遺産分割協議書とは
最初に、遺産分割協議の基本を確認しておきましょう。
遺産分割とは、被相続人(死亡した人)の相続財産のうち、具体的にどの財産をどの相続人(相続財産を取得する人)が取得するのかという、遺産の分け方を決めることです。その遺産分割のためにおこなわれる相続人間の話し合いのことを「遺産分割協議」といいます。
本記事のテーマである「遺産分割協議書」とは、遺産分割協議の結果を記した書面のことであり、相続人全員が遺産分割協議の内容に同意したことの証明書になります。
なお、相続人が1人以下である場合、遺言書によってすべての相続財産の取得先が決まっている場合は、遺産分割協議をおこなう必要がなく、遺産分割協議書を作成する必要もありません。
また、遺産を法定相続分(民法で定められた割合)で分割する場合にも、遺産分割協議をおこなう必要はありません。ただしこの場合でも、法定相続分で分割すると定めた証拠としての遺産分割協議書を作成しておいたほうが、後のトラブルが防げます。
遺産分割協議書の作成期限
遺産分割協議書の作成に期限はありません。ただし、遺産分割協議書を相続税申告書に添付しなければならない点を考慮すると、相続税申告の期限である「相続開始を知った日の翌日から10か月以内」には作成しなければならないということになります。(その日までに作成できない場合、いったん法定相続分で遺産分割をしたものとして相続税申告をおこない、「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておくことで、その後3年以内に遺産分割協議がまとまれば、遡及して申告内容を変更できます)。
仮に、相続財産が少額で、相続税申告が不要な相続でも、遺産分割協議書は預金の名義変更などにも必要になることから、できるだけ早く作成したほうが相続手続きをスムーズに進めることができます。
遺産分割協議書を作成する理由
遺産分割協議書に定められた期限がないことは前述のとおりですが、そもそも遺産分割協議書の作成自体も法律上の義務ではありません。遺産分割協議書を作成しなくても罰せられることはないのです。しかし、それでも遺産分割協議書は必ず作成することをおすすめします。
遺産分割協議書が相続手続きに必要であるということも理由の1つではありますが、大きな理由は、遺産分割協議後の相続人間トラブルの防止です。遺産分割協議書がないということは、遺産分割協議の内容を証明する手段がないということになります。万が一、遺産分割協議後に相続人の誰かが「合意していない」など異議を唱えた場合、遺産分割協議書がないと対抗できないのです。せっかく完了した遺産分割協議をやり直さなければならなくなる可能性もあり、高確率で相続トラブルへ発展してしまうでしょう。
遺産分割協議書の作成は、国税庁のひな形を利用するのがおすすめ
遺産分割協議書の必要性がわかったところで、次に遺産分割協議書の作成方法について解説します。
自分で遺産分割協議書を作成する際には、ゼロから自分で作成する必要は、まったくありません。
遺産分割協議書のひな型(テンプレート)はインターネット上に数えきれないほど公開されているので、それを流用して、必要な部分だけを書き換えればいいのです。
中でも、信頼できるひな形として、本記事では、国税庁が公表している以下のひな形をおすすめします。
このひな形は、国税庁のWebサイトからダウンロードできます。
遺産分割協議書の作成ポイント
遺産分割協議書に定められた様式はありません。「縦書きor横書き」、「手書きorパソコンによる印字」など、自分が作成しやすい方法を選んでください。ただし、内容に不備があった場合には無効になってしまう場合もあるため注意が必要です。以下の内容については、漏れなく記載してください。
・被相続人情報
・相続人情報
・誰がどの相続財産をどれだけ取得したのか
・作成日付
・相続人全員の署名押印
遺産分割協議書は自由設計ではありますが、ひな形をベースに作成していくことを心がけましょう。
タイトルに「遺産分割協議書」と明記
遺産分割協議書であることが誰でも一目にわかるように、タイトルに「遺産分割協議書」と明記します。書式や文字の大きさなどは自由に決めてください。
被相続人と相続人情報を明記
遺産分割協議書では被相続人や相続人が誰であるかについて、疑義の余地なく「この人だ」と特定できなければなりません。氏名だけではなく、それぞれ以下の情報を記載してください。誤りがないように戸籍謄本や住民票を書き写しましょう。
【被相続人】
・氏名
・本籍地
・最後の住所
・生年月日
・死亡年月日
【相続人】
・氏名
・住所
・被相続人との続柄
誰がどの相続財産をどれだけ取得したのかを明記
遺産分割協議書で最も重要な部分になります。誰が、どの相続財産を、どれだけ取得したのかを明記しましょう。特に相続財産の内容については、疑義なく特定できるように詳しく以下のように記載してください。
【普通預金】
金融機関名、支店名、口座の種別、口座番号、口座名義人、相続開始日時点での残高など
【株式】
証券会社名、支店名、発行会社名、株式数など
【借入金】
金融機関名、支店名、管理番号、相続開始日時点での残高など
【不動産】
全部事項証明書の表題部の情報をそのまま書き写します。
土地の場合:所在、地番、地目、地積
建物の場合」所在、家屋番号、種類、構造、床面積
不動産登記のABCより引用
遺産分割協議書の作成日付を明記
遺産分割協議書がいつ作成されたのかを明らかにするために、必ず作成年月日を記載してください。具体的な年月日としては「遺産分割協議に合意した日」、または、「遺産分割協議書の署名押印が完了した日」のいずれかにするのが一般的です。
相続人全員の署名押印
最後に、相続人全員が遺産分割協議に合意したことの証明として、住所氏名を記載して押印します。住所氏名については印字でも問題はありませんが、各相続人の自署をおすすめします。筆跡は本人であることの何よりの証明になるからです。また、押印についても実印にしましょう。さらに印鑑証明書も添付することをおすすめします。
いずれも、遺産分割協議後に「自分が書いたのではない」、「自分の印鑑ではない」と主張されることを防ぐ効果があります。また、不動産の相続登記の際には、実印で押印された遺産分割協議書が必要になることから、認印で作成していると二度手間になってしまいます。
その他のチェックポイント
遺産分割協議書が無効になるわけではありませんが、上記に合わせて以下の点にも注意しましょう。これで、遺産分割協議による相続トラブルを極限に防ぐことができます。
・相続人全員分の遺産分割協議書を作成する
国税庁の遺産分割協議書のひな形は1ページに収まっていますが、相続財産が多い場合などでは複数ページに渡ることも多いです。遺産分割協議書が複数ページになる場合には、ページの追加や抜き取りなどの不正を防止するため、ページの間に契印を押印しておきましょう。
遺産分割協議書は紛失や偽造などによるトラブルを防止するために、相続全員分を作成し、それぞれが1通ずつ所持しておくのが原則です。コピーではなく、同一のものを人数分作成します。
その他のひな形
国税庁のひな形以外の例として、以下のようなひな形もあります。縦書きが横書きになるだけでも、一目見たときの印象は変わります。
この遺産分割協議書のひな形では、最後に「すべての相続人は、ここに記載された以外の相続財産があった場合は、相続人○○が相続することに意義はないものとする。」と記載があります。遺産分割協議書に漏れた相続財産があった場合の取り扱いについても明記しておくことで、包括的にカバーできる内容となっています。
つまり、遺産分割協議後に新たな相続財産が発見された際には、この1文の有無で対応が大きく変わることになります。国税庁のひな形をベースに遺産分割協議書を作成する場合には、この1文の追加を検討するとよいでしょう。
遺産分割協議書作成を依頼できる専門家
遺産分割協議書は自分で作成できますが、専門家に依頼することもできます。万が一の不備が不安であるとか、多忙などで、自分自身で作成するのが難しい場合には、専門家に一任するのも方法の1つです。具体的な専門家としては、行政書士、司法書士、弁護士が挙げられます。
遺産分割協議書の作成のみを依頼したい場合は行政書士が向いています。司法書士や弁護士よりも安価で済む可能性が高いでしょう。司法書士への依頼が向いているのは、不動産の相続登記もある場合です。遺産分割協議書の作成から相続登記までセット料金を設定している司法書士事務所も多いです。もちろん遺産分割協議書のみの依頼も可能ですが、行政書士よりも報酬が高い可能性があるため注意しましょう。
遺産分割協議書の作成以外にも、遺産分割協議で揉めているなど相続トラブルの相談をしたい場合の依頼先は弁護士一択になります。法律相談や相続人の間に入っての交渉、調停や審判のサポートをおこなってもらえる分、報酬も最も高額になります。
どの専門家に依頼するかで遺産分割協議書の完成度が大きく変わるということはありません。遺産分割協議書の作成のみであれば行政書士、遺産分割協議書と合わせて他の依頼内容もある場合には、司法書士または弁護士を考えるのが一般的です。
まとめ
遺産分割協議で相続財産を分割した場合には、必ず遺産分割協議書を作成しましょう。遺産分割協議書の作成は、国税庁のひな形などをベースにして、ポイントをおさえながら組み込んでいくことで不備なく仕上げることが可能です。決して難しいものではないので安心してください。それでも、自身での作成は難しいという場合には、専門家への依頼を検討するとよいでしょう。