資金繰りが悪化する9つの原因と改善のために取るべき選択肢

会計士 加藤大典

大手自動車メーカーに入社、生産技術部にて製造工程設計業務に携わる。その後、デロイトトーマツコンサルティングに入社し、組織再編により有限責任監査法人トーマツのアドバイザリー部門に異動。製造業の法定監査業務及びIFRS導入支援、組織再編支援、事業再生支援、内部統制構築支援、決算早期化支援、経営管理体制強化支援等の様々なプロジェクトに従事。

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資金繰りの悪化とは、キャッシュフローに何らかの問題が発生して事業資金に影響が出ることを指します。資金繰りが悪化する原因はさまざまですが、放置すると経営破綻に至りかねない危険な状況です。

経営者の中には、自社の資金繰りが悪化して悩んでいる方もいるのではないでしょうか。そこでこの記事では、資金繰りが悪化する主な原因と対策を紹介します。自社の資金繰りが悪化した原因をきちんと理解すれば、適切な対策を講じて経営を立て直せるでしょう。

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資金繰りが悪化する9つの原因

資金繰りが悪化する9つの原因

資金繰りの悪化と聞くと売上の低迷を思い浮かべますが、原因はそれだけではありません。ケースによっては、複数の原因が絡み合っていることもあります。資金繰りを改善するには、悪化した原因を追及して適切に対処しなければなりません。自社がどのケースに該当するか確認し、対策に役立てましょう。

【原因1】赤字経営になっているから

赤字経営が資金繰り悪化の原因になっていることは多々あります。決算で発生した赤字は、赤字額分の損失が生じたことを示すものです。赤字であることがすぐに資金不足につながるわけではありませんし、一時的な赤字のケースでは大きな問題にならないこともあります。しかし、継続的に本業による収入よりも費用がかさみ赤字が発生すると、それにともない資金流出が生じます。資金流出が増えると追加の資金調達が必要となり、場合によっては負債が積み重なります。赤字経営による資金繰りの悪化を改善するには、負債を減らし、資金を獲得することです。

【原因2】投資の失敗や過剰な投資をしている

設備投資や資金運用の一環として不動産投資や株式投資をしている場合、失敗による損失が資金繰りを悪化させることがあります。設備投資をしたものの思ったほど売上が伸びないことや、投資のリターン投資資金を回収できないこともあるでしょう。何らかの投資をするときには、投資金額に見合ったリターンを得られる可能性がどの程度あるのかを精緻に分析する必要があります。

【原因3】売掛債権の貸倒れがある

取引先が倒産するなどの原因で、売掛金を回収できなくなるケースに注意しましょう。これを貸倒れといい、回収できなければ手元に資金が入りません。商品やサービスなどの価値を提供したにもかかわらず代金を回収できない場合と、コストを負担しただけになります。貸倒れの発生率を下げるために取引開始前には与信審査をきちんと行い、取引条件や回収方法について検討する必要があります。

【原因4】不良在庫が増加している

仕入れた商品が予定通りに売れず、長期間の滞留在庫となることがあります。不良在庫は仕入コストを支払ったものの支出分を回収できていない状態になります。在庫商品を保管するための倉庫代など、不良在庫の増加による支出の増加も資金繰りが悪化する原因になります。在庫が増加傾向ならば、仕入量・仕入内容を見直すなどして適正在庫を保つようにしましょう。

【原因5】回収期間と支払期間のバランスが悪くなっている

回収期間と支払期間にずれがあり、回収期間が支払期間と比べ長期のケースも資金繰りが悪化する可能性があります。例えば販売先からの代金回収が2か月後に対して仕入先に支払うのが1か月後になっているなど、回収よりも支払いが早いケースに注意しましょう。

このようなケースでは、経営は黒字にもかかわらず手元に資金がなく、仕入先に代金を支払えないことがあります。黒字倒産に至りかねないので、仕入先・販売先に交渉するなどの対策をしましょう。

【原因6】借入金の返済額が増えている

金融機関からの借入金が増えると、その分返済額も増加します。目安として、返済額が減価償却費+税引後純利益の数値を超えると資金繰りが悪化するので、金融機関から追加で融資を受けるときには十分に確認しましょう。すでに借入金によって資金繰りが悪化しているなら、返済スケジュールを見直すなどで返済額を調整してキャッシュフローへの悪影響を軽減しなければなりません。

【原因7】売上が急激に変動している

売上が急激に変動したケースでも資金繰りが悪化します。売上が減少して赤字になった場合はイメージしやすいでしょう。しかし、売上が増加していれば問題がないというわけではありません。売上を伸ばすための投資をしている場合には要注意です。前年と比べ売上が増加したとしても、売上を伸ばすための投資見合ったリターンを得ていなければトータルで資金繰りが悪化します。

【原因8】利益配分のバランスが悪い

利益に見合っていない役員報酬や株主への配当は、キャッシュフローに大きな影響を及ぼす要素です。赤字決算の場合にも、本業で獲得した利益と比べ多額の役員報酬を支払っている場合など、利益配分を見直し適切に設定すれば利益が出る場合もあります。利益配分のバランスが悪いなら、役員報酬などを見直して適切な水準にしましょう。

【原因9】資金繰りを意識していない

資金繰りをきちんと管理しておらず、状況を把握していないといつの間にか悪化することがあります。管理していないために資金繰りが悪化する兆候に気付くのが遅れることもあるでしょう。自社の資金繰りを把握していないなら、把握できるようにきちんと帳簿を管理して定期的に見直します。資金繰りが悪化する兆候を発見したら、速やかに対処しましょう。

資金繰りの悪化状況を確認する方法

資金繰りの悪化状況を確認する方法

経営破綻を防ぐには、資金繰りが悪化していることに気付いたら速やかに状況を確認して改善する必要があります。そのためには「現金預金」「売掛金」「棚卸資産」「買掛金と支出の予定」の4つをチェックしましょう。それぞれどのように確認すれば良いのか解説します。さらなる資金繰りの悪化を防ぐためにも、可能な限り早く対処するのがおすすめです。

現金預金の状況をチェックする

自社が保有する銀行口座の預金を確認し、減少傾向にある場合は注意しましょう。現金預金が減少する原因は主に以下の通りです。

・利益の減少
・売掛金の増加
・棚卸資産の増加

その他にも設備投資や借入金の返済など銀行口座の減少要因はあるものの、基本的に黒字決算が続いていれば、現金預金は増加します。減少していれば何らかの要因が考えられるので、きちんと分析しましょう。

売掛金の回収状況をチェックする

売掛金は回収しなければ、現金として手元に入ってきません。従って、売掛金の滞留に伴う売掛金の増加や回収期間が長期間の売掛金が増加すると資金繰りが悪化する要因となります。回収期限通りに回収できなければ黒字倒産の原因にもなるので、売掛金の回収状況を把握し期日通りに回収できているか管理していく必要があります。

一方で、売上の増加に比べて売掛金の増加が緩やかなら資金繰りが良好です。その状態を維持できるように経営することをおすすめします。

棚卸資産の状況をチェックする

棚卸資産は商品・製品や材料等の在庫を示すものです。年間の取引規模と比べ必要以上に棚卸資産が増えると仕入コストや保管コストがかさみ、資金繰りが悪化につながります。棚卸資産は、販売し売上債権を回収するまでは現金化できないことも意識しましょう。取引規模の増加するペース以上に棚卸資産が増えれば、資金繰りは改善しません。棚卸資産の回転率などを管理して大量の在庫を抱え込まないようにしましょう。

買掛金や支出の予定をチェックする

買掛金は企業活動における大きな支出のひとつです。売掛金を回収する前に買掛金を支払うケースが多いため、支払いのタイミングで十分な現金を確保していないと資金繰りが悪化します。買掛金をはじめとした支出の予定をチェックし、必要な資金をきちんと確保しましょう。場合によっては資金調達や売上債権の割引償還などを検討する必要が出てきます。

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資金繰り悪化を改善するための選択肢

資金繰り悪化を改善するための選択肢

すでに資金繰りが悪化している場合には、経営破綻を避けるためにも速やかに改善策を講じましょう。資金繰りを改善する方法はさまざまです。ここでは具体的な方法を7つご紹介します。その中から自社の状況を分析して適切なものを選択しましょう。早く行動すれば、その分経営のダメージが少なくなります。

融資を受ける

資金繰りを改善する方法のひとつが融資です。金融機関などから融資を受ければ手元の資金が増加し、当面の資金繰りを改善できます。融資を受ける際に覚えておきたいメリット・デメリットは以下の通りです。

メリットレバレッジ効果でより大きな利益を狙える
デメリット赤字経営など、理由によっては融資を受けられない可能性がある
期日通りに返済しなければならない
担保を求められるケースがある

融資によって利益率を高めれば資金繰りを改善できますが、その分利息の支払いに加え、元本の返済負担が発生します。融資を受ける前には、きちんと返済できるか試算しましょう。日本政策金融公庫の代表的な融資制度には以下のものがあります。

一般貸付運転資金・設備投資資金などを融資する
中小企業経営力強化資金1.次のすべてに該当する場合
・異分野の中小企業と連携して新規事業分野の開拓を行う
・自ら事業計画の策定を行い、認定経営革新等支援機関の指導・助言を受けている場合
2.次のすべてに該当する場合
・「中小企業の会計に関する基本要領」または「中小企業の会計に関する指針」を適用している方又は適用する予定である場合
・事業計画書を策定している場合
上記2点を満たしている場合に、設備資金と運転資金の融資を受けられる
セーフティネット貸付(経営環境変化対応資金)社会的、経済的環境の変化等外的要因により、一時的に売上の減少等業況悪化をきたしているが、中長期的にはその業況が回復し発展することが見込まれる会社で一定の要件を満たした場合

雇用調整助成金を申請する

国の雇用調整助成金とは、経済上の理由で事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、雇用の維持を図るための休業手当に要した費用を助成する制度です。雇用の維持を目的とした制度なので、以下の条件を満たしている場合に受けられます。

・雇用保険の適用事業主である
・売上高又は生産量など事業活動を示す指標について月平均値(最近3か月間)が前年同期に比べて10%以上減少している
・雇用保険被保険者、派遣労働者の増加数が厚生労働省の基準内に収まっている
・雇用調整が一定の基準を満たしている
・過去1年以内に雇用調整助成金を受給していない

雇用調整助成金を申請するメリット・デメリットは以下の通りです。メリット・デメリットの双方を把握した上で制度を利用しましょう。

メリット従業員満足度を高められる
雇用を維持して将来的な事業拡大に備えられる
デメリット対象外の労働者が発生する可能性がある
条件を満たしていなければ受給できない

支払いサイクル・返済サイクルを見直す

買掛金の支払いや、借入金の返済スケジュールと比べ売掛金の回収期間が短い場合には、資金が不足しやすくなります。それぞれのスケジュールがずれている場合は、締め日や支払日を交渉して既存の期日よりも長い期間へ変更し、サイクルを調整して資金繰りを改善しましょう。

借入金の返済スケジュールに無理があるケースでは、金融機関と相談してスケジュールの見直しをするのがひとつの方法です。返済額の減額や返済期間の延長が認められれば、資金繰りを改善しやすくなります。

増資をする

増資とは、株式を発行して資本金等を増資することです。融資は金融機関などから借り入れをしますが、増資は発行した株式を出資者が引き受けることで資金を調達します。増資方法は以下の3つです。

・株主割当増資:既存の株主全員に発行した株式を割り当てる
・公募増資:新たな出資者を募集する
・第三者割当増資:企業の関係者(取引先など)から出資者を募集する

増資すると持ち株比率が下がって経営しにくくなるなどのデメリットもありますが、返済する必要がないなどのメリットもあります。

休業する

営業するほど赤字が増加するなど、危機的な状況に陥っているなら休業するのも有効な選択肢です。休業によって対策の時間を稼ぐとともに、雇用調整助成金などを活用して資金繰りを改善できます。休業にもメリット・デメリットがあるので、決断する前にチェックしましょう。

メリット雇用契約が継続するので、労働者が流出しにくい
人件費を削減できる
デメリット休業手当の支払い義務がある

休業すると労働者に休業手当を支払わなければなりませんが、平均賃金の60%以上を支払えば問題はありません。営業を継続する場合に比べてコスト負担を軽減でき、赤字の拡大を抑えられます。

廃業する

業績改善の見込みがなく、経営破綻を避けるのが難しいケースでは廃業もひとつの選択肢です。廃業すれば負債が膨らむことはないので、資産を守ることにもつながります。廃業するメリット・デメリットは以下の通りです。

メリット負債が膨らむ可能性がない
経営破綻よりダメージを軽減できる
ある程度の資産を保護できる
デメリット事業が消滅する

廃業は経営破綻よりダメージが少ないものの、事業の消滅には変わりありません。労働者の雇用が失われたり、取引先に大きな影響を及ぼしたりする可能性もあります。

M&Aで再生

経営破綻や廃業に至りそうな状況でも、M&Aを利用し再生することができる可能性があります。M&Aとは企業の合併や買収のことで、事業譲渡や株式譲渡などを含みます。資金繰りの悪化で経営破綻をしそうな場合でも、一部の事業のみの譲渡が可能です。M&Aのメリット・デメリットは以下の通りです。

メリット事業を残せる
シナジー効果による発展を見込める
デメリット譲受企業が見つからなければ、M&Aが成立しない
譲渡価格が安くなる可能性がある

M&Aが成立すれば、譲受企業の元で事業を継続します。自分が経営から身を引いても従業員の雇用を守れる点と既存の事業を残せるのは大きなメリットと感じる方もいるでしょう。従業員自身もM&A成立後に譲受企業の元で働けることが多いため、こちらも大きなメリットです。

資金繰りが悪化した企業を売却するコツ

資金繰りが悪化した企業を売却するコツ

資金繰りが悪化した状態でM&Aを検討するなら、いくつかのポイントを押さえなければなりません。ここからは、M&Aに臨むときにチェックしたいポイントを5つ解説します。資金繰りが悪化していても、譲受企業が事業の将来性や人材の価値を評価すればM&Aが成立する可能性があるでしょう。

1.広く情報開示する

譲受企業がM&Aを実行しても良いか判断する基準は、現状の財政状態及び経営成績も重要ではありますが、将来的な利益がより重要となります。将来の収益性を予想するためには、譲渡企業に関するさまざまな情報を知らなければなりません。資金繰りが悪化しているなら、譲受企業はより慎重に判断します。従って、M&Aを成立させるには将来的な利益を予想しやすくするために必要な情報を出し渋ることなく開示することが重要です。

2.業績不振の理由を客観的に伝える

譲受企業は「なぜ資金繰りが悪化しているのか」を知りたいと思っています。正しく理解してもらうためにも、業績不振に陥った理由を客観的に説明しましょう。客観的に理由を説明できれば信用につながります。理由が明確かつ合理的であれば、譲受企業も自社において対応できる事象なのか、またその理由を受けての当事業の価値について正確に検討することができるでしょう。

3.目に見えない魅力をアピールする

多くの企業には取引先ネットワークや事業のノウハウ、人材、社会貢献など目に見えない魅力があります。これらの魅力を積極的にアピールすれば、資金繰りが悪化していても将来性を評価する判断材料になります。譲受企業が将来性に期待できる企業であると判断すれば、M&Aが成立しやすくなります。自社の魅力を分析し、正しくアピールしましょう。

4.高い金額を望まない

資金繰りが悪化している企業は、経営が順調な企業に比べて譲渡価格が安くなることが多いです。特に決算が赤字であれば、譲受企業側は多大なリスクを考慮した上で譲渡価格を決定します。譲渡価格は最終的には双方の合意で決定しますが、高額な譲渡価格を希望し続けるとM&Aは成立しない可能性が高くなり、経営破綻や廃業を選択しなければならない恐れもあるでしょう。高額でなくても譲渡できれば良いと考えたほうが成立しやすくなります。

5.同業者・同エリアを外さない

資金繰りが悪化した企業のM&Aを検討するなら、同業・同エリアの企業は外せません。同業者は事業のポイントや資産の活用方法を熟知しているので、M&Aを成立させやすくなります。また同エリアでは譲受会社から近く直接管理しやすいというメリットがあります。M&Aを速やかに成立させるためにも、同業・同エリアの企業を中心に相手企業を探すのがおすすめです。

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まとめ

まとめ

資金繰りが悪化する原因は赤字経営や投資の失敗、売上の変動などさまざまです。悪化し続けると経営破綻に至りかねないので、気付いたら速やかに対策を講じなければなりません。資金繰りの悪化を止められない場合は、経営破綻の前にM&Aを検討するのがおすすめです。

資金繰りが悪化した企業のM&Aではスピード感が求められるので、早めに専門家に相談しましょう。M&A DXでは、経営状況や資産価値を詳しくチェックした上で最適なM&Aサービスをご提供します。M&Aにおけるパートナーをお探しの方は、ぜひM&A DXにご相談ください。

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