株主総会とは
ここでは株主総会の種類や議題など基本的な事項について解説します。
株主総会とは何か
株式会社においては株主が会社の実質的な所有者であり、その意思決定を行うのが株主総会です。会社法第295条第1項においても、株主総会では「一切の事項について決議をすることができる」と規定されており、会社における最高の意思決定機関とされています。一方で、取締役会も同様に重要な意思決定を行う場ではありますが、参加者が取締役である点、事業の運営に関する意思決定が主になる点で株主総会とは異なります。株主総会では事業譲渡や解散といった会社の在り方に関わる意思決定がなされることもあり、非常に重要なイベントであるといえるでしょう。また、M&Aにおいては売り手と買い手の双方で株主総会の承認が必要になることもあり、M&Aの成否を決めるものでもあります。
株主総会の種類
定時株主総会
定時株主総会は、事業年度が終了後の一定の時期に開催することを義務付けられた株主総会であり、会社法第296条第1項にその規定があります。会社法の中では一定の期間については柔軟な解釈が可能とされており、例えば定款の中で「事業年度終了後〇ヵ月以内に定時株主総会を開く」という形で会社ごとに裁量を持って決めることができます。ただし、会社法第124条2項の中で株主の権利行使は事業年度終了から3か月以内とされているため、原則は事業年度3か月以内に開催することが必要です。一般的に多くの企業では毎年3月を決算期とすることが多いため、定時株主総会の開催日は6月前後が多くなる傾向にあります。
臨時株主総会
臨時株主総会は定時株主総会とは別に臨時で開催される株主総会です。臨時株主総会は会社経営に関する重要な意思決定を緊急で行う際に開催されます。具体的には、取締役に欠員が出た際の人選、配当に関する決議、定款の変更などといった会社の経営に関わる重要なテーマや株主の利害にかかわる事柄についての意思決定が行われます。また、上場企業に限らず非公開会社においてもだい三者割当増資や新株予約権を発行する際には臨時株主総会で意思決定が行われることが多いでしょう。
株主総会の議題
・会社の経営に関わる事項
・役員に関する事項
・株主の利害に関係する事項
株主総会開催の流れ
ここでは、実際に株主総会が開催される流れについて解説します。
事前準備
株主総会の開催にあたっては様々準備が必要となります。まず、取締役を始めとした経営陣のスケジュールを確保し、株主総会の運営方針を決めることが重要です。実際に株主総会で決議すべき内容の精査、質疑応答への準備などは早期から進めておく必要があるでしょう。また、株主総会の議事に対する準備は当然として、招集通知の郵送など実務面での手配についても段取りを立てておくことが必要です。
招集
株主総会を招集する際には以下の事項を決めておく必要があります。従来は株主総会に先立って株主に招集通知及び資料を一斉に郵送し、株主総会の当日は大きなホールなどを貸切にして開催されることが一般的でした。しかし、近年はコロナ禍などや政府による電子化の推進もあり、オンラインで株主総会が開かれるケースも多いため、オンラインで出席した株主からの質問にどう答えるかなど新たな課題も出てきています。また、オンラインで株主総会を実施するためのシステムも生み出され株主総会の電子化は企業のDXにおける一つのテーマとなっています。
議事進行
会社法第315条の規定では、株主総会においては議事進行を行う議長を選任することが定められています。議長は単なる議事進行だけではなく、株主総会の秩序を維持し、株主総会の秩序を乱す出席者を退場させる権限を持っています。現在は少なくなったものの、反社会勢力を母体とした総会屋問題になった時期もあり、議長には強い権限が与えられているのです。一般的に代表取締役社長が株主総会の議長を務め、議事進行を行うことが多いですが、議長については定款によって自由に定めることができます。
議事録作成
株主総会の議事内容は議事録として記録することが会社法第318条で規定されています。また、議事録は株主総会の開催日から10年間の間は保管し閲覧請求があった際には開示しなければなりません。株主総会は会社の経営に関わる重要な会議ですが、その記録も当然重要な資料となります。また、議決内容によって議事録の記載項目も異なるため注意が必要です。
株主総会での決議事項
株主総会では会社の経営に関わる様々な事項に関する意思決定が行われます。その内容によって、複数のパターンに分かれており、ここではそれぞれの決議の要件や決議事項などの内容について解説します。
普通決議
普通決議とは、行使可能な議決権の過半数を持つ株主が出席しており、かつ出席した株主の
過半数によってなされる決議です。具体的には、剰余金の処分、役員の選任といったテーマは普通決議となる場合が多いです。
特別決議
特別決議とは、行使可能な議決権の過半数を持つ株主が出席しており、かつ出席した株主の3分の2以上によってなされる決議です。普通決議よりも会社の経営に大きな影響を及ぼす事項を決定する際に特別決議が必要とされます。具体的には、事業譲渡の承認、会社の解散、吸収合併など会社の在り方を大きく変えてしまうような手続きが特別決議の対象になります。
特殊決議
特殊決議は、会社法第309条3項と同条4項の2種類が規定されています。309条3項は、議決権の行使できる株主の過半数、かつ議決権の2/3以上の賛成で決議されます。309条4項は、総株主の半数以上、かつ、総株主の議決権の3/4以上の賛成で決議されます。
特殊決議は株式の非公開化、株式の譲渡制限に関する定款の変更など特別決議より重大な意思決定を行う際に行われ、特殊決議の要件は定款によってさらに厳しくすることもできます。特別決議との大きな違いは、株主総会への出席数ではなく、株主の人数を基準に要件を定めていることです。
M&Aと株主総会
ここでは、株式譲渡と事業譲渡といったM&Aでよく実施される手続きにおいて、株主総会がどのように関係するのかについて解説します。
株式譲渡における株主総会
株式譲渡とは
株式譲渡はある企業の株式を他社に譲り渡すことであり、M&Aの一般的な手法の一つです。
保有する株式の数によって行使できる権限が強くなりますので、株式譲渡を受け企業や個人は譲渡した企業の経営に介入できる余地が大きくなります。一方で、後述する事業譲渡に比べると手続きは簡素なものであり、一部のケースを除き株主総会での特別決議も不要です。また、株式譲渡を受ける場合も特別決議は不要とされています。
株主総会における特別決議が必要なケース
基本的に特別決議を必要とされない株式譲渡ですが、親会社が子会社の株式の過半数以上を売却する際には株主総会での特別決議が必要です。また、譲渡制限がかけられた株式を譲渡する際には、取締役会設置会社であれば取締役会で、そうでない場合は株主総会での承認が必要となります。
事業譲渡における株主総会
事業譲渡とは
事業譲渡とは会社法467条で定められた手続きであり、自社が管轄する事業の全部または一部他社に譲り渡すことです。事業譲渡の大きな特徴は、事業で使用している設備や建物といった有形資産に留まらず、人材や顧客ネットワーク、事業ノウハウなどの無形資産も対象になることです。
そのため、事業譲渡は経営上重要な意思決定の一つされ、後述の通り株主総会の特別決議対象となっています。
株主総会における特別決議が必要なケース
事業譲渡を行う際、譲渡する企業と譲受する企業の双方で株主総会を開催し、特別決議の承認を得る必要があります。株主総会開催の条件は「重要な財産の処分」に該当するか否かを基準として以下の表の通り細かく条件が定められており、どの条件に該当するのか正しく理解することが重要です。例えば、子会社株式の全部または一部を譲渡する場合においては、譲渡する株式の帳簿価額や子会社に対する議決権の割合など株主総会の開催を要する詳細な条件が会社法の中で定義されています。
株主総会開催の条件 | 詳細な条件 | |
1 | 譲渡企業の全ての事業を譲渡する場合 | ー |
2 | 子会社株式の全部または一部を譲渡する場合 | ①譲渡する株式または持分の帳簿価額が、譲渡企業の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額の1/5を超えるとき ②譲渡企業が、効力発生日において子会社の議決権の総数の過半数の議決権を有しないとき |
3 | 他社の事業を全て譲受する場合 | ー |
4 | 事業における全賃貸や経営の委任、損益を共通にするといった契約や変更、解約に関する手続きをとる場合 | ー |
5 | 対価として譲渡先へ交付する資産の帳簿価額の合計が、該当する株式会社の純資産額の1/5を超えている場合 | ①譲渡する資産を株式会社を設立する前から保有している場合 ②譲渡する事業に使用する場合 ③会社が設立されてから2年以内である場合 |
まとめ
M&Aの世界において株主総会はM&Aの成否を決める重要な通過点であり、M&Aの実務に関わる方であれば、正しい知識を持つことが求められます。特に普通決議や特別決議といった各決議の違い、株式譲渡や事業譲渡について株主総会の承認が求められるケースなどは&Aにおいて重要な知識といえるでしょう。今回の記事を通して株主総会についての知識を深めるとともに、M&Aの実務に役立てていただけると幸いです。