【相続税の基本】相続税の税率や計算方法を紹介_後編

税理士 安江一将

会計コンサルティング会社・税理士法人及びベンチャー企業2社に勤務。会計コンサルティング会社・税理士法人では税務顧問・税務申告のほかに、事業承継支援業務、組織再編業務、IPO支援業務、M&A業務を数多く実行。ベンチャー企業では管理部長・経営企画室を歴任し、上場のための体制構築・実行支援を推進する。大手コンサルティング会社名古屋支社副支社長を経て2019年8月に安江一将税理士事務所として開業した後、さらにM&A業務を推進することを目的として株式会社M&A DXに参画し、現在に至る。

本記事の監修を務める。メンバーの紹介はこちら

この記事は約12分で読めます。

後編では、より具体的に相続税の計算方法を紹介します。また、細かい計算をしなくても、遺産の概算と、想定される相続人の数がわかれば相続税額がわかる、シミュレーション表も掲載しているので、ご活用ください。

記事:【相続税の基本】相続税の税率や計算方法を紹介_前編

  目次  【閉じる】

相談先を迷っている方はM&A DXへ!
資料ダウンロード
M&A DXのメルマガ登録する
セカンド オピニオン

相続税の計算は、大きく4ステップで進む

前編では、速算表による課税総額の計算について、その考え方を説明しました。ここでは、納税額の計算までの全ステップを解説します。

ステップ1 「課税遺産総額」を計算する

まず「課税遺産総額」を計算します。課税遺産総額は下記の算式で求められます。

課税遺産総額=課税価格の合計額-相続税の基礎控除額

「相続税の基礎控除額」は、前編でお伝えをしたとおりです。
一方、「課税価格の合計額」とは、遺産に、遺産ではないけれども相続税が課税される財産(みなし相続財産)を加え、また遺産ではあるけれども非課税のものを差し引いた合計額です。

①:相続または遺贈により取得した財産(土地や建物、預貯金など)の価額
②:みなし相続等により取得した財産(生命保険金や死亡退職金など)の価額
③:非課税財産(生命保険等の非課税枠や仏壇など)の価額
④:相続税精算課税に係る贈与財産の価額
⑤:債務および葬式費用の額
⑥:相続開始前3年以内の贈与財産の価額

①+②-③+④-⑤+⑥=課税価格の合計額

また、要件を満たすことで土地が最大8割減で評価することができる小規模宅地等の特例は、このステップで適用します。

ステップ2 「相続税の総額」を計算する

次は「相続税の総額」を計算します。
まず、ステップ1で計算をした課税遺産総額を、各法定相続人が民法に定める法定相続分にしたがって取得したものとして、それぞれの取得金額を計算します。
ここでは、実際に誰がいくら財産をもらったのかということは一切関係なく、あくまでも法定相続分で取得したと「仮定」して計算をすることに注意してください。

それぞれの法定相続分による取得金額が計算できたら、これをそれぞれ前編でお伝えした相続税の速算表にあてはめて、相続税額を計算します。そして、それぞれの法定相続人について相続税額の計算ができたら、これを合計して、相続税の総額を算定します。

ステップ3 各自の相続税額を計算する

ステップ2で求めた相続税の総額を、相続で実際に財産を取得した人が、取得した財産の価額にしたがって按分します。相続財産の2分の1を取得した人は、相続税も2分の1負担する、相続財産の10分の1を取得人は、相続税も10分の1負担する、という具合です。
これが、相続人各自の相続税額となります。

ステップ4 各自が納付すべき税額を計算する

相続税額から一定額を控除できる特例制度がありますので、それを適用できる場合は適用して、最後に、実際に各自が納付すべき相続税額を算定します。

たとえば、配偶者が取得した財産のうち1億6,000万円または配偶者の法定相続分のいずれか多い価額に相当する分までは相続税が課税されない「配偶者の税額軽減」はこの段階で適用をします。ほかにも、財産を受け取った人が未成年者や障害者である場合に適用を受けることができる未成年者控除や障害者控除を適用するのも、このステップです。

なお、税額控除などの適用ができない人は、ステップ3で算定した税額がそのまま納付税額となります。

相続税の計算の事例

相続税の計算を数値例にあてはめて見ていきましょう。次の前提で計算をします。

・課税価格の合計額:1億6,000万円
・法定相続人:妻、長男、二男
・実際に財産を受け取った額:妻が1億円、長男が5,000万円、二男が1,000万円

ステップ1

はじめに、課税遺産総額を計算します。このケースでの課税遺産総額の計算は、次のとおりです。

1億6,000万円(課税価格の合計額)-4,800万円(法定相続人3名の場合の相続税の基礎控除額)=1億1,200万円

ステップ2

次に、相続税の総額を計算します。まず、法定相続分に応じた各法定相続人の取得金額を算定します。

妻:1億1,200万円×2分の1=5,600万円
長男:1億1,200万円×4分の1=2,800万円
二男:1億1,200万円×4分の1=2,800万円

これを相続税の速算表にあてはめて、相続税額を計算します。

妻:5,600万円×30%-700万円=980万円
長男:2,800万円×15%-50万円=370万円
二男:2,800万円×15%-50万円=370万円

これらを合計して、相続税の総額を求めます。

980万円+370万円+370万円=1,720万円

ステップ3

相続税の総額を、実際に財産を受け取った人に配分します。

妻:1,720万円×(1億円/1億6,000万円)=1,075万円
長男:1,720万円×(5,000万円/1億6,000万円)=537.5万円
二男:1,720万円×(1,000万円/1億6,000万円)=107.5万円

これはステップ2で得られた相続税の総額を按分しているだけなので、当然ながら、どのような遺産分割をしても、合計額は1,720万円となります。

ステップ4

最後に、税額軽減の特例の適用などを考慮して最終的な納付税額を計算します。この例では、配偶者が配偶者の税額軽減の適用を受けられ、長男には控除がないものとして計算します。

最終的な納付税額は、次のとおりです。

妻:1,075万円-1,075万円(※)=0円
長男:537.5万円
二男:107.5万円

※配偶者の税額軽減:配偶者の受け取った財産1億円は1億6,000万円以下であるため、全額が控除されます。

M&A DXのサービスはこちら
相談先を迷っている方はM&A DXへ!
資料ダウンロード
M&A DXのメルマガ登録する
セカンド オピニオン

一目でわかる!相続税の目安

細かな計算をせずとも相続税の概算を知りたい場合には、下記のシミュレーション表(早見表)をご参照ください。法定相続分で分割したものと仮定した場合の、相続税額の目安がわかります。
なお、配偶者の税額軽減は考慮していますが、それ以外の特例は考慮していません。

●図表7 相続税シミュレーション表(配偶者がいる場合)

遺産総額相続税額
配偶者+子1人配偶者+子2人配偶者+子3人配偶者+子4人
4,000万円0000
5,000万円40万円10万円00
6,000万円90万円60万円30万円0
7,000万円160万円113万円80万円50万円
8,000万円235万円175万円138万円100万円
9,000万円310万円240万円200万円163万円
1億円385万円315万円263万円225万円
2億円1,670万円1,350万円1,218万円1,125万円
3億円3,460万円2,860万円2,540万円2,350万円
4億円5,460万円4,610万円4,155万円3,850万円
5億円7,605万円6,555万円5,963万円5,500万円
10億円1億9,750万円1億7,810万円1億6,635万円1億5,650万円

●図表8 相続税シミュレーション表(配偶者がいない場合)

遺産総額相続税額
子1人子2人子3人子4人
4,000万円40万円000
5,000万円160万円80万円20万円0
6,000万円310万円180万円120万円60万円
7,000万円480万円320万円220万円160万円
8,000万円680万円470万円330万円260万円
9,000万円920万円620万円480万円360万円
1億円1,220万円770万円630万円490万円
2億円4,860万円3,340万円2,460万円2,120万円
3億円9,180万円6,920万円5,460万円4,580万円
4億円1億4,000万円1億920万円8,980万円7,580万円
5億円1億9,000万円1億5,210万円1億2,980万円1億1,040万円
10億円4億5,820万円3億9,500万円3億5,000万円3億1,770万円

相続税を大きく減らす特例の適用を忘れずに!

ステップ1で見た「課税価格の合計額」が、相続税の基礎控除額以下であれば、相続税額はゼロであり、原則として相続税の申告をする必要もありません。しかし、相続税の減額ができる特例の中には相続税の申告をしないことには適用を受けられないものもありますので、注意が必要です。

●図表9 相続税の特例と適用のための申告の要否

適用箇所特例の概要申告要件
小規模宅地等の特例ステップ1土地を最大8割減で評価できるあり
墓などの非課税ステップ1墓や仏壇などに対して相続税が課税されないなし
生命保険金や死亡退職金の非課税ステップ1【500万円×法定相続人の数】までの生命保険金や死亡退職金がそれぞれ非課税となるなし
配偶者の税額軽減ステップ4配偶者が取得した財産のうち1億6,000万円か配偶者の法定相続分までのどちらか多い方までは相続税がかからないあり
未成年者控除ステップ4未成年者が支払うべき相続税の軽減なし
障害者控除ステップ4障害者が支払うべき相続税の軽減なし

なかでも税額が大きく減額できる場合が多い「小規模宅地等の特例」や「配偶者の税額軽減」は、いずれも申告が要件となっているので忘れないようにしましょう。

一方で、みなし相続財産である生命保険金などの一定額(500万円×法定相続人の数)が非課税となる制度などは申告が要件とはなっていません。そのため、これらを適用したあとの金額で申告の要否を判断することが可能です。

M&A DXのサービスはこちら
相談先を迷っている方はM&A DXへ!
資料ダウンロード
M&A DXのメルマガ登録する
セカンド オピニオン

相続税申告は自分でできる?

相続税の申告は、申告に必要な資料集めやそれぞれの財産の評価をすることができれば、自分で行うことも不可能ではありません。しかし、自分で申告をする際には、次のリスクを踏まえて行うようにしましょう。

税務調査のリスクが高くなる

税務調査とは、申告の内容に漏れや誤りがないか税務署が確認に訪れることです。
どのようなケースに優先的に調査に入るのかが税務署側から公表されているわけないため経験則からの話ではありますが、一般的に、自分で申告をした場合には調査に入られる可能性は高いと考えられます。なぜなら、税務署は税務申告のプロではない方が作成をした申告書には、意図せずとも財産の漏れや評価のミスがある可能性が高いと考えているためです。

もともと相続税は調査が入る確率が高く、税理士が申告書を作成しても、必ずしも調査が来ないわけではありませんが、自分で申告をすることで調査のリスクがより高まる可能性がある点は知っておくべきでしょう。

税金を払いすぎてしまうリスクがある

相続税を正しく申告するためには、対象となる財産を正確に洗い出すほか、それぞれの財産について適切な評価をしなければなりません。
なかでも、相続財産の多くを占める土地の評価を正確にするのは難しい面があります。たとえば土地の形がギザギザであるなど不整形であったり道路に面した間口の狭いいわゆる「旗竿地」であったりすると、路線価が補正されるためです。ほかにも、墓地の近くや「がけ」のある土地、広すぎる土地など、さまざまな理由による減額補正があります。

自分で申告をする場合にはこうした補正までを調べて適用することは容易ではないでしょう。そのため、税理士に依頼をした場合と比較して財産を高く評価してしまい、税金を払いすぎてしまう可能性があります。
しかも、税務署は、税金を少なく支払っていれば100%指摘してきますが、多く支払っている場合は、通常指摘をしてくれません。そこで、自分で申告をしていると、多すぎる税金を支払っていることに気づかず、結果的に損をしてしまう可能性があります。

納付税額があれば税理士に依頼をしよう

少なくとも納付すべき税額がある場合には、無理に自分で申告をせず、税理士に相談するのが安全でしょう。
気になる税理士報酬ですが、事務所によっても異なりますが、目安としては、遺産総額が1億円程度の場合には60万円前後、遺産総額が1億5,000万円程度の場合には80万円から100万円程度のことが多いようです。ただし、不動産や株式などの特別な評価財産の有無や、遺産分割協議の内容などによって異なる場合もありますので、実際に依頼を検討する際にはまず見積もりを取るとよいでしょう。

まとめ

まとめ

相続税が関係する人は増えています。漠然と、「うちには関係がない」と思っていても、いざ計算をしてみると相続税の対象となってしまうかもしれません。いざとなってから慌ててしまわないためにも、相続税の仕組みや計算方法の基本を理解しておくと良いでしょう。
しかし、実際に自分で相続税を申告することは容易ではありません。申告には期限もありますので、早めに税理士に相談されることをおすすめします。

株式会社M&A DXについて

M&A DXでは、大手会計系ファーム出身の公認会計士や税理士、金融機関等出身の専門家が、豊富なサービスラインに基づき、最適な相続をサポートしております。相続や事業承継でお悩みの方は、気軽にM&A DXの無料相談をご活用下さい。
無料相談はお電話またはWebより随時お受けしておりますので、相続をご検討の際はどうぞお気軽にお問い合わせください。


相談先を迷っている方はM&A DXへ!
資料ダウンロード
M&A DXのメルマガ登録する
セカンド オピニオン

SHARE

M&Aセカンドオピニオン

セカンドオピニオンとは、M&Aを検討する中で生じる不安や迷い・懸念を第三者視点で全体を俯瞰しながら、個々の状況に寄り添ってアドバイスするサービスです。
こんなお悩みの方におすすめです。

✓ M&A業者が進めるスキームで適切なのか知りたい
✓ M&A業者と契約したが連絡が途絶えがちで不安だ
✓ 相手から提示された株価が妥当なものか疑問に感じる
✓ 契約書に問題がないか確認したい
✓ M&A業者が頼りなく感じる

どんな細かいことでも、ぜひ【M&A DXセカンドオピニオンサービス】にご相談ください。
漠然とした不安や疑問を解消できます。

無料会員登録

会員の皆様向けに週1回、M&A・事業承継・相続に関わるお役立ち記事、動画などをお知らせするメールマガジンを配信させていただきます。
お役立ち記事はこちらからピックアップしてお届けいたします。
動画はM&A DXチャンネルからピックアップしてお届けします。
配信を希望される方はメールアドレスをご登録の上、お申し込みください。登録料は無料です。

LINE登録

LINE友達登録で、M&A・事業承継・相続に関わることを気軽に専門家に相談できます。
その他にも、友達の皆様向けに、動画などをお知らせするメールマガジンを配信させていただきます。
相談を希望される方は、ぜひお気軽にLINE友達登録へお申し込みください。

M&A用語集

M&A DX用語集では、M&Aに関する専門用語についての意味や内容についてご紹介しております。
M&Aや事業承継は英語を使うケースが多く、初めて聞くと意味が分からないまま会話が進み、後で急いで意味を調べるような経験がある方もいらっしゃると思います。M&Aの用語に関しては、一度理解してしまえばその後の会話で使えるようになるため、辞書代わりにご利用下さい。
※会計士の当社代表牧田が、動画で解説している用語もあります。

まんがでわかる事業承継

すべての人を幸せにするM&Aを、まんがでわかりやすく解説します。
「事業承継は乗っ取りではないのか?」と不安に思う社長に対し、友好的事業承継のコンセプトをわかりやすく解説します。

~あらすじ~
社長は悩んでいた。
創業して40年、生涯かけて取り組んだ技術も途絶えてしまうことに。
何より、社員を裏切る訳にもいかない…

そんな折、真っ直ぐな瞳の男が社長を訪ねてきた。
内に秘めた熱い心を持つ彼は、会計士でもある。
「いかがなさいましたか?」
この青年が声をかけたことにより、社長の運命が劇的に変わっていく。

資料請求

あなたの会社が【M&Aで売れる会社になるための秘訣】を徹底解説した資料を無料で提供しております。
下記のお悩みをお持ちの方は一読ください。

✓ M&Aを検討するための参考にしたい
✓ 売れる会社になるための足りない部分が知りたい
✓ 買手企業が高く買ってくれる評価基準が知りたい

【売れる会社になるためのコツを徹底解説】一部ご紹介します。

✓ 解説 1 定性的ポイント

業種、人材、マネジメント体制などの6つの焦点

✓ 解説 2 定量的ポイント

財務的に価値がある会社かどうか、BS・PLの評価基準

✓ 解説 3 総合的リスト

売れる会社と売れない会社を表にまとめて解説

詳細は無料ダウンロード資料「M&Aで売れる会社と売れない会社の違い」にてご確認ください。