マルチプルとはどんな意味?計算方法やメリット・デメリットをご紹介

山下正太郎

メガバンクに入行し、M&Aを含む各種ファイナンス業務に従事した後、大手M&Aブティックに入社。中小企業の事業承継問題に対するソリューションとしてのM&A取引を推進。その後、上場企業および大手コンサルティング会社の企画部門にて投資責任者を歴任。キャリアを通じて多数のM&A案件の成約に携わった他、PMI担当として買収先とのスムーズな経営承継を実現した経験を多数持つ。

この記事は約11分で読めます。

企業や株式等の様々な価値を測る際にマルチプル法と呼ばれる指標を用いることがあります。M&Aの際に買収先と同業の企業の財務データ・株価を参考に企業価値を算出する方法ですが、具体的にはどのように計算・評価するのでしょうか。

この記事では、M&Aや企業への投資の際に対象企業の価値を調べる方向けに、マルチプル法の意味、また、具体的メリット、デメリットについて解説します。マルチプル法を用いた計算例も紹介していますので、ぜひご覧ください。

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本記事のポイント

  1. 対象企業の価値を知りたいと考えている方向けの記事です。
  2. マルチプル法を用いるメリットや注意点について、具体例も紹介しつつ丁寧に解説しています。
  3. M&Aの際にマルチプル法を用いる方法についても紹介していますので、対象企業の価値を計算する前にぜひお読みください。

マルチプル法とは?

マルチプル法とは?

マルチプル(multiple)とは英語で「複数の」や「多数の」という意味の形容詞、あるいは「倍数」の意味で名詞としても用いられる単語です。しかし、経済用語として用いるときは、主に企業価値評価における「倍率」と訳されます。

一方、マルチプル法とは、企業価値と特定の指標が何倍であるかを求める評価手法です。例えばAという指標を用いてB社・C社の企業価値を比較する場合、各社の企業価値を同じ指標で割ることで、指標Aに対する企業価値を比較することができます。

※参照元:解説:マルチプル法とマルチプルとは

EBITDAマルチプルとは?

マルチプル法の中でもよく用いられるのがEBITDAを指標として算出する手法です。これは企業価値をEBITDAで割った数値を比較する手法で、「EV/EBITDA倍率」と呼ばれます(※)。

なお、この場合の企業価値は株式時価総額に有利子負債を加え、現金資産を差し引いて求めることが一般的です。

※参照元:EBITDAマルチプルとは?類似企業と比較して企業価値を知ろう!

マルチプルと並列利用される価値算定方法

マルチプル法以外にも価値評価の算定に用いる手法はいくつもあります。例えばDCF法は企業が将来生み出すと考えられるキャッシュフローを一定の割引率で割り引いて求める手法です。

DCF法で求められる企業価値が大きければ、将来その企業が得られるキャッシュフローは多いと予想されます。マルチプル法では将来予測も含めた企業価値評価が難しいため、DCF法などと組み合わせることでより正確に企業価値を評価できるようになるでしょう。

また、マルチプル法では株式の時価総額といった各社比較可能な指標を用いるため、複数の同業種の企業を参考に評価するのに適しています。一方、DCF法は各社のキャッシュフローから評価するため、業種の特性等に左右されづらくなります。どちらの指標も並列利用することで、企業を多面的に評価しやすくなるでしょう。

マルチプル法で何が分かる?

マルチプル法で何が分かる?

特定の指標をベースに価値が何倍あるかを調べるマルチプル法によって、次の価値を評価することができます。

企業価値

マルチプル法では、企業価値を特定の指標で割って算出した数値を用います。そのため、特定の指標に対する企業価値をシンプルに比較することが可能です。ただし、マルチプル法で求めた数値だけで企業価値を評価するのではなく、DCF法などの異なる評価軸の手法も併用するほうがより多面的に企業価値を算出できるでしょう。

株式の価値

株価では企業価値を比較することはできません。株価が低くても発行株数が多い場合は時価総額は大きくなります。マルチプル法を用いる際にも、株価ではなく株式の時価総額をベースに算出した企業価値を特定の指標で割り、割高なのか、それとも割安なのかを比較することが一般的です。

なお、いくつかの企業の企業価値を比較する際には、市場の影響を軽減するために特定の時点の時価総額を用いて求めます。例えば「〇月〇日の終値」という風にタイミングを固定し、それぞれの企業における時価総額を算出することができるでしょう。

投資価値

買収先を評価する場合には、買収価格(有利子負債を含む)と企業価値を比べることで必要な投資額に見合う企業なのかを判断しやすくなるでしょう。計算上の企業価値よりも買収価格(有利子負債を含む)が低ければ割安と考えられるので、M&Aも前向きに検討可能です。

ただし、企業価値を見極める際には、特定の手法にこだわらず複数のアプローチで比較するほうがより多角的な評価ができるようになります。慎重な投資を実施するためにも、異なる視点に基づいた複数の手法で評価を行うようにしましょう。

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M&Aでの企業価値の評価法

マルチプル法では特定の指標に対し、企業価値をシンプルに比較することが可能です。ただし、「5. マルチプル法のメリットとデメリット」で記載しているとおり、当該計算方法にはメリットとデメリットがあります。そのため、M&Aにおいて企業価値を評価する場合には単一の評価方法だけではなく、複数の評価方法を用いてそれらに重複する部分を意識した評価結果を導く事が重要です。
マルチプル法を用いる場合には、当該計算方法のメリットとデメリットをよく理解した上で企業価値を評価しましょう。

マルチプル法で計算してみよう

マルチプル法で計算してみよう

マルチプル法は企業価値を特定の指標で割って求める手法です。特定の指標が変わるとマルチプル法で求める数値も変わります。

PBRを用いた計算方法

PBRとは純資産に対する株式価値の倍率を示すマルチプル法の一種で、以下の計算式で求めます。

●PBR=株式の時価総額÷純資産

一時的な株価上昇でも時価総額は増えるため、時価総額だけで企業の価値を判断することは危険です。しかし、PBRを企業価値の判断指標に用いるならば、資本の効率性を加味することができるでしょう。

PERを用いた計算方法

PERとは純利益に対する株式価値の倍率を示すマルチプル法の一種で、以下の計算式で求めます。

●PER=株式の時価総額÷当期純利益

PBRでは純資産だけを加味して評価するため、利益が上がっている企業であっても借入金や設備投資などで純資産が増えていないならば数値としては反映されません。一方、PERでは当期純利益に対する時価総額を評価するため、その時点での業績が反映されることになります。

なお、PERを計算する際には、対象企業自身が保有する自己株式については時価総額を算出する際に含めません。自己株式は純資産から控除されるため、含めて計算すると株価の収益率が正確には計算できなくなります。

EV/EBITDA倍率を用いた計算方法

EV/EBITDA倍率は、企業価値(EV:enterprise value)をEBITDAで割って求めるマルチプル法の一種です(※)。EBITDAとは税金や金融機関等へ支払う利息、減価償却費を考慮しない利益のことで、異なる税制の国の企業と比較するときや、設備投資に左右されない利益を調べる際に用いることがあります。

●EV/EBITDA倍率=(株式の時価総額+純有利子負債)÷(純利益+支払利息+税金+減価償却費)

なお、EVを求める際に有利子負債から現金資産を差し引く場合が多いです。複数の企業間でEV/EBITDA倍率を比較する際には、現金資産を差し引くかどうかを含め算定ロジックを合わせておくようにしましょう。

※参照元:EBITDAマルチプルとは?類似企業と比較して企業価値を知ろう!

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マルチプル法のメリットとデメリット

マルチプル法のメリットとデメリット

マルチプル法を用いる際のメリットとデメリットを理解しておくことで、さらに適切に活用することができるでしょう。

【メリット1】計算が簡単

マルチプル法はいずれも企業価値を特定の指標で割って計算する手法です。計算式がシンプルで利用しやすいというメリットがあります。また、利用する項目が少ないため、万が一、計算ミスをしてもどこに間違いがあるのか見つけやすいでしょう。

【メリット2】相対的な評価が得られる

例えばPERを用いれば、複数の企業を相対的に評価でき、M&Aの際に買収相手を客観的に比較しやすくなるでしょう。

また、3社以上の企業を比較する際にはマルチプル法で求めた数値の平均値を出すと、それぞれの企業が比較対象企業の中で割安・割高なのかを評価することもできます。相対的に評価をしたいときには、マルチプル法は良い手法のひとつといえるでしょう。

【メリット3】将来価値も予測できる

株価はそのタイミングでの価値を示しているとされますが、期待値を含めた将来的な価値を示す数値でもあります。株価を計算式に含めるマルチプル法を利用することで、企業の将来的な価値もある程度予測できるといえるでしょう。

【デメリット1】計算者の視点が入る

企業価値を求める際の株価は特定のタイミングの数値を用いますが、どのタイミングを選ぶかは計算者の裁量によります。評価したい企業の株価が上昇したタイミングを選ぶことも想定されるので、計算者の視点によって数値に違いが出てくるでしょう。

また、どのマルチプル法を用いるかも、計算者の恣意性が働きやすいポイントです。評価したい企業に有利なマルチプル法を用いる可能性もあるので、複数の評価法を用いて客観性を高めるようにしましょう。

【デメリット2】類似会社を選びづらい

マルチプル法を用いて比較する企業は、事業内容や成長度合い、売上規模などが類似していることが求められます。複数の条件が類似している企業を選ぶことは容易ではなく、数値の比較が困難になることもあるでしょう。

【デメリット3】利用が適さないケースもある

マルチプル法では株式の時価総額を用いて企業価値を評価します。株価が大きく変動しているときなどは、どのタイミングで算出するかによって結果に大きなバラつきが生じるため、マルチプル法を用いた企業比較は適さないと考えられるでしょう。

まとめ

まとめ

マルチプル法には株式相場の変動が激しいときなどには利用しづらいというデメリットはありますが、簡単に企業価値を比較できる方法のため、活用の幅は広いです。特にPER、PBR、EV/EBITDA倍率はM&Aの際によく用いられる指標なので、企業価値を判断する際に活用していきましょう。

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関連動画はこちら「YouTube「企業価値算定の「マルチプル法」とは?M&A会社社長が徹底解説!」の動画を公開しました」
関連記事はこちら「M&Aの相場は計れる?買収価格の算出方法や価値を左右するポイント」

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