大切なひとに遺すなら相続?贈与?それぞれの税金の違いと注意点を解説

税理士 安江一将

会計コンサルティング会社・税理士法人及びベンチャー企業2社に勤務。会計コンサルティング会社・税理士法人では税務顧問・税務申告のほかに、事業承継支援業務、組織再編業務、IPO支援業務、M&A業務を数多く実行。ベンチャー企業では管理部長・経営企画室を歴任し、上場のための体制構築・実行支援を推進する。大手コンサルティング会社名古屋支社副支社長を経て2019年8月に安江一将税理士事務所として開業した後、さらにM&A業務を推進することを目的として株式会社M&A DXに参画し、現在に至る。

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相続や贈与により、親族などの大切なひとに財産を遺すことができます。相続の場合には相続税、贈与では贈与税とそれぞれ異なる税金が課されるため、事前に違いを理解しておかなければなりません。

今回は、相続税と贈与税で何が異なるのかを紹介します。生前贈与をする上で気をつけなくてはならない点も解説するので、これから生前贈与を予定している人もぜひ参考にしてください。

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本記事のポイント

  1. 相続税と贈与税では何が違うのか具体的に知りたい方向けの記事です。
  2. 金額別税率比較も交えながら税金の違いを丁寧に解説しています。
  3. 生前贈与をする上で理解しておきたいポイントも紹介しているので、これから生前贈与を検討している方向けの記事にもなっています。

相続と生前贈与の税金の違い

相続と生前贈与の税金の違い

大切な人に財産を遺すためには、相続と生前贈与のどちらが適切なのかを判断するため、それぞれの特徴を確認していきましょう。

相続税とは

相続税は、「相続または遺言によって遺産を受け継ぐ際に、遺産総額の金額が大きいとかかる税金」です。民法では、第一順位から第三順位までの法定相続人が定められおり、相続税の計算には法定相続人の数が関係します。

相続税の計算

相続税は正味の遺産額から基礎控除額を差し引いた額を法定相続分により相続したとされる金額に対して、対応する税率を乗じて算出します。具体的な計算式は以下の通りです。

まず基礎控除額を差し引きます。

①[各相続人の課税価格合計]−[基礎控除額(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)]

控除した後の金額を民法で定められた相続人、相続割合で按分し、それぞれに決められた税率を乗じます。配偶者、子一人であればそれぞれ1/2ずつが相続割合です。

②[法定相続分に応ずる各法定相続人取得金額(①を各法定相続人の相続割合で按分)] × [左の算出金額に応じた税率]

各法定相続人の税額を合計した後、実際に各自が取得した価額に応じて税額を算出します。

③[法定相続人ごとの算出税額の合計(②の法定相続人分合計)]×[各人の課税価格]÷[課税価格の合計額]

③の算出結果から、各種税額控除額を差し引いた金額が各自の納付税額です。

出典:国税庁「No.4152 相続税の計算」

贈与税とは

贈与税は、「個人からの贈与によって取得した財産にかかる税金」です。相続税は正味の遺産額から基礎控除額が差し引かれるのに対し、贈与税ではもらう側ひとりずつに年間110万円の基礎控除額が設定されています。

贈与税の計算

贈与税は1年間に贈与された財産の価額から基礎控除額を差し引いた後、税率を乗じて算出します。式は以下の通りです。

([贈与財産]−[基礎控除額110万円])× [税率]

相続税と贈与税の具体的な税率は後ほど紹介します。

今後相続と贈与が一体課税される可能性もある

日本では、相続税と贈与税では仕組みが異なるため、どちらの手段を取るかによって税負担額が大きく異なることもあります。一方、欧米主要国では二つの税を統合しており、資産移転の時期に関係のない中立的な税制になっています。

令和3年度の税制改正大綱において、「諸外国の制度を参考にしつつ、相続税と贈与税を一体的に捉えて課税する観点から、現行の贈与税制の在り方を見直すなど、資産移転の時期に中立的な税制の構築に向けて本格的な検討を進める」との記載があり、今後一体課税される可能性も否めないでしょう。

相続税と贈与税 金額別税率比較

相続税と贈与税 金額別税率比較

相続税と贈与税では算出方法が異なるため、単純に税率だけで損得を決めることはできません。ただし、参考にはなるので数字を比較してみましょう。

先ず、相続税率は以下の通りです。

法定相続分に応ずる取得金額税率控除額
1,000万円以下10%
3,000万円以下15%50万円
5,000万円以下20%200万円
1億円以下30%700万円
2億円以下40%1,700万円
3億円以下45%2,700万円
6億円以下50%4,200万円
6億円超55%7,200万円

続いて、贈与税率は以下の通りです。

基礎控除後の課税価格税率控除額
200万円以下10%
300万円以下15%10万円
400万円以下20%25万円
600万円以下30%65万円
1,000万円以下40%125万円
1,500万円以下45%175万円
3,000万円以下50%250万円
3,000万円超55%400万円

なお、祖父母や父母などの直系尊属から、20歳以上の子や孫などに贈与した場合は特例税率として税率が異なります。贈与税の特例税率は以下の通りです。

基礎控除後の課税価格税率控除額
200万円以下10%
400万円以下15%10万円
600万円以下20%30万円
1,000万円以下30%90万円
1,500万円以下40%190万円
3,000万円以下45%265万円
4,500万円以下50%415万円
4,500万円超55%640万円

出典:国税庁「No.4155 相続税の税率」、国税庁「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」

数字で比較すると、生前贈与の税率は相続税率より高くなります。しかし、110万円までの基礎控除を利用しつつ、何度かに分けて進めれば生前贈与の方がお得になることもあります。

大切な人に遺す手段を検討する際には、まずは図表で税率を比較した後、専門家に相談して自分にはどちらが適しているか相談してみると良いでしょう。生前贈与を利用する際には、いくつか気をつけることがあるので次から紹介していきます。

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生前贈与は遺留分が問題になることもある

生前贈与は遺留分が問題になることもある

生前贈与で問題になることが多いのが、遺留分です。遺留分があることにより、自分が思い描いた形の贈与ができない可能性があるため、どのような制度なのかあらかじめ理解しておきましょう。

遺留分とは

遺留分とは、「相続人のために法律上確保された一定割合の相続財産」です。遺留分があるために被相続人の遺言の自由を制限することになりますが、遺族の生活保障のために認められています。

相続開始前10年以内の生前贈与が対象

相続開始前10年以内の生前贈与は、遺留分に算入されます(民法1044条3項)。つまり、相続前にすでに受け取っていた財産であっても、その他の法定相続人の間で後にトラブルになりうるということです。

相続人以外の第三者に対する生前贈与は、相続開始前の1年間に限られます(民法1044条1項)。

遺留分侵害額請求権で取られる可能性

侵害された遺留分を請求する権利が遺留分侵害額請求権です。遺留分侵害額請求権は、配偶者や子といった兄弟姉妹以外の法定相続人が主張することができます。

遺留分侵害額の計算方法

遺留分侵害額は、各自の遺留分のうちいくら侵害されたかで判断するものです。遺留分は遺産総額に対象の生前贈与を加え、債務を控除したものに決められた遺留分割合を乗じることで算出します。

遺留分割合は法定相続人によって異なり、基本的には法定相続分の1/2となります。例えば配偶者だけであれば配偶者に1/2、配偶者と子であればそれぞれ1/4ずつです。

贈与しても相続税が課される場合がある

贈与しても相続税が課される場合がある

生前贈与したからといって、全て贈与税の対象になるとは限りません。以下のようなケースでは、相続税が課されます。

亡くなる3年前までの生前贈与

被相続人から相続開始前3年以内に贈与を受けた財産がある場合、相続で財産を取得した課税価格に贈与を受けた財産の価額を加算します。ただし、加算された贈与財産の価額分の贈与税額は相続税の計算で控除されます。

つまり、被相続人が亡くなる3年前までの生前贈与は「相続税の持ち戻し」となり、贈与税から相続税の対象に変わるということです。

例外となるケースもある

ただし、「住宅取得のための資金贈与」「教育資金の一括贈与」「結婚や子育て資金の一括贈与」の3つの非課税枠のうちいずれかを利用した贈与であれば相続税の持ち戻しを免除されます。また、贈与税の配偶者控除(婚姻期間が20年以上の夫婦間に認められている贈与税の優遇制度。居住用の不動産やその購入資金2,000万円までが非課税となる。)を利用したケースも同様です。

相続時精算課税制度を利用している場合

相続時精算課税制度は「親が子に生前贈与を行った場合に、贈与ではなく相続の前倒しとして扱う制度」です。贈与者が60歳以上の親、受贈者が20歳以上(民法改正後は18歳以上)の子である場合に選択でき、特別控除額の2,500万円まで贈与税が非課税となるなどのメリットがあります。

つまり、相続時精算課税制度を利用していると、相続開始前の贈与全てが相続税に加算されるということです。

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特別受益の持戻しも理解しておく

特別受益の持戻しも理解しておく

最後に特別受益についても理解しておきましょう。

特別受益とは

特別受益は「共同相続人の中の特定の相続人が被相続人から受けた遺贈または婚姻、養子縁組、生計の資本として受けた贈与のこと」です。生前贈与と同様、相続人間の公平を図るため、相続分の算定上で考慮されています。

特別受益は生前贈与と重なる部分もありますが、生前贈与が生前の贈与に限るのに対し、特別受益は死因贈与や遺贈も含みます。また、対象となるのは相続人のみです。

特別受益があるケースの計算方法

特別受益がある場合、まず遺産総額に特別受益分を加えます(持戻し)。算出された金額がみなし相続財産です。

次に、みなし相続財産を相続人で按分します。ただし、特別受益を受けている相続人が受け取るのは按分額から特別受益分を除いた額です。

特別受益の持ち戻しが免除されるケース

被相続人があらかじめ意思を示していれば、特別受益の持ち戻しを免除することが可能です(民法第903条第3項)。ただし、特別受益の持ち戻しが免除されても、遺留分侵害額請求をされる可能性は残ります。

まとめ

まとめ

相続と贈与の税率を単純に比較すると、相続税の方が低いです。しかし、それぞれの計算方法や基礎控除が異なるため、一概にどちらが得とは断言できません。

節税につなげつつ、自分の遺したい相手に確実に財産を渡したいのであれば、まずは専門家に相談してみてください。特に、事業を営む方であれば株式の問題も絡むため早めの対策が効果的です。

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