遺産相続の手続き期限はいつまで?期限を超えるとどうなる?

税理士 藤本絢

新卒で大手証券会社へ入社。中小企業経営者、医師等の富裕層に向けた資産運用コンサルティング業務に従事する。会社経営、資産管理の面からお客様により役立てる存在になりたいと考え、税理士を志す。その後、大手税理士法人にて、法人顧問業務、相続税申告業務、事業承継コンサルティング等幅広い会計・税務に携わる。2022年友好的承継を掲げる株式会社M&A DXに入社、現在に至る。

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遺産相続は様々な書類を集めて、各機関が定める様式にしたがって作成しなければならないので手続きに時間がかかってしまいます。
また、遺産相続には手続きの期限があるものと期限がないものがあり、期限を過ぎてしまうと出費がかさんでしまったりして最終的に手元に残るお金が少なくなってしまいます。

この記事では遺産相続の手続きの期限があるものの紹介と注意点を分かりやすく解説します。

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遺産相続の手続き期限

遺産相続の手続き期限

まず、遺産相続の期限を考えるに当たって、基準となる日をはっきりとさせておく必要があります。

この手続きは何ヶ月以内や、何年以内と記されているものの、いつから何年以内なのか知っておかなければなりません。
遺産相続の手続きの期限を計算するのにまず必要な基準となる日は、相続があることを知った日です。
多くのケースの場合は、被相続者にあたる人が亡くなった日が相続があることを知った日ということになります。

しかし、連絡を取り合っておらず、亡くなっていたことを知らなかった場合は亡くなった日から数えて計算するということはなく、亡くなったことを知った日から計算します。
例えば一人暮らしのお年寄りなどが亡くなって、親族が分からないというケースなどは親族が見つかり、相続があることが発覚して相続人に連絡がついた日から数えます。
以上のような基準日を踏まえたうえで、ここではまず期限が設けられている手続きと特段期限が設けられていない手続きについて紹介します。

関連記事「相続手続きには期限がある?期限ごとに手続きの内容を紹介

期限のある手続き

遺産相続の中で期限のある手続きは以下の通りです。

相続放棄、限定承認
準確定申告
相続税の申告、還付
遺留分侵害額請求
生命保険の受け取り

相続放棄、限定承認

相続放棄と限定承認は、相続する財産に借金が含まれている場合、このような手続きをします。
相続放棄とはプラスの資産がどんなにあっても相続をしないということで、3ヶ月以内に手続きを実施しなければなりません。
つまり、法定相続人が何も手続きをせずに3ヶ月経過してしまうと、自動的に相続したとみなされます。限定承認とは、相続によって得たプラス財産の限度において、被相続人の債務などのマイナスの財産を相続することをいいます。

いずれも被相続人が、事業などをやっていて借金などを抱えていた場合に実施する手法になります。
特に何もしないと被相続人が持っていたすべての借金を背負うことになってしまうので、借金があるとわかっている場合はなるべく早めに手続きをしなければなりません。

準確定申告

準確定申告とは、亡くなった被相続人がその年に確定申告をしなければならなかった場合に、相続人が代わって確定申告をすることです。
準確定申告の期限は相続があると知った日から4ヶ月以内になります。

被相続人が特に仕事をしていないなど、収入がなかった場合は準確定申告はする必要がありません。

また、公的年金の収入が400万円以下の場合は確定申告は不要なので、被相続人が普通に年金暮らしをしてるだけだと基本的には不要です。
しかし、被相続人が亡くなった年も仕事をしていて収入があるなど、確定申告が必要な場合は、相続人が、準確定申告をする必要があります。

準確定申告をしなければならない条件

被相続人が事業を営んで確定申告していた場合
被相続人に副収入があり確定申告義務があった場合
被相続人の給与額が2000万円以上となっており、確定申告義務があった場合

これらの条件を満たしていれば相続人は被相続人に代わって確定申告をしなければなりません。
しかし相続人にとってもメリットがある場合があり、準確定申告をするとお金が戻ってくるケースもあります。

相続税の申告、還付

相続税の申告は10ヵ月以内で、相続税の更正の請求は5年10ヶ月以内です。
相続税は10ヵ月を過ぎると延滞税がかかってしまい相続税の額がどんどん増えていってしまいます。

延滞税の額は年によって異なります。
延滞税や住宅ローンなどの利子は年利の日割りで毎日少しずつ加算されていきます。
つまり100万円の支払い義務があり、年利10%だとすると年間で10万円利子が加算されますが、ある日突然10万円増えるわけではなく、毎日均等に追加されていきます。
10万円の場合は10万(円)÷365(日)でおよそ273円が期限を超えると毎日増えていくという仕組みです。

相続税の申告が10ヵ月以内なので、すべての相続を10ヵ月以内に終わらせておく必要があります。
しかし相続税には基礎控除制度があり、3000万円以下の少ない金額の相続であれば相続税はかかりません。
正確には相続税の基礎控除額「3,000万円 +( 600万円 × 法定相続人の数 )」以下であれば申告は不要になります。
「相続税の更正の請求」とは、相続税を多く払ってしまった場合、申告すれば返ってくるという制度です。

つまり誤って多く納税してしまった場合でも5年10ヶ月以内であれば戻ってくる可能性があります。
特によくあるのが不動産の評価額で、専門家が改めて不動産の評価額を計算すると自分たちで申告した評価額よりも安くなり、相続税が安く済むというケースがあります。
不動産の相続がある場合は、専門家に計算をお願いした方がいいでしょう。
5年の猶予はあるので、まずは一旦期限までに多めに納税しておいて改めて計算をやり直すというやり方も可能です。

遺留分侵害額請求

遺留分侵害額請求とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に認められる権利で、最低限の金額の相続ができるという権利を家庭裁判所に訴えて行使することです。
法定相続人には最低限認められる遺産の取得割合があり、遺言書に一部の法定相続人には一切相続はしないと書かれていても法定相続人には相続をする権利が認められています。
例えば遺言書に「遺産は全て長男に渡し、次男には一切渡さない」と書かれている場合、次男が遺留分侵害額請求をすると、最低限の額は相続することが可能です。

このような時に法定相続人のひとりが、明らかに不公平な相続だと感じた時に家庭裁判所に請求することを遺留分侵害額請求といいます。
遺留分侵害額請求の期限は遺留分侵害の事実を知ってから1年です。

ただし相続が開始されてから10年経過した後に気がついても無効となります。
法定相続人は亡くなった人の配偶者、子供、両親、兄弟姉妹となりますが、このうち兄弟姉妹は遺留分侵害額請求はできません。

相続が開始されてから10年までは遺留分侵害額請求をすることができますが、10年経たなくても時間が経過しているとすでに遺産がなくなっている場合があります。
もちろん、相続をした人がすべての遺産を使い切っても、法定相続人には遺留分侵害額請求をする権利はありますが、全くお金のないところから請求することは現実的ではありません。遺留分侵害額請求は期限内であってもなるべく早めに実施することが推奨されています。
遺産の相続とは少し異なりますが、生命保険の受け取りも相続が発生したときに同時に起こることです。

生命保険の受け取り

生命保険の受け取りの期限は3年以内です。
相続の手続き等で忙しく手続きをせずに放置しておくと、保険金を受け取れなくなってしまう可能性があるので注意しましょう。

生命保険で受け取った保険金は、被保険者、保険料の負担者および保険金受取人が誰であるかにより、所得税、相続税、贈与税のいずれかの課税の対象になります。それぞれ納税の仕方が異なるのでこの点でも注意が必要です。

特に期限のない手続き

特に期限のない手続きは以下の通りです。

遺言書の検認
遺産分割協議、調停、審判
相続登記(2023年まで)

遺言書の検認

遺言書の検認とはその遺言書が正式な遺言書であるかどうかを家庭裁判所が認めるということです。
遺言書のうち、「公正証書遺言」として公証人役場で正式に作成された事業所は家庭裁判所からの検認をもらう必要はありません。
しかし「自筆証書遺言」や「秘密証書遺言」という形であれば家庭裁判所から検認をもらわなければ正式な遺言とは認められません。

家庭裁判所から検認をもらえるポイントはいくつかあり、パソコンで作成するだけではなく自筆で書いておくことなどいくつかのルールがあります。
家庭裁判所から検認がもらえなければ正式な遺言書とは認められません。
しかしながら遺言書に書かれている内容について、法定相続人の全員が納得している内容であればその内容をそのまま遺産分割協議の内容として通すこともできます。

また兄弟以外の法定相続人には、遺留分侵害額請求をする権利があるので、遺言書の内容が1人の相続人に偏っている場合などは、家庭裁判所の検認をもらってもその通りになるとは限りません。
遺言書の検認には期限はありませんが、その後の相続税の申告等の手続きには期限があるので、遺言書の検認は早めにしておかなければなりません。
家庭裁判所の検認にはおよそ1ヵ月かかるので、相続税の申告期限のギリギリに検認を依頼をすると、申告期限を超えてしまい、延滞税がかかる場合があるので、注意が必要です。

遺産分割協議、調整、審判

遺産分割協議は相続人全員でやらなければならない協議です。
相続を放棄する場合であっても遺産分割協議には参加しなければならず、全員同意の上で遺産分割の内容を決める必要があります。
決まらない場合は調停をして、審判を待つことになります。
この遺産分割協議から調停、審判までの流れには特に期限はありません。

相続登記(2023年まで)

相続登記とは不動産を相続した後に不動産の名義を変更するということです。
相続登記にも期限はありませんが、2024年から相続登記が義務化され登記期限も3年以内となる予定です。
罰則として登記をしなければ100,000円以下の科料も設けられる予定です。

相続登記は放置しておくと相続を受けた人も亡くなったことで二次相続も発生してしまい、登記上の名義人の数が次々に増えていきます。
不動産を売却することなく使っていくだけであれば特に支障はありませんが、売却をする時や銀行からの担保に使うときは登記名義に書かれている人全員の了承を得なければなりません。

名義人の人数が増えると連絡を取らなければならない相手が大勢出てくるので、不動産を売却することが難しくなってしまいます。
2024年以降は義務化もされるため、手続きが煩雑になる前になるべく早めに済ませておきましょう。

期限が過ぎた場合に生じる注意点

遺産相続の手続きの期限が過ぎた場合に生じる注意点は主にどのようなところにあるのでしょうか。
ここでは期限が過ぎた場合に生じる注意点と、専門家に相談するタイミングについて解説します。

デメリット

期限が過ぎた場合の主なデメリットとしては、受け取る金額が少なくなってしまうという点です。
そのほか相続登記などでは二次相続が発生してしまうとさらに手続きが煩雑になってしまいます。
相続をする際にほとんどの人が避けて通れないのが相続税の申告ではないでしょうか。
相続税の申告は相続の事実を知ってから10ヵ月以内にしないとそれ以降は延滞税が加算されていきます。
他にも住宅ローンや、事業をやっていたときの借金がある場合は本人が亡くなっていても毎日日割計算で少しずつ利子はついていきます。

時間が経つごとに最終的に手にすることができる金額は減っていくので遺産相続の手続きはなるべく早めにした方が良いでしょう。

専門家に相談するタイミング

専門家への相談は、相続に関してトラブルが発生する時に弁護士に依頼する場合と、手続きを代行してもらうために税理士などに依頼する場合の二つのパターンが考えられます。
トラブルに発展しそうな時に弁護士に相談するタイミングとして考えられるのは以下の通りです。

・他の相続人との仲が悪い、相性が悪いと感じているとき
・他の相続人の連絡先が分からないとき
・他の相続人の連絡先はわかるが、色々な事情で、連絡をとりたくないとき
・他の相続人のうち、行方不明の相続人がいるとき
・他の相続人が返事をくれないとき(もしくは何を考えているのかわからないとき)
・他の相続人が自分抜きで、勝手に遺産分けの話を進めていると感じるとき
・予想していたよりも明らかに遺産の額が少ないとき
・遺言があると聞いていたが出てこないとき(もしくは、聞いていた話と違う内容の遺言が出てきたとき)

上記のように何か相続に関してトラブルが起きそうな場合は、早めに弁護士に相談しておいた方が良いでしょう。

弁護士に相談するタイミングが遅いとさらに問題がこじれたり、相続税の申告期限を過ぎてしまったりさらに問題解決が難しくなってしまう可能性があります。
また弁護士に相談せずにスムーズに相続ができそうな場合であっても、不動産の相続がある場合は専門家に相談したほうが安くなるケースがあります。

不動産を相続するときは不動産評価額をもとに相続税の額が決まりますが、この不動産評価額の額は専門家に依頼した上で決めた方が、自分たちできめるよりも、報酬を含めても費用が安くなるというケースがあります。

不動産相続の専門家は司法書士です。
一般的に弁護士よりは司法書士の方が報酬が安価で済むので、司法書士でできることはなるべく司法書士に依頼するようにした方が良いでしょう。
相続税が発生するような場合は、専門家に依頼した方がいいのは間違いありませんが、相続税が発生しないような場合は、自分たちだけで手続きをすることも可能です。
相続登記も司法書士などの専門家に相談するのではなく、法務局の窓口に行って相談することもできます。
必要な書類をしっかり集めて、法務局に行って指示通りに記入すれば良いので特に難しいことはありません。

また専門家に依頼しても全ての手続きの代行をしてもらえるというわけではなく、戸籍謄本の取得などは自分たちでやらなければなりません。
そのため専門家への依頼は、相続財産の額が大きい時か、相続人同士でトラブルが発生しそうな時に依頼するようにしたら良いでしょう。

専門家へ遺産相続を依頼する際の注意点

相続問題は個別に事案によって必要とされる対応が大幅に異なってきます。加えて相続手続きに関わる専門家には前述の通り弁護士、税理士、司法書士、行政書士等ですが、それぞれ扱える仕事の範囲が限定的です。相続問題を適切な解決にするためには、

①自分が困っている内容を専門家が扱えるのか
②対応実績が豊富な専門家か
③他の士業などとの連携があるか

上記3点が特に重要になってくるでしょう。③については抱えている問題によっては、相談した専門家では対応しきれない場合がございます。個別の専門家に依頼するのは大きな負担となります。そのため、専門家を選ぶ際には、他士業との連携があるかどうかが重要なポイントとなります。

まとめ

遺産相続の手続き期限について解説しました。
亡くなってすぐに遺産相続について話をするのは少し抵抗があるという人がほとんどではないでしょうか。
相続税の納付の期限は10ヵ月以内なので、10ヶ月は猶予があるので亡くなってから1ヵ月は控えておいてもいいかもしれません。
しかし被相続人がまだ住宅ローンを抱えているなどマイナスの遺産がある場合は、時間が経つごとに少しずつ利子が加算されていきます。
マイナスの遺産がどれぐらいあるのかもしっかりと調べてみないと分かりません。

マイナスの遺産の利子が重なり、相続の額が減らないようにするためになるべく早めに遺産相続の手続きはしておいた方が良いでしょう。

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関連記事はこちら「相続登記とは?必要な理由・自分でやる方法・費用・必要書類・リスクを解説」

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