相続発生後の手続全体の流れを確認する
相続発生後の手続の流れは下の通りです。
相続発生後の手続の全体像
・死亡届けの提出
・火葬許可証、埋葬許可証の準備
・年金受給権者死亡届の提出(厚生年金、共済年金を受給していた人の場合)
・年金受給権者死亡届の提出(国民年金を受給していた人の場合)
・健康保険証等の返却(国民健康保険、後期高齢医療制度加入者の場合)
・世帯主の変更(故人が世帯主で残された同世帯の人が2人以上の場合)
・特別永住者証明書等の返却(故人が外国人の場合)
・介護保険被保険者証、介護保険負担割合証の返還(介護保険被保険者の方)
・公共料金、クレジットカードなどの名義変更、解約手続
・パスポートの返納
・運転免許証の返納(任意)
・相続放棄
・限定承認
・相続の承認又は放棄の期間の伸長
・準確定申告
・遺産分割協議書の作成(期限の定めはないが、相続税の申告前までがおすすめ)
・相続税の申告と納付
・遺留分侵害額請求
・葬祭費、埋葬料の請求
・国民年金の死亡一時金の請求(遺族年金を受け取らない場合)
・高額療養費制度による医療費の払い戻しの請求
・生命保険などの保険金の請求
・遺族年金の受給請求
本記事では、この流れの後半の手続について解説します。
前半の手続は、前記事【相続の手続き】身内が亡くなったらすることとは?相続発生後すぐにおこなう手続きで解説しています。
期限は定められていないが、すみやかにおこなう手続
「何日以内」と決められてはいないものの、すみやかにおこなうこととされている手続や、手続をしないと費用がかかり続けるため、早くおこなったほうがよい手続があります。
公共料金、クレジットカードなどの名義変更、解約手続
各種契約などの名義変更は早めにおこなったほうがいでしょう。とくに契約をしていると定期的に料金が発生するものは、故人がひとり暮らしで利用していた場合などは不要になるので、早めに解約の連絡をしないと無駄なお金を支払うことになります。たとえば、下記のようなものです。
・電気、ガス、水道、NHKなどの契約
・クレジットカードの契約
・サブスクリプションのネットサービスなどの契約
・その他、各種会員などの契約
パスポートの返納
故人がパスポートを保有して場合、死亡後は、戸籍謄本等の名義人が死亡した事実がわかる書類とともに、都道府県の申請窓口に返納しなければなりません。これは旅券法で定められた手続です。なお、期限はとくに定められていません。
運転免許証の返納は任意
故人が自動車運転免許証を保有していた場合、その効力自体は死亡と同時に失われます。そして法律上、遺族が故人の運転免許証にかんして、なにかをしなければならない義務は定められていません。
しかし、運転面書証が他人の手に渡ると悪用されたりする恐れもあるので、それが心配な場合は、警察署か運転免許センターに返納してもよいでしょう。返納をしなくても、とくに罰則などはありません。
3か月以内におこなう手続
相続発生後、3か月以内におこなわなければならないのは、「相続放棄」「限定承認」の手続、および「相続放棄」をするかしないかの判断を先延ばしにする「相続の承認または放棄の期間の伸長」の手続です。
また、それらの手続の前提として相続財産の確定が必要になります。
相続をしたくない場合には手続をすれば「相続放棄」も可能
相続は、放棄することができます。
たとえば、相続財産に預金が3000万円、借金が4000万円あったとしたら、相続人は3000万をもらって4000万円の借金を返済しなければならないので、トータルでは1000万円のマイナスになります。
こういった場合、相続を放棄すれば、被相続人の借金を返済する必要はありません。つまりマイナス1000万円が「ゼロ」になるのです。
ちなみに、相続放棄をした場合は、「最初から相続人ではなかった」という扱いになります。したがって、相続放棄をした人に子がいる場合でも「代襲相続」(本来相続人となるべき人が死亡している場合などに、その本来相続人となるべき人の子などが代わりに相続すること)はできません。
相続放棄は財産がマイナスのときだけではなく、親子の関係が険悪で、「あんな親が残した財産などもらいたくない」と子(相続人)が考える場合にも、使われることがあります。
相続財産がプラスになるのかマイナスになるかを確定する
相続に際しては、現金や預金などプラスになる財産だけが残されているとは限りません。相続するとマイナスになる財産が残される場合もあります。そこで、すべての相続財産(プラス、マイナス)を洗い出して、財産目録を作ることが必要です。
マイナスの財産の代表は借金です。たとえば、被相続人(故人)が借りていたローンなどがあれば、相続した人がそのローンを引き継ぎ返済していくことになります。
また、被相続人が自分で直接借りたお金ではなくても、なんらかの債務に対する保証(連帯保証)をしていた場合は、その保証も相続人に相続されることになります。たとえば、被相続人が会社の経営者だと、会社が事業資金などの借入をした際に、連帯保証人になっていることはよくあります。たとえ相続人が事業を承継しないとしても、会社が借りたお金の連帯保証は、相続人全員に相続されます。
また、厳密にいうとすぐにマイナスになるわけではありませが、最近では、使い途のない不動産が将来のマイナス財産になることも増えています。
たとえば、へんぴな場所にあって利用ニーズがないために放置されている土地でも、固定資産税は必ず課せられます。売ることも貸すこともできなければ、持っているだけで固定資産税の出費だけが続いてマイナスとなる不動産です。土地は放棄する(捨てる)ことができないので、被相続人が所有していた土地は、将来にマイナスとなる土地でも相続されるのです。
相続放棄ができる期間、手続に必要な書類
相続を放棄するには、家庭裁判所に申し立てて手続をする必要があります。この申し立ての期限は、原則として、相続の発生(被相続人の死亡)から3か月以内です。この3か月を、相続をするかしないか、よく考える期間という意味で、「熟慮期間」ともいいます。
3か月以内に相続放棄、または限定承認の手続をしなければ、自動的に「単純承認」(普通に相続することを認める)をしたことになります。
相続放棄の手続に必要な書類は、
・相続放棄申述書
・被相続人の住民票除票または戸籍附票
・申し立てる人の戸籍謄本
などです。
限定承認とは
相続放棄と似ているものに、「限定承認」があります。限定承認とはプラスの相続財産とマイナスの相続財産がある場合に、プラスの範囲内でのみ、マイナスの財産を相続することです。
たとえば、負債があることは確実だけどその負債額がはっきりとはわからないといった場合でも、限定承認をしておけば、あとから負債額が増えることがわかっても、プラスの財産以上を相続する必要はなくなります。
限定承認の手続も、原則として、相続の発生(被相続人の死亡)から3か月以内に家庭裁判所に申し立てをします。
ただし、限定承認は相続放棄に比べて手続が複雑なことから、実際にはあまり利用されていません。
相続の承認又は放棄の期間の伸長
相続放棄をするかどうかを判断するためには、相続財産がすべて洗い出されて財産目録が作成されていることが前提になります。
しかし、熟慮期間の3か月以内に、財産の洗い出しが終わらないこともあるでしょう。また、相続放棄をしようとしていたけれども、戸籍などの必要書類の用意ができなかったということもあります。
そういう場合には、「相続の承認又は放棄の期間の伸長」をすると、熟慮期間を延長することができます。
相続の承認又は放棄の期間の伸長は、家庭裁判所に申し立てます。裁判所で承認されると、原則として熟慮期間が3か月延長されます。
4か月以内におこなう手続
準確定申告(必要に応じて)
被相続人(故人)が亡くなった年の1月1日から亡くなった日までの所得を計算し、必要に応じて確定申告をして所得税を納付したり、払いすぎた所得税の還付を受けたりするための手続が「準確定申告」です。
準確定申告の期限は相続があったことを知った日の翌日から4か月以内で、申告は相続人がおこないます。
準確定申告の必要の有無については、被相続人の生前の職業や収入状況などによって異なります。
一般的には、被相続人が個人事業(不動産賃貸事業を含む)を営んでいた場合などは、申告が必要になります。また、申告が必要ではない場合でも、医療費を多く支払っていた場合などは、申告することで払いすぎた所得税の還付を受けられる場合があります。準確定申告の必要があるのか、したほうがいいのかなどは、最寄りの税務署または税理士等に相談してください。
もし、相続税の納付が必要な遺産がある場合には、相続税の手続とあわせて、税理士に相談することがベターでしょう。
10か月以内におこなう手続
遺産分割協議に期限の定めはないが、相続税の申告期限までにまとめることがおすすめ
遺言書が残されていない場合や、遺言書があっても、遺言書で相続する人が指定されていない財産がある場合、相続財産をどのように分配するのかを相続人間で決める話し合いを、「遺産分割協議」と呼びます。
相続財産がすべて洗い出されて相続財産の目録ができ、相続を放棄する人、しない人が確定すれば、遺産分割協議を進めることができます。
遺産分割協議では、民法で定められた「法定相続分」が、分割の目安になります。しかし、必ずしも法定相続分で分割する必要はないため、話し合いによって相続人全員が納得すれば、どんな分割の仕方をしてもかまいません。
全相続人が遺産分割協議に合意したら、その合意内容をまとめた「遺産分割協議書」を作成します。
遺産分割協議をいつまでにまとめなければならないという期限は、実は法律では定められていません。
しかし、相続税の申告に際して、遺産分割割合が定まっていないと、相続税額が算定できません。というのも、相続税は、相続財産を受け取った個人ごとに算定するためです。そこで、一般的には、相続税の納付期限である相続発生後10か月以内に、遺産分割協議をまとめることが望ましいといえるでしょう。
相続税の申告期限までに遺産分割協議がまとまらない場合
相続税の申告期限までに遺産分割協議がまとまらない場合は、遺産を法定相続分で分割したと仮定して相続税を計算し、いったんそれで申告・納税をします。そして、後で遺産分割協議が正式にまとまったとき、必要に応じて先に申告した内容の修正申告や更正の請求をします。
なお、相続税には、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例など、税額が軽減される特例が用意されています。これらの特例には、遺産分割協議が完了していないと適用できないものがあります。申告期限までに遺産分割協議がまとまらないけれども、こういった特例を利用したい場合は、「申告期限後3年以内の分割見込書」という書類を、申告の際に提出しておけば、申告から3年後までに遺産分割がまとまれば、さかのぼって特例を適用できます。
また、申告から3年後にもまだ遺産分割協議がまとまらない場合でも、一定の理由(遺産分割について裁判になっているなど)があれば、さらに延長できる場合もあります。
相続税の申告と納付
相続税には「基礎控除」という、相続財産額から差し引ける金額が定められています。相続財産が基礎控除額以下であれば、相続税の納付はもちろん、申告も原則的に必要ありません。
基礎控除額は、「3000万円+(法定相続人の数×600万円)」です。
たとえば、法定相続人が2名であれば、基礎控除は4200万円です。この場合、相続財産が4200万円以下であれば、課税される相続財産は「0」になります。つまり、相続税の申告、納付は必要ありません。
ただし、相続財産額の算定にあたって、自宅の不動産などについて「小規模宅地の特例」を適用する場合など、一部の特例の適用は、相続税の申告が必須条件となっています。つまり、小規模宅地の特例などを利用する場合は、仮に納税額がゼロであっても、必ず申告をしなければなりません。この点は見落としやすいので注意してください。
なお、相続税の申告書の作成自体は、一般の人でも可能ですが、特例などを適用する場合は、財産の評価計算などが難しいことがあるので、税理士に依頼するほうが無難でしょう。
また、相続税の納付が必要な場合、その納付期限は申告期限と同一(相続後10か月以内)であることも覚えておいてください。
相続税が多額になり、申告期限までに納付することが難しい場合は、延納などの手続をすることもできます。延納には担保が必要など、手続が難しいので、この場合も税理士などの専門家に相談することが無難です。
遺産分割協議書作成後、すみやかにおこなう手続
相続関係の手続には、遺産分割が確定していないとできないものがあります。遺産分割の確定とは、遺言書がない場合は、相続人全員が署名、捺印した「遺産分割協議書」が作成されていることです。遺産分割が確定していないとできない手続は、遺産分割協議書の作成後、すみやかにおこないます。
銀行口座の凍結解除
銀行などの金融機関が口座名義人の死亡を知ると、その口座は凍結されて、引き出しができなくなります。凍結の解除には、遺言書または遺産分割協議書が必要です。遺言書がない場合は、遺産分割協議書の作成後、すみやかに銀行での手続を済ませて、預金の名義変更などを実施します。
相続登記
相続財産に不動産などの登記が必要な財産があった場合、遺産分割が済んだあと、登記上の名義を変更します。これを「相続登記」と呼びます。相続登記には、遺産分割協議書が必要であるため、遺産分割協議がまとまるまでは、原則として登記できません。
相続登記には、いつまでという期限は定められていませんが、トラブル防止のためにも、遺産分割協議書の作成後は、すみやかに登記をすることをおすすめします。
なお、遺産分割協議後ではなく、遺産分割協議成立前の段階で、とりあえず法定相続分の登記を入れておくことを「相続登記」と呼ぶことがあります。
これは、相続人が他の相続人に勝手に遺産を処分されないための保全措置としておこなうこともありますし、相続人の1人に債務がある場合、その債権者が差押えのために法定相続分の相続登記を入れて、法定相続分を差押えるという方法としておこなわれることもあります。
おおむね1年以内におこなう手続
遺留分侵害の可能性があれば「遺留分侵害額請求」
兄弟姉妹以外の法定相続人には、相続財産をもらえる最低限度額が定められています。この最低限度額のことを「遺留分」といいます。遺言書がある場合で、遺言書の内容が特定の相続人の遺留分を侵害している場合(例:2人の相続人がいて、そのうちに1人に全財産を相続させる)でも、遺産分割自体は原則として遺言書通りにおこなわれます。
しかし、遺留分を侵害された相続人は、侵害した相続人に対して、遺留分の支払いをしてもらうことを請求できます。これを「遺留分侵害額請求」といいます。
なお、遺留分侵害請求の対象となるのは、相続財産だけではなく、生前贈与(相続人が婚姻や養子縁組のため、または生計の資本として受けた贈与の場合は、相続開始前10年間のものに限る)も対象となります。
遺留分侵害額請求の期限は、「遺留分の侵害を知った時」から1年(時効)、または、相続開始から10年です。遺留分の侵害を知った時がいつなのかを客観的に証明することは難しいため、相続開始から1年以内と考えておくほうがよいでしょう。
なお、遺留分侵害額請求の意思表示については、具体的に請求金額などを明示する必要はありません。ただし、「言った言わない」という争いを防ぐために、内容証明郵便で請求の意思表示をしておくことがベターです。
おおむね2年以内におこなう手続
葬祭費、埋葬料の請求
故人が国民健康保険に加入していた場合は「葬祭費」、協会けんぽなどの健康保険に加入していた場合は「埋葬料」という名目で、葬儀費用などが支給されます。葬祭費は、自治体によって異なりますが7万円まで、埋葬料は5万円です。
市町村役場(葬祭費)、社会保険事務所または健康保険組合(埋葬料)に、葬儀代の領収証などを添えて請求します。
葬祭費は葬儀の翌日から2年、埋葬料は死亡の翌日から2年が請求期限ですが、領収証の紛失の可能性などもあるため、葬儀後すみやかに手続をしたほうがいいでしょう。
国民年金の死亡一時金の請求
国民年金の第1号被保険者として36か月以上保険料を納めた人が、年金を受給せずに死亡したとき、遺族には死亡一時金が支払われます。ただし、遺族が遺族基礎年金の支給を受ける場合は、死亡一時金は支給されません。
死亡一時金の請求時効は、死亡の翌日から2年です。請求先は市町村役場です。
高額療養費制度による医療費の払い戻しの請求
「高額療養費制度」とは、月内に払った医療費が一定額(自己負担限度額)を超えた場合、超過分の払戻を受けることができる制度です。故人が高額な医療費を支払っていた場合、相続人が払い戻しを請求できます。
この請求期限は2年で、請求先は市町村役場(国民健康保険、後期高齢医療制度)、または健康保険組合(健康保険)です。
なお、払い戻された金額は、故人の相続財産に含まれます。そのため、期限にかかわらず、遺産分割協議などの開始までに払い戻し手続をすることがベターです。
3年以内におこなう手続
生命保険などの保険金の請求
故人が加入していた生命保険契約の保険金などの受け取りは、死亡から3年以内です。請求をすれば保険金が受け取れるものなので、故人が契約していた保険証書などを発見した場合は、期限にかかわらず速やかに保険会社に連絡したほうがいいでしょう。
なお、相続人が受け取る生命保険金は相続人固有の財産とされ、遺産には含まれません。ただし、相続税の計算の際は「みなし相続財産」として、計算対象に含まれます(一定の非課税枠があります)。
5年以内におこなう手続
遺族年金の受給請求
遺族年金は、国民年金または厚生年金保険の被保険者または被保険者であった場合で、故人と同居をしていて、所得金額が一定額以下の配偶者、子、父母、祖父母が受けとることのできる年金です。(細かい受給要件が定められていますが、ここでは割愛します)。
遺族年金の受給申請の時効は死亡日から5年です。
まとめ
経済的なメリットが得られる手続には、請求期限や時効などは2~5年などと長いものの、早めに手続を済ませれば、その分早めにお金がもらえるものもあります。そういった手続は、期限にかかわらず、早めに済ませておきましょう。