株式譲渡の手続きを行う方法
短期間で経営力や競争力のアップを図れる株式譲渡は、M&Aの中でも比較的メジャーな手法です。ほかの手法と同様に、さまざまな手続きを踏む必要があるため、手順をしっかりと把握して少しでもスムーズに進めることが重要です。ここでは、株式譲渡の手続きについて詳しく解説します。
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1.株式の譲渡制限の確認をする
まず行うことは、株式の譲渡制限の確認です。株式の譲渡制限とは、株式を売買する際に会社の承諾を必要とする定めのことを指します。
会社が株式の譲渡制限を定めているかは、登記簿謄本を調べれば確認できます。また、会社の定款に株式の譲渡制限があるかどうかで、手続き方法が変わります。株式の譲渡制限が定められている場合、会社の承諾なしには株式譲渡の手続きを進められません。
株式の譲渡制限が定められている場合、以下のような文章がありますので覚えておきましょう。
・株式譲渡の効力を主張するには、株主総会の承認を受ける
国内の非上場会社だと、定款に株式の譲渡制限を定めているケースがほとんどです。株式譲渡をする際には会社の承諾が必要であると考えてよいでしょう。
2.株式譲渡契約を締結する
株式を譲渡するには、株式譲渡契約の締結が必要です。株式譲渡は、譲渡する側と譲渡される側が合意して行われる取引です。譲渡契約書を作成し、書面で契約内容を明らかにして保管します。譲渡契約書には以下のような項目を記載するのが一般的です。
・譲渡の合意の内容
・株式譲渡代金、支払い方法、期日
・株式名簿の書き換えについて
・契約解除に関する事項
・損害賠償について
・競業阻止義務について
・合意管轄について
3.株式譲渡承認請求を行う
会社の定款を調査して株式の譲渡制限があると確認できた場合、株式譲渡承認請求が必要となります。
株式譲渡承認請求とは、株式を取得しようとする際、会社から承認をもらうための請求手続きを指します。株式譲渡承認請求を行う場合、特に決められた手続き方法はありません。「譲渡承認承諾書」を作成して、会社に提出するのが一般的です。
譲渡承認承諾書にも決まった書式はないため、どのように作成すればよいか悩む方も多いでしょう。作成する際には以下の項目を盛り込めばシンプルに作成して構いません。特に難しい書類ではないので、あまり気負わずに作成しましょう。
・譲渡する株式の種類と数
・譲渡相手方の住所や氏名
・自分の住所や氏名、捺印
4.取締役会(株主総会)を開催する
株式譲渡承認請求を行ったら、次は取締役会(株主総会)を開催します。この取締役会において、譲渡を承認するかどうか判断されます。取締役会設置会社の場合は取締役会ですが、取締役会を設置していない会社や特例有限会社の場合は株主総会になります。つまり、取締役会もしくは株主総会において、株式の譲渡承認決議が行われます。
譲渡承認を得ていない状態で譲渡制限株式の株式譲渡を行った場合、対象会社に対しての効力主張はできないので注意しましょう。ただし、会社側で株式譲渡の効力について争わないケースもあります。その場合、取締役会で譲渡承認決議がされなかったとしても、株式譲渡の効力が争われることはないので安心してよいでしょう。
5.株主名義の書き換えを行う
譲渡契約書を締結し、譲渡承認の決議がされたら、株主名簿の名義の書き換えを行います。株主名簿とは、株式を保有している方を把握するための名簿です。株式譲渡を行った場合、譲渡した株式について、株式名簿の名義を売り手から買い手へと変更しなくてはなりません。そのため、譲渡契約書では名義変更を確実に行う旨を記載する必要があります。
ただし、株式譲渡の承認が得られていない場合、株主名義の書き換えを拒否される場合があるので注意しましょう。
株式不発行会社の場合、株主名簿の書き換え請求は、買い手と売り手が共同で行うことが会社法で定められています。株券発行会社の場合、株券が交付済みであれば、株主名簿の書き換えは単独で行えます。
無償で株式譲渡を行う場合は?
無償で株式譲渡を行う場合でも、基本的に流れは変わりません。今回解説した流れで手続きを進めれば、問題なく株式譲渡ができます。
ただし、譲渡対価が0円になることに注意が必要です。無償で譲渡すると、「贈与行為」とみなされます。贈与の場合には贈与税が課されるため、税務的な対策や検討が必要となります。事前に贈与税がどのくらいの額になるのか、しっかりと把握することが重要です。また、手間もかかるので注意しましょう。
株式譲渡の手続きに必要な書類
株式譲渡を行う場合には、主に以下の書類が必要です。しっかりと把握しておきましょう。
・株式譲渡承認請求書
譲渡株式の譲渡人と譲受人が共同で対象会社に提出します。譲渡株式の種類、数、譲渡先といった項目を記します。
・株主総会招集通知
株主総会の決議で譲渡株式の承認が行われる場合に株主を招集する通知です。
・株主総会議事録
株主総会で決定した内容を議事録として残します。記す内容は、開催日時や参加者、議論の内容要約です。
・株式譲渡承認(不承認)通知書
会社で株式譲渡が承認された場合、譲渡人と譲受人の両方に株式譲渡承認通知書が送られます。不承認で買取人の指定を求められた場合、会社または会社指定の買取人に譲渡します。
・株式譲渡契約書
株式譲渡承認通知書を受け取ったら、株式譲渡契約書で締結を行います。
・株式名義書換請求書
譲渡人と譲受人が共同で作成し、会社に対して株式名義の変更請求を行う際の書類です。
・株主名簿
株主の氏名や法人、住所、数が記載されています。
・株主名簿記載事項証明書交付請求書
譲受人はこの書類を利用して、譲渡株式が自分の名義に変更されているかを確認します。
・株主名簿記載事項証明書
株主の氏名や住所、種類、保有数が記載されており、会社の株主であることを証明するための書類です。
・取締役の決定書
取締役会で決議した内容を証明します。
株式譲渡契約書に必要な基本項目
取締役会や株主総会で株式譲渡が承認されたら、株式譲渡契約書を作成して契約を締結し、正式に株式譲渡となります。株式譲渡契約書には盛り込むべき事項があるため、しっかりと把握しなければなりません。
必要な基本項目は「譲渡の合意」「譲渡金の支払い手段」「名義の書き換え」「表明保証」「契約の解除」の5つです。それぞれについて詳しく見ていきましょう。
譲渡の合意
まずは、譲渡の合意です。譲渡に関わる株式の内容や数について、譲渡人から譲受人への譲渡を確認するために記載します。記載する事項は以下のとおりです。
・どの会社の株式を譲渡するのか(住所や会社名)
・譲渡対象の株式の数
・譲渡価格はいくらか
・株式の種類(普通株式や議決権制限株式といった種類を記載)
中には、株式譲渡の目的を記載するケースもあります。その場合、「対象会社の経営権を譲受人へと引き渡すことを目的として」といったように記載します。
譲渡金の支払い手段
次に記載するのは、譲渡金の支払い手段についてです。譲渡金の支払い方法と支払い期限を書く必要があります。
具体的には、「譲渡日において1株○○円、譲渡の対価として○○円を、指定する金融機関の口座に振り込むものとする」といったように記入します。文章の下部に指定の銀行名や口座種類、口座番号、口座名義人を記しましょう。
株券発行会社の場合、譲渡金の支払いと引き換えに株券を売主から買主へと交付する旨の記載が必要です。
名義の書き換え
株式譲渡契約を締結したら、譲渡した株式の名義を売主から買主へと書き換える請求を会社にしなくてはなりません。そのため、株主名簿の名義の書き換えについても記載します。
株券不発行会社の場合、売主と買主が共同で株主名簿の書き換えを請求することが法律で定められています。そのため、譲渡代金と引き換えに買主捺印済みの株主名簿名義書換請求書を交付する旨について記載するのが重要です。
表明保証
表明保証は譲渡契約書の中でも重要な事項のひとつです。譲渡する株式について、売主が買主に保証する内容を記載します。保証には以下のようなものがあります。
・売主が譲渡株式の所有者であること
・譲渡株式に質権その他第三者の権利が設定されていない
・株券発行会社の財務内容が、直近の会計年度末における決算書類と相違ない
・発行会社が適正な税務申告をしており、課税処分を受ける恐れがない など
契約の解除
契約の解除は、買主または売主側から契約解除を申し出る際の定めを記載します。記載すべき事項は「解除事由」と「解除した場合の処理」についてです。解除事由として以下のような事項を記載します。
・買主または売主の破産
・株式譲渡が会社に承認されない場合
・買主が代金を支払わない場合
・売主が株券の引き渡しを行わない場合
・売主が表明保証した内容が実際と著しく異なっていた場合
解除した場合の処理は「売主から買主への譲渡代金の返還」や「解除原因について責任がある当事者の損害賠償責任」といったものです。
株式譲渡を行う際の注意点
株式譲渡を行う際には注意すべきことがあります。「株券発行会社の場合は株券の交付が必要」「譲渡益が発生すると課税対象となる」の2点です。しっかりと理解しておかないと、株式譲渡を締結した際に不利益が生じる場合があります。詳しく解説するので、ぜひチェックしてみてください。
株券発行会社の場合は株券の交付が必要
株券発行会社の場合、株券の交付が必要です。株券を交付しないと、株式譲渡の効力が否定されてしまうので注意しましょう。
昨今では、株券を発行しない会社も増えています。以前はすべての株式会社で株券の発行が義務付けられていましたが、平成18年の会社法施行によって株券の発行は必ずしも必要でないと定められました。
一方、株券不発行会社であれば株券の交付の必要はありません。譲渡人と譲受人の合意のみで株式譲渡の効力が発生します。
株券発行会社か株券不発行会社かは、法人登記を参考にしましょう。「株券を発行する」と記載されていれば、株券発行会社として設立していることになります。
譲渡益が発生すると課税対象となる
個人において株式譲渡によって譲渡益が発生した場合、所得税と住民税の課税対象となるので注意しましょう。上場株式等にかかわる譲渡所得等の金額と一般株式等にかかわる譲渡所得等(譲渡益)の金額の計算方法は以下のとおりです。
・総収入金額(譲渡価額)-必要経費(取得費+委託手数料等)
譲渡益が発生した場合、以下に記した税率で株式譲渡の税金が算出されます。
区分 | 税率 |
上場株式等にかかわる譲渡所得等 | 20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、住民税5%) |
---|---|
一般株式等にかかわる譲渡所得等(譲渡益) | 20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、住民税5%) |
無償で株式譲渡した場合は「贈与」扱いとなるため、贈与税が課されます。また、時価と大きく離れた額で取引した場合、税務上の問題が起こるかもしれません。M&Aアドバイザリーにサポートしてもらうと安心です。
株式譲渡の手続きに関するQ&A
株式譲渡契約を締結するには、さまざまな手続きが必要です。複雑でややこしい手続きが多く、いろいろな疑問が生じることもあるでしょう。ここでは、株式譲渡の手続きに関するQ&Aをご紹介します。株式譲渡において特に多い質問なので、ぜひ参考にしてみてください。
Q.有限会社でも株式譲渡はできる?
有限会社でも株式譲渡は可能です。ただし、有限会社の場合には注意すべき点がいくつかあります。
平成18年に会社法が施行されて以降、新規で有限会社は設立できません。既存の有限会社は手続きをすれば株式会社になれますが、そのまま有限会社として存続することも可能です。その場合、「特例有限会社」として取り扱われます。
特例有限会社は、法律上は株式の譲渡を受ける際に会社の承認が必要な「株式譲渡制限会社」です。譲渡制限株式の廃止は不可能で、出資者の同意で廃止にすると決めても無効決議と扱われるので注意しましょう。
Q.株式譲渡で損益通算はできる?
株式譲渡において損益通算ができるのは上場企業の株式譲渡のみとなります。損益通算とは、一定期間に発生した利益と損失を相殺する方法です。確定申告で損益通算を利用すると、所得税や住民税に関して節税効果が生まれます。
なお、株式譲渡には多くの税金がかかります。株式譲渡で対価を得ると「譲渡所得」と見なされるため、所得税や住民税を支払わなければなりません。法人が株式譲渡をすると、「法人税」の対象となります。
Q.株式の税法上の価格はどうやって決めればいい?
株式の税法上の価格決定方法には「純資産価額方式」「類似業種比準方式」「配当還元方式」の3つがあります。
純資産価額方式は、純資産額をそのまま評価額とする方法です。帳簿上の純資産額をそのまま使用するのではなく、時価を反映して算出します。
類似業種比準方式は、同一業種で同一規模の企業と比較して価格を決定する方法で、国税庁が定めた基準で価格を決めます。
配当還元方式は、株式の配当額から1株あたりの評価額を算出する方法です。配当金と資本金のみで算出します。
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まとめ
株式譲渡をすると経営力がアップし、市場環境の変化や時代の流れに対応しやすくなります。激しい競争の中で生き抜くためには、株式譲渡は有用な手法であるといえます。
しかし、いざ実施するとなると多くの手続きや書類作成が必要で、想像以上に手間がかかります。さらに、手続きが複雑であるため不明点が次々と出てきて、計画がスムーズに進まないかもしれません。
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