事業売却とは
企業のなかで一部の事業のみをM&Aによって、売却するのが事業売却です。事業売却には明確な定義があり、その方法もいくつかのパターンに分けられます。ここでは、事業売却の相場価格について解説する前に、そもそも事業売却の定義とは何なのか、どんな方法で売却することができるのかについて、解説します。事業売却に対する具体的なイメージが掴めないという方は参考にしてください。
定義と種類
事業売却とは、M&Aの手法のひとつです。事業売却の定義とは、ひとつの企業のなかで、全部または特定の事業のみを売却することとされています。
事業売却は、一般的には「事業譲渡」と呼ばれている手法です。特徴としては、売却の対象である事業が、個別の移転手続きを踏むことで、移転・継承されるところにあります。事業売却をおこなう意義は、特定の事業のみを切り離すことができる点です。ここで言われる、特定の事業とは「赤字事業」「ノンコア事業」「成長事業」のいずれかである場合が多いです。特定の事業のみを譲渡するという点では、会社分割という手法もあります。会社分割とは、会社を事業ごとに分割して引き継ぐ手法であり、吸収分割と新設分割の2種類があります。吸収分割とは既存の会社同士で事業を引き継ぐ手法で、新設分割とは新たに設立した会社に事業を引き継ぐ手法です。
会社分割はグループ企業内で活用することによるメリットが大きいことから、グループ内再編手法としてよく用いられます。
事業売却には「一部譲渡」と「全部譲渡」の2種類があります。一部譲渡とは上記で解説した定義のとおりの譲渡方法です。対して、全部譲渡は企業がおこなっている事業の全てを譲渡することを指します。
「全ての事業を手放すなら、会社を譲渡することとはどう違うの?」と思われる方もいらっしゃるでしょう。次で「会社売却」と「事業売却」との違いを解説します。
事業売却と会社売却との違い
事業売却には前述したとおり、全ての事業を売却するケースも含まれています。これは、企業そのものを売却する「会社売却」とどう異なるのでしょう。両者の違いについて解説します。
事業売却と会社売却、両者の大きな違いは「売るもの」にあります。事業売却の場合は、あくまでも「事業」を売却することに対して、会社売却は「株式」を売却します。
売却に対する対価を受け取る者も、事業売却と会社売却では異なります。事業売却の場合、対価を受け取れるのはもともと事業をおこなっていた「会社」であり、会社売却の場合は「株主」が対価を受け取ることになります。
また事業売却は、課税の対象となる資産に対して消費税が課税されます。(売却する資産すべてに対して課税されるわけではありません。)それに対して、会社売却の場合は非課税になります。以下の表では、事業売却と会社売却の相違点を、より簡潔にまとめているため、参考にしてください。
事業売却 | 会社売却 | |
売却対象 | 事業 | 株式 |
対価の受取人 | 会社 | 株主 |
消費税 | あり(非課税資産もあり) | なし |
事業売却における相場は?
事業売却によって事業を売却する際の価格はどのくらいなのでしょう。前提として、事業の価格は事業内容や規模、利益などに大きく左右されます。ここでは、事業売却価格と企業価値の関係性や、売却価格の算定方法について解説します。自社が保有する事業が、どの程度の価値をもつのか最適な方法で、算出してみてください。
企業価値は事業の価値で決まる
そもそも、企業価値はその企業が営んでいる事業の価値をベースに評価されるものです。事業自体の価値が低い場合、その企業の価値が低いということにもつながります。これは逆も然りです。
事業価値とは、各事業から創出される価値のことです。この価値には事業用資産や事業用負債だけでなく、超過収益や無形資産、知的財産なども含まれます。
これに対し企業価値とは、言葉どおり事業価値も含んだ企業全体の「価値」となります。事業価値の他にも、非事業資産の価値も含まれます。
つまり上記の内容をまとめると、事業価値+非事業資産の価値が概ね企業価値となるということです。事業価値と企業価値は、この両者を切り離して売却価格を算出することは、難しいと言えます。
事業価値を知ることで、そこから事業の売却価格を把握することが可能です。以下からは、企業や事業の価値評価における代表的な算出方法について解説します。
企業や事業の価値評価における代表的なの算定方法
算出方法はいくつかの方法があるため、代表的なものを紹介します。「DCF法」「時価純資産法」「年買法」「類似会社比較法」という4つの主な方法があります。それぞれの算出方法には、算出する基準となるものが異なるため、利用にあたっては向き不向きがあります。これは算定対象の企業や事業の規模や特徴に左右されます。そのため、同じ企業や事業が複数の方法で価値を測ると、それぞれ違った結果が算出されます。4つの算出方法について、以下で解説します。
DCF法
ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー、通称DCF法は、将来期待されるフリーキャッシュフローを予測し、将来における不確実性(リスク)を反映した割引率により将来期間のフリーキャッシュフローを割り引いた現在価値をもって事業価値を計算する方法です。
DCF法のメリットは、企業が保有する「のれん(超過収益や営業権ともいう)」や将来への期待値を考慮して現在の価値を割り出せる点にあります。企業が持つ収益力に着目した評価手法であるため、収益力の安定した大企業はもちろん、足元では赤字でも近い将来に大きく成長すると見込まれるベンチャー企業、特殊な技術やノウハウを持つ企業の評価といった幅広い企業の企業価値評価に用いられています。
デメリットとしては、評価の過程に恣意的な要素 がある点が挙げられます。 割引率や永久成長率といった値は、DCF法を使う専門家がそれぞれの判断で決めています。 つまり、 同じ会社をDCF法で計算しても、誰が計算するかによって結果が変わる 場合があります。算定にあたっては事業計画に重きを置くため、事業計画の精度・客観性などにより、算出される事業価値の信頼性が大きく左右されるリスクもあります。
時価純資産法
時価純資産法とは、企業の純資産に着目して株式価値を算出する方法です。ここでいう「純資産」とは貸借対照表にて、資産および負債の時価評価を加味したうえで算出されるものを指します。
時価純資産法のメリットは、他の算出方法よりも客観的な評価ができる点にあります。また企業が保有する土地や株式の価値といった「含み損益」も計上できるため、その時点におけるより実態に近い価値をはかることが可能です。
時価純資産法にはデメリットもあります。それはDCF法とは異なり、将来的な期待値が反映できない点です。
価値算定時点で収益力が低い場合、たとえ将来的には大きな利益を生むであろう場合であってもその価値に反映させることはできません。
年買法にて算定
年買法とは企業における時価純資産に、年間利益を複数倍した金額を営業権として加算して株式価値を算出する方法です。複数倍とは1〜5倍であることが一般的です。1倍なのか、5倍ほどなのかは、売手企業から買手企業へ事業が譲渡されたあと、どの程度の期間、利益が継続すると予想されるのかによって変わります。
複数ある算出方法のなかで、直観的にわかりやすく、比較的簡単に算出可能であることが年買法のメリットです。大企業よりも中小企業のM&Aの際によく採用されます。M&Aで取引される際の金額は、売手と買手、両者が納得していれば問題なしと見なされるため、シンプルに企業価値を計測できることから年買法が使われています。
その一方で、裏付けが乏しく説明力に書けてしまうといったデメリットもあります。また市場の状況を考慮できないことも、デメリットのひとつです。営業権を年間利益の数年分として計算する考え方に関して、ファイナンス理論に基づいた明確な根拠はありません。
類似会社比較法にて算定
類似会社比較法とは、対象企業と事業内容が類似する企業の財務指標を比較し、そこから対象企業の価値を類推する方法です。類似会社の選定が算定結果に大きな影響を及ぼすので、選ぶ際には慎重な判断が必要です。
類似会社を選ぶ基準としては、類似業種であるか、事業の成熟度、地域性などの経済環境、事業規模、成長性などを参考にすると良いでしょう。この際、より客観的な判断をするために10社程度を選ぶのが望ましいです。
さらに、より客観的な指標を確保するために、上場企業を選ぶことがポイントです。
類似企業比較法のメリットは、情報が集めやすいことです。上場企業は財務指標などを公開しており、比較対象のデータを収集しやすいです。また実際のデータに沿って評価対象の価値を算出するため、客観性も高いと判断されます。
類似企業比較法のデメリットは、価値を求める際の類似企業に関する数値は特定のタイミングの数値を用いますが、どのタイミングを選ぶかは計算者の裁量によります。価値を高く算定したい場合には比較対象となる企業の株価が上昇したタイミングを選ぶことも想定されるなど計算者の視点によって数値に違いが出てくるでしょう。また、事業内容や成長度合い、売上規模などが類似していることが求められることから、複数の条件が類似している企業を選ぶことは容易ではありません。
売却価格の決め手となる要素は5つ
これまでに説明したとおり、事業価値が売却価格に影響することは明らかです。利益などは事業価値に直結する、わかりやすい基準ですが、売却価格を構成する要素はそれだけではありません。ここでは「企業理念(風土)」「従業員の質」「各数字」「技術力(ノウハウ)」「取引先(顧客)」の5つの要素に注目し、事業価値や売却価格への影響について解説します。
1.企業理念や風土
企業理念や風土も会社売却の金額を決める上で重要になってくる要素です。
一般的には、買手と売手の企業理念や風土の一致度が高いほど売却金額は高くなる傾向にあります。
企業理念や風土の一致度が低いと、一緒になった後にこれまでの企業理念や風土との違いの大きさからさまざまな障害が発生するからです。一番わかりやすいのは人材の流出です。
企業理念や風土の一致度が低いと、これまでの会社の企業理念や風土に共感して会社に入った社員が転職してしまうリスクがあります。
また譲渡対象となった企業の理念などへの共感を理由に在籍していたわけではない従業員であっても、それぞれの社員は新しい会社の企業理念や風土に馴染んでいかなければならず、これを負担に感じる者も表れるでしょう。これらの理由から、作業効率が一時的に低下することも大いに考えられます。
以上のことから、理念や風土がかけ離れた企業間での事業売却額は低くなる傾向があります。
2.従業員の質
従業員は企業にとって大切な「人的資産」です。買手企業にとっては、この資産が良質であるか否かは、将来的に利益を生み出し続けるためには決して無視できないポイントです。
簡単にいえば、従業員の質が事業価値を高めるということです。この質というのは、従業員の経験やスキルのことを指します。
わかりやすい例では従業員のなかに「弁護士」など、難易度の高い資格を取得している人材が多数いると、その分事業価値が高まります。これが、それらの資格をもつ人材を新たに探し、イチから教育するよりも企業(事業)ごと買ってしまったほうが効率的なケースもあるためです。場合によっては事業そのものより、そこで働く従業員を目当てに事業を買収することもあります。
3.経営成績や市場シェア
当然ながら、各数字(成績)が高いほど、企業価値は高まります。ここで言われる数字には、「売上」や「利益」など帳簿に反映されるものから、「市場シェア率」といったものまでが含まれます。
市場シェア率とは、市場全体での売上のうち、何%が自社製品(サービス)なのかという数値のことです。
またシェア率が高い会社(事業)を買収することは、新たな経営戦略を講じる手間やコストが少なくて良いことを意味します。すでに多くの認知が得られているため、買手側のリスクは少なく済みます。以上のことから「シェア率」が高いことは、将来的な収益に期待できると判断されることにも納得です。
事業価値に影響する数字とは、売上や利益だけでなく、シェア率も関係していると覚えておきましょう。
4.技術力やノウハウ
企業がもっている技術やノウハウも、事業価値を高めるうえでは考慮しなければなりません。技術やノウハウは、帳簿上には反映されにくい部分であるものの「将来性」という観点で見た時の価値は高いものです。
特に保有している技術が、他社が簡単にマネできない高い水準のものであればあるほど企業価値が高まります。またそれらの技術で特許など取得していると、買手によってはより魅力的にうつるため、売却金額が高くなる傾向があります。
特許を取得しているということは、同じ技術を他者は活用できないということ。その技術を使うからこそ作れる商品やサービスを使っている顧客は、囲い込みが容易であるため、安定した収益が得られるのです。
5.取引先や顧客
企業がかかえる顧客や取引先も、事業価値に影響します。特に大企業をはじめとした大口の取引先は、関係性が何もないところから関係を築くことが難しいため、高く評価される傾向にあります。
また対象企業が開発した製品を長期的に使っている顧客が多いリピーターが多いなど、顧客の層が厚いことも事業価値を上げる要素です。これにより買手企業は新たなアクションを起こさずとも、買収後も安定して収益を得られると判断されるためです。
買手企業はM&Aの際、買収後に確実な利益が得られるか否かに注目しているため、顧客の層が厚いことは魅力的にうつるでしょう。取引先や顧客の詳細などは決算書類などに表れにくく、見落としがちなポイントです。しかし、アピールする材料としてはとても有効のためぜひ活用してください。
事業売却のメリット
M&Aによるメリットは、企業を倒産から救える、後継者問題の解決、個人保証を解除できる、会社の創設者が利益を得られるなどたくさんあります。しかし、ここでは事業売却によって得られるメリットのみを解説します。事業売却のメリットは「売却利益を得られる」「事業を一部だけ売却できる」「債権者保護の手続き不要(ただし各債権者の同意は必要)「商号を継続できる」の4つです。それぞれについて以下で詳しく解説しているため、まだ事業売却をおこなうか否か悩んでいるという方は、参考にしてください。
売却対価を得られる
事業売却のメリットとして、まず挙げられるのは、売却したことで会社が「対価」を得られることです。会社の経営が芳しくないときに事業売却を行う場合には、会社を倒産から救うことができる可能性があります。売却で得た収益を負債の返済にあて、財務状況を整えることができるということです。
また現在、赤字事業を抱えていない、または経営状況が安定している企業であっても、売却による対価を得られることは大きなメリットとなる可能性があります。売却対価を、現在力をそそいでいる事業(注力事業)や新しい事業への投資として活用することができるためです。
事業を一部だけ売却できる
事業売却の特徴でもある「事業を一部だけ譲渡できる」という点は、そのままメリットになります。事業売却によって、会社自体はそのままに、不採算事業だけ切り離すこともできるからです。これは、将来的なリスクの回避や経営の安定化といった面から見て大きなメリットでしょう。注力すべき事業とそうでない事業の取捨選択が可能になり、採算の悪い事業を売却し、コア事業へ集中することができます。
また会社売却とは異なり、事業売却は従業員や資産を残すことができます。さらに会社自体は存続するため、売却以前と変わらない組織運営ができます。
従業員の視点に立っても、企業理念や風土が変わらず、働き続けることができるのは大きな安心に繋がります。別会社となり、作業の新しいフローを覚えたり、再度人間関係を構築したりせずに済むということです。
債権者保護の手続き不要(ただし各債権者の同意は必要)
事業売却には、債権者保護の手続きは必要ありません。ただし各債権者からの同意は必要になるので注意が必要です。
売却金額など条件面で債権者が納得できるものでの合意を得ることがカギになるでしょう。
商号を継続して使える
繰り返しになりますが事業売却の場合、一部の事業が他者へ譲渡されるのみで、会社自体はそのまま存続します。もちろん、企業の商号もそのまま利用可能です。一見「それってそこまで大きなメリットではないのでは?」と思われてしまうかもしれませんが、商号が変わらないことは、さまざまな混乱を回避するうえで効果的といえます。
会社の商号が変わると、長年取引をしていた企業や顧客は、少なからず勘ぐってしまうものです。もしかして経営が危ないのでは、何か問題があったのでは、と心配されてしまう可能性もゼロではありません。その結果、顧客や取引先が離れてしまうリスクも考えられるでしょう。
会社の商号が継続して使えることで、このような混乱を回避できるため、事業売却後の会社経営も安心しておこなえます。
事業売却のデメリット
事業売却には、メリットの反面デメリットも存在します。事業売却をすることによって、考え得るデメリットとしては、以下が挙げられます。
売却企業のデメリット | ・手続きに多くの手間や時間(コスト)がかかる。 ・対象事業の財務諸表を作成しなければならない。 ・事業売却しても負債がなくならない可能性があること ・売却益が発生した場合は税金が発生する(会社負担) |
買手企業のデメリット | ・消費税が課される ・税制適格組織再編税制による優遇措置を受けられない ・手続きが非常に煩雑である ・個別に新たな雇用契約を結ばなければならない |
事業売却をした際は、売却した価格に対する税金が発生します。このとき売却額の申告漏れなどがあると、ペナルティを受ける可能性もあるため注意してください。
事業売却で発生する税金
事業売却によるデメリットでも解説したように、事業の売却には金額に応じた消費税が発生します。事業の売却側に支払い義務が生じるのは「法人税」であり、税率は約30%となります。
注意したい点は、事業売却は企業の「組織再編行為」には当てはまらないということです。つまり、税制適格要件はありません。
税制適格要件とは、M&Aにおける課税の繰り延べのことを指します。これがないということは、つまり事業売却で利益が出た場合には法人税が課されます。ちなみに、買収側には10%の消費税が課されます。
事業を高く売却するコツ
事業を売却するならば、その後の経営のことも考えて、少しでも高額で売りたいところです。すでに事業売却額に影響する「売却価格」を決める要素はいくつか紹介しました。しかし要素が揃っていたからといって、売手の希望通りの金額で交渉がまとまるとは限りません。ここでは事業の売却金額を少しでもアップさせるためのコツを紹介します。
仲介会社に相談する
事業の売却金額をアップさせる方法として、おすすめなのが仲介業者へ依頼することです。仲介会社を通じてM&Aをおこなうことで、事業をより高く売却できる可能性があります。
仲介会社はM&Aの専門家であるため、プロならではの視点でアドバイスをくれます。仲介会社は、「M&A仲介会社」と「M&Aアドバイザリー会社」の2種類です。それぞれの特徴を紹介します。
M&A仲介会社は、売手・買手の両方と直接やりとりをし、仲介する会社です。一方で、M&Aアドバイザリー会社は、当事者のどちらか一方の依頼者のみとやり取りし、アドバイスをおこなう会社のことを指します。
M&A仲介会社は、両者の妥協点を探すことを目標にしています。反対に、M&Aファイナンシャルアドバイザリー会社は、依頼主の利益の最大化を目指してくれるといった強みがあります。
仲介会社を探す際は、依頼の目的がM&Aが成立することを重視するのか、条件を重視するのかを明確にしておきましょう。
自社について分析する
より高額に、事業を売却するならば、買手側に提示した金額の根拠を明確にしなければなりません。企業価値を判断する場合、客観性に乏しければそれだけ、買手に交渉の余地を与えてしまいます。
そこで可能な限り、客観的に自社について分析することが、高額で売却するコツとなるためです。まずは自社の強みや弱み、事業の特徴などを洗い出してみてください。さらに、これらを買手に対して、効果的に伝える方法を考えます。売手側が意図した通り、買手側に価値が伝われば、売却額アップが期待できるでしょう。
ここでの強みや弱みとは、具体的に「企業理念や風土」「従業員の質」「経営成績や市場シェア」「技術力やノウハウ」「取引先や顧客」のことです。つまり売却価格の決め手である「5つの要素」のとおりということです。これら5つの要素を中心に根拠を明確にしておくといいでしょう。。
売却のタイミングを見極める
事業や企業にかかわらず、何か大きなものを売るときには、タイミングにも気をつけなければなりません。どんなものにも共通していますが、購入者を多く募ればそれだけ高額な売却金額で取引されます。つまり、オークションと同じ仕組みということです。事業であっても、購入したい企業が多ければ多いほど売却額は上がります。
つまり事業を売却するのに適したタイミングというのは、購入したい者が多いタイミングということです。具体的には、業績が好調なときがその一つとして挙げられます。業績不振であるときに、わざわざリスクをとって買収したいと考える企業は少ないため、業績が上がっているときが売却のタイミングです。
同業者を対象に売却する
高額で事業を売却するならば、誰に売却するのかも考慮しなければなりません。おすすめなのは、売却対象である事業の同業者に売却することです。他業者へ売却するよりも、売却額が上がる可能性があります。
同業者へ売却することで金額がアップする理由としては、自社の強みを理解してもらううえで、相手もある程度の専門知識がなければならないためです。他業者よりも事業についてより深く理解し、魅力に感じてもらえる可能性が高いことから、売却金額がアップすると考えられます。専門知識を有する事業を売却する場合は、特に有効な方法でしょう。
しかし、これは必ずしも買収額が上がるわけではありません。逆に場合によっては下がってしまう恐れもあることを留意しておきましょう。
事業を子会社化したのち、売却する
ケースによっては、一旦、事業を自社の子会社化したのちに売却したほうが高額になる可能性があります。これは買手側にとって、事業よりも会社を買収するほうが税金を抑えられるというメリットがあるためです。
そして税金を抑えた分、高額で買い取ってもらえる可能性が高くなります。また税金が抑えられることで、買手の候補が増えるといった効果も期待できます。
M&Aにおける価格交渉方法
事業売却にかかわらず、M&Aをおこなう際には「交渉」がつきものです。M&Aの交渉方法には「相対交渉方式」と「入札方式」の2つがあります。
相対交渉方式は、売手側と買手側が売買対象を1対1の関係で交渉し、双方が合意した売買価格や売買条件で契約するものです。
反対に、入札方式は名前の通り、複数の買手候補を募って最も好条件を提示した買手候補を取引相手に選定する方法です。入札者の募り方は、広範囲に情報公開して不特定多数のなかから探すこともあれば、ごく限られた範囲のなかから数社を厳選することもあります。
事業売却に関する会計処理方法
売り手企業の会計処理
売手企業と買手企業で会計処理が異なるため、それぞれの会計処理についてご説明します。まずは、売手企業の会計処理についてです。譲渡する資産・負債の簿価と譲渡価格の差が売却益として計上されます。以下は事業譲渡で事業に紐づく資産(以下では土地、建物、機械装置)を譲渡して譲渡対価をすべて現金で受領する際の仕訳イメージとなります。
借方 | 貸方 | ||
勘定科目 | 金額(千円) | 勘定科目 | 金額(千円) |
現金 | 100,000 | 土地 | 50,000 |
建物 | 25,000 | ||
機械装置 | 15,000 | ||
売却益 | 10,000 |
買い手企業の会計処理
次に買手企業の会計処理についてご説明します。買手企業の会計処理ではのれんの計上が重要です。のれんとは買収した事業のブランド力やノウハウなどの価値を指します。買手企業は譲り受ける時価資産と時価負債から計算される差額と取得にかかった金額の差分額をのれんとして計上します。
またのれんは20年以内の期間で償却処理が必要となります。買収後も毎年処理が発生するため、その点もご留意してください。
借方 | 貸方 | ||
勘定科目 | 金額(千円) | 勘定科目 | 金額(千円) |
土地 | 60,000 | 現金 | 100,000 |
建物 | 20,000 | ||
機械装置 | 10,000 | ||
のれん | 10,000 |
事業売却後の社員はどうなる?
事業売却後も、会社は存続しているため、売却事業以外の社員には大きく影響を与えません。売却対象である事業に配属されている従業員は、そのまま買収先の企業に雇用されるか、転属し、元の企業に残るか選択することができます。
買手と売手、どちらの企業にもいかず、退職する場合は「会社都合」による退職扱いとなります。売却先の企業へ移る従業員は、まったくの別会社となるため、根本的な統合がされるでしょう。労働条件なども含め、買収先企業と新たに契約を交わすこととなります。
事業売却の成功事例
ここまで事業売却の相場や高額で取引するコツなどを解説しました。とはいっても、初めて事業売却をおこなう方にとっては、まだまだイメージできない部分が多くあるでしょう。なかでも、事業売却が成功したときのイメージがつかなければ、なかなかM&Aに踏み切ることは難しいものです。そこで、ここでは実際に事業売却が成功した3つの例を紹介します。
ウェブサイトの例
まず紹介するのが、ガジェットやIT系ツールにまつわるメディアを運営していた「株式会社Choisee」の事例です。同メディアはもともと、同社の社長が1人で運営していたメディアであったため、本来の業務が増えるとともにメディアの対応が難しくなってしまいました。
そのため、社長は事業売却することを決めました。大阪にある某Web関連会社が事業拡大を目指して、メディアのみを買収しました。互いの条件がマッチし「事業売却」という形で契約が成立しました。
飲食店の例
次に「有限会社スニタトレーディング」の事例を紹介します。同社は40年に渡って、本場インド料理店サムラートを運営している会社でした。
事業売却の対象は、前オーナーから承継した工場です。同工場はハラール料理を作れるため貴重ではあったものの、引き継ぐ前から負債を抱えており、同社の不採算事業となっていたようです。
この工場を「株式会社ゴーゴーカレーグループ」が買収。ゴーゴーカレーでもハラール料理を提供できるようになり、サムラートは知名度をあげるといった、事業売却による「シナジー効果」を得られました。
ウェブサービスの例
最後に紹介するのは、Web制作会社である「株式会社LIG」が、プラットフォーム「TRIP」を売却した事例です。
当時「株式会社LIG」はWeb制作をはじめ、多くの事業を扱っていました。上記のプラットフォームもそのひとつ。しかしある時期から、他事業をより拡大することを目的に、プラットフォームの担当者が不在となってしまいました。
そこで同社はマッチングサイトを利用して、某IT企業へプラットフォームを事業売却。売却するにあたって、LIGはIT企業とサービス運営を支援すべくコンサルティング契約も結ぶことに成功しました。
事業売却を検討したら「M&A DX」に相談しよう!
事業売却の相場をテーマに、価値の算出方法や事業価格の決め手となる要素、メリット、デメリット、高額で取引をするコツなどを解説しました。実際に成功した過去の事例も併せて紹介したので、初めて事業売却を検討する方でも、少しずつイメージができてきたでしょう。
会社の一部である事業を売却するときには、相応の準備や心構えをしなければなりません。判断に迷ったとき、すぐに相談できるM&Aの専門会社会社を見つけておくことをおすすめします。
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