があるため全ての株式を現金化するケースは稀です。
創業者自らが自社の株式を全て売却した場合、経営状況の悪化懸念や経営者が一線を退こうとしているといった憶測が飛び、株価が下落する可能性があります。
創業者利益に関するトラブル回避方法
ここからは創業者利益を得るにあたり、トラブルの回避方法を紹介します。
株主間契約を締結する
株主間契約とは複数の創業者がいる場合、そのうちの1人以上が経営から離れる際に株式の扱い方や利益の分配などを定めることができる契約です。株主間契約を締結しておくことで創業者の利益を守ることにつながります。
参考:平成30年3月 経済産業省 一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会 みずほ情報総研株式会社
M&Aで創業者利益を得るまでの流れ
M&Aで創業者利益を得る場合の流れをご紹介します。上場会社と非上場会社で多少の違いがあるものの、ここでは譲渡制限株式である会社がM&Aで創業者利益を得るまでの流れについて紹介します。
①株式譲渡の承認請求をして承認を得る
非上場会社の多くは、株式譲渡の制限を定めていますその場合株式譲渡を行う際に、株式譲渡の承認請求を行って会社から株式譲渡の承認を得ます。
②臨時株主総会または取締役会で決議する
株主が株式譲渡承認請求を行うと、2週間以内に取締役会(もし定款で他の決まりがあるならば、当該機関が行う)が承認または不承認を決定し、決定内容を通知します。
取締役会がない会社は株主総会、取締役会がある会社は取締役会を開催して株式譲渡承認請求の決議を行います。
参考記事「株式譲渡承認請求書における基本的な情報と書き方を解説!」
③株式譲渡契約の締結
株式譲渡承認請求が承認されると、譲渡側と譲受側が株式譲渡契約を行います。なお、実務上は株式譲渡契約が締結された後に、譲渡承認請求が手続きされる場合もあります。
④株式譲渡に関わる各種請求
株式譲渡契約が締結されたら各種請求を行います。請求は大きく分けて2つあります。実務上は、株式譲渡契約が締結され資金決済含むクロージングがなされることを前提に、準備をします。
1つ目は株主名義書換請求です。株式は譲渡側と譲受側が株主名簿変更請求を行い、譲受側を株主名簿に記載します。
つまり、株式の売買だけでは完全に株式の譲渡ができません。株主名義書換請求は必ず行うようにしましょう。
関連記事「株式譲渡の手続き方法とは?必要な書類と手順を紹介します」
2つ目が株式名簿記載事項証明書の交付請求です。こちらの請求は株主名簿に記載されている株主情報を抜粋して交付してもらうために請求されます。
参考記事「株式譲渡の方法とは?非上場株式における手続きの流れと注意点を徹底解説」
まとめ
当記事では創業者利益を得る目的や概要、注意したいポイントについてご紹介しました。会社を売却することで得られる創業者利益は高額になる可能性があります。
創業者利益を得るための起業、新規事業立ち上げに向けた資金準備など目的は様々ですが、事業を順調に成長させ、イグジットさせることで生活が変わります。しかしIPOはM&Aに比べ創業者利益を現金で得にくい性質があります。
創業者利益を得ることを目的として創業する場合はイグジット方法も事前に検討することをおすすめします。
創業者利益の獲得を検討している場合は専門家に相談することをおすすめします。M&A専門の会社や人材に任せることで公平な企業価値の算出や様々なアドバイスを受けることができます。
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