繰越欠損金とは?期限や税効果会計を解説

会計士 有泉正樹

大手証券会社にてリテール営業に従事後、大手監査法人およびFAS会社にて上場準備会社や上場会社の監査、各種コンサルティング、財務DDおよびFA業務などに従事。ファンド会社にてグロース、ベンチャー投資を多数実行。大手証券会社にて主にM&Aのオリジネーション業務などに従事後、大手流通小売企業でのDX業務推進や新規事業開発を経て、現在に至る。

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将来の税負担を軽減させることができる繰越欠損金とはどのような制度なのでしょうか。
この記事では、繰越欠損金の期限や税効果会計についてわかりやすく解説します。

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繰越欠損金とは

繰越欠損金とは課税所得がマイナスとなり税務上の欠損金(赤字)が生じた場合、当該欠損金を翌年以降に繰り越せるという制度です。
つまり、繰越欠損金があると課税所得が生じた場合に、税負担を軽減することが可能となります。

繰越欠損金に係る税効果会計

繰越欠損金がある場合には、税効果会計の対象となります。
税効果会計は、企業会計上の資産または負債の額と課税所得計算上の資産または負債の額に相違がある場合において、法人税その他利益に関連する金額を課税標準とする税金の額を適切に期間配分することにより、法人税等を控除する前の当期純利益と法人税等を合理的に対応させることを目的とする手続です。
税効果会計は、上場会社、金融商品取引法の適用を受けている非上場会社、非上場会社のうち会計監査人設置会社では適用しなければならないですが、上記以外の企業では必ずしも適用しなければならないというわけではありません。
繰越欠損金がある場合には、課税所得から繰越欠損金を控除するので、課税所得が同額の場合、税負担を軽減することができます。つまり企業会計と税務会計で金額にズレが生じることになります。この金額的なズレを調整するのが税効果会計です。
なお、税効果会計を適用する場合には、繰越欠損金の繰越期間内に繰越欠損金に見合う課税所得を計上することができるか否か、つまり、回収可能性につき検討することが必要になります。

繰越欠損金の適用条件や期限、控除限度額

繰越欠損金は、繰越期間が10年間(平成30年3月31日以前に開始する各事業年度に生じた欠損金額については9年)とされています。
また、繰越欠損金制度を利用するためには青色申告をする必要があることに加えて、以下の4つの条件を満たしていなければなりません。

10年以内に開始した事業年度の欠損金であること
青色申告書を提出した事業年度に生じた欠損金額であること
欠損金額が発生した年度後も連続して確定申告書を提出していること
帳簿書類等を適切に保存していること

繰越欠損金の控除限度額は、中小法人等(資本金が1億円以下で資本金5億円以上の大法人による完全支配関係がない、または、完全支配関係がある複数の大法人に発行済株式の全部を保有されていない)に該当するか否かによって基準が異なります。

資本金が1億円以下の中小法人等の場合、繰越欠損金は全額控除することができます。一方、中小法人等以外の場合、所得金額の50%までしか控除することができません。
ただし、中小法人等以外に適用される50%という数字は変更されることがあるため、現在の控除限度額については国税庁のホームページなどで確認することが望まれます。

繰越欠損金のメリット

繰越欠損金のメリットは、繰越欠損金を計上した翌年以降に課税所得が発生した場合、課税所得と繰越欠損金を相殺することができ、税負担を軽減させることができるという点にあります。

例えば、資本金1億円以下の中小法人で500万円の繰越欠損金がある場合について考えてみましょう。
課税所得が500万円の年に500万円の繰越欠損金を利用すると、法人税額は0円となります。
一方、繰越欠損金を利用しなかった場合、年800万円以下の所得金額に適用される税率は15%なので、法人税額は500万円×15%=75万円となります。

では、資本金1億円以下の中小法人で1,000万円の課税所得があった場合はどうでしょうか。
500万円の繰越欠損金を利用すると、法人税額は(1,000万円-500万円)×15%=75万円となります。

一方、繰越欠損金を利用しなかった場合、年800万円超の所得金額に適用される税率は23.2%となるため、法人税額は800万円×15%+(1,000万円-800万円)×23.2%=166.4万円となります。
つまり、課税所得が500万円の時に繰越欠損金を使った場合、節税効果は75万円であるのに対し、課税所得が1,000万円の時に繰越欠損金を使った場合、節税効果は166.4万円-75万円=91.4万円となります。

このように、同じ500万円の繰越欠損金であってもタイミングによってその効果が異なるので、10年という期限に注意しながら適切なタイミングで活用することが望まれます。
なお、法人にかかる税には法人税だけではなく、法人事業税や、法人住民税などがあるため、適切なタイミングかどうかはこれらを総合的に判断することが望まれます。

繰越欠損金の仕訳

繰越欠損金は、将来の課税所得と相殺することができ税負担を軽減させることができるため、貸借対照表の借方に「繰延税金資産」として計上されます。表示方法としては、全額「投資その他の資産」に計上されます。

繰越欠損金を計上する仕訳

それでは、繰越欠損金を計上するための具体的な仕訳について考えてみましょう。
仮に繰越欠損金が500万円(上限まで利用可能と仮定)で、法定実効税率を簡便的に30%と仮定した場合、仕訳は以下の通りになります。

繰越欠損金 500万円× 法定実効税率 30%=150万円
借方貸方
繰延税金資産1,500,000法人税等調整額1,500,000

まとめ

繰越欠損金について紹介しました。
大きな工場で最新の設備を整えるなど多額の設備投資を行った場合など、長年に渡って回収することになるため、その年の課税所得がマイナスになるという状況もあります。

つまり、繰越欠損金は創業したばかりの法人や経営が芳しくない企業だけではなく、業績が好調な企業にも関係する制度です。
繰越欠損金の制度を上手に活用するためにも領収書の保管や、経費の計上をしっかりとやっておくことが望まれます。

関連動画はこちら「YouTube「繰越欠損金とは?M&A会社社長が徹底解説!」の動画を公開しました」

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