【相続の手続き】身内が亡くなったらすることとは?相続発生後すぐにおこなう手続き

弁護士 南陽輔

大阪市出身。大阪大学法学部、関西大学法科大学院卒業。2008年弁護士登録(大阪弁護士会所属)。大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件等幅広く法律業務を担当。2021年3月に現在の一歩法律事務所を設立し、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行う。

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ご家族が亡くなった後、遺族はさまざまな手続をしなければなりません。手続は役所に対しておこなうものもあれば、銀行などの民間企業に対しておこなうものもあります。また、遺産の分割など、家族間で決めなければならないものもあります。
いずれにしても、多くの手続には、法律などで期限が定められており、期限内におこなわなければペナルティが課されることもあります。
本記事では、ご家族が亡くなった後でどんな手続が必要になるのかを、時間軸に沿ってまとめましたので、参考にしてください。
なお、本記事にはいわゆる葬礼(通夜や告別式、葬式など)についての説明は含みません。

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相続発生後の手続全体の流れ

相続発生後の手続には、死後すぐにおこなわなければならないものから、数年の期限が定められているものまでさまざまなものがあります。
まず全体の流れを時系列で確認します。

相続後の主な手続の流れ

◆7日以内 ※本記事で解説する手続
・死亡届けの提出
・火葬許可証、埋葬許可証の準備
◆10日以内 ※本記事で解説する手続
・年金受給権者死亡届の提出(厚生年金、共済年金を受給していた人の場合)
◆14日以内 ※本記事で解説する手続
・年金受給権者死亡届の提出(国民年金を受給していた人の場合)
・健康保険証等の返却(国民健康保険、後期高齢医療制度加入者の場合)
・世帯主の変更(故人が世帯主で残された同世帯の人が2人以上の場合)
・特別永住者証明書等の返却(故人が外国人の場合)
・介護保険被保険者証、介護保険負担割合証の返還(介護保険被保険者の方)
◆期限は定められていないが、すみやかに
・公共料金、クレジットカードなどの名義変更、解約手続
・パスポートの返納
・運転免許証の返納(任意)
◆3か月以内
・相続放棄
・限定承認
・相続の承認又は放棄の期間の伸長
◆4か月以内
・準確定申告
◆10か月以内
・遺産分割協議書の作成(期限の定めはないが、相続税の申告前までがおすすめ)
・相続税の申告と納付
◆1年以内
・遺留分侵害額請求
◆2年以内
・葬祭費、埋葬料の請求
・国民年金の死亡一時金の請求(遺族年金を受け取らない場合)
・高額療養費制度による医療費の払い戻しの請求
◆3年以内
・生命保険などの保険金の請求
◆5年以内
・遺族年金の受給請求

本記事では、死亡後すぐにおこなう手続から前半部分までの手続を解説します。後半の手続は、別記事で解説します。

死後7日以内に死亡届を提出する

人が亡くなった後、最初にやらなければならないのは、「死亡届」の記載と提出です。以下、時系列に沿って説明します。

死亡は必ず医師が確認する

現代では、自宅で亡くなる人は10%強しかいません。ほとんどの方は病院や老人ホームなどの施設で亡くなります。通常、病院や施設には死亡届と「死亡診断書」が1枚になった書類が備えられており、診察していた患者の死亡を医師が確認すると、すぐに死亡診断書を書いてくれます。

また、病院や施設以外の場所で人が亡くなった場合は、警察や消防(救急車)などを呼ぶことになります。自宅に訪問してもらった医師、あるいは救急車等で搬送された病院の医師に死亡を確認されれば、その後に「死体検案書」を作成してもらいます。医師が診療していた患者について作成するのが死亡診断書で、それ以外の場合に作成するのが死体検案書ですが、内容はほぼ同じです(以下、「死亡診断書等」と呼びます)。
なお、死亡診断書等の作成費用は5000円程度です。

死亡届とは?

医師に死亡診断書等を作成してもらったら、次に「死亡届」を作成します。死亡届は、人が死亡したことを証明する書類です。

死亡届に記載する内容は、死亡者の氏名、住所、本籍地、生年月日などのほか、死亡場所、死亡時刻などの死亡に関する情報、また、届出人の氏名、住所、本籍地などです。

通常、死亡届と死亡診断書等は一枚の書類にまとめられているので、一緒に提出します。

死亡届(出典:法務省Webサイト)

死亡届はだれが、どこに提出する?

死亡届を提出する先は、故人の「死亡地」「本籍地」、または「届出人の所在地」の、市区町村役場です。死亡者の住所地と死亡地が異なる場合など、住所地では届出できないので注意しましょう。

また、死亡届の届出人となれるのは、親族か同居人で、それらの人がいない場合は、家主・地主・土地家屋の管理人(いわゆる大家さんなど)、後見人などです。

なお、葬儀社などは死亡届の届出人にはなれません。しかし、葬儀社に死亡届の提出などを代行してもらうことは可能です。依頼する葬儀社が決まっているのであれば、なにが代行してもらえることで、なにが自分でやらなければいけないことなのか、相談してみましょう。

死亡届はいつまでに提出する?

死亡届は、死亡の事実を知った日から、7日以内に役所に提出しなければなりません。死亡した日からではなく、「死亡の事実を知った日」からとなっているのは、たとえば、故人が旅行中に死亡した場合など、実際に死亡した日よりも後で死亡を知ることがあるためです。

なお、7日以内に提出しなかった場合は、5万円以下の過料が科せられることもありますので、期日を守りましょう。

火葬をするために必要な「火葬許可証」と、埋葬に必要な「埋葬許可証」

市区町村役場で死亡届けが受理されると同時に、「火葬許可証」を申請して発行してもらいます。火葬許可証がなければ、火葬場が受け付けをしてくれないので、遺体を火葬することができません。

遺体の火葬が済むと、火葬場から押印された「火葬執行証明済みの火葬許可証」が返却されます。この火葬執行証明済みの火葬許可証は、埋葬をするのに必要な「埋葬許可証」として使われることになる、大切な書類です。

たとえば、葬礼が仏教式の場合、いわゆる四十九日の法要までは骨壺を自宅で保管し、四十九日の法要後に墓地に埋葬することが一般的です。その際には、「火葬執行証明済みの火葬許可証」を埋葬許可証として菩提寺に提出する必要があります。

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死亡届の提出以外の手続は、故人の状況などによって変わってくることがあることに注意

死亡届の提出、火葬許可証の取得などは、どんな人が亡くなった場合でも必ずおこなわなければならない手続です。
一方、それ以外の手続は、故人の属性や状況、故人と遺族との関係などによって変わってくるものもあります。たとえば、

・故人が世帯主か否か
・故人が世帯主の場合、残された同世帯の人の人数
・故人の年齢や職業(年金受給世代か、現役世代か、後期高齢者か、自営業か会社員かなど)
・年金受給をしていた場合、国民年金か厚生年金か

などによる違いです。

10日以内に行う手続

年金受給権者死亡届の提出(厚生年金、共済年金を受給していた人の場合)

故人が厚生年金や共済年金を受給していた人の場合、10日以内に「年金受給権者死亡届」を提出します。提出先は管轄の年金事務所や共済組合です。
ただし、日本年金機構にマイナンバーを登録している方は、原則として、「年金受給権者死亡届」の提出を省略できます。

なお、年金を受けている方が亡くなったときにまだ受け取っていない年金や、亡くなった日より後に振込みされた年金のうち、亡くなった月分までの年金については、未支給年金としてその方と生計を同じくしていた遺族が受け取ることができます。

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14日以内に行う手続

年金受給権者死亡届の提出(国民年金を受給していた人の場合)

故人が国民年金を受給していた人の場合、14日以内に「年金受給権者死亡届」を提出します。提出先は管轄の年金事務所です。
マイナンバーの登録があれば提出を省略できることや、遺族が同月分の未支給年金を受け取れることは、上の厚生年金の場合と同様です。

健康保険証等の返却(国民健康保険、後期高齢医療制度加入者の場合)

故人が国民健康保険加入者(75歳未満)、または後期高齢者医療制度加入者(75歳以上)の場合、保険証(国民健康保険被保険者証)を役所に返還します。
また、故人が世帯主だった場合は世帯全員の保険証の変更が必要になります。

世帯主の変更(故人が世帯主で残された同世帯の人が2人以上の場合)

故人が世帯主であり、かつ残された同世帯の人が2人以上の場合は、世帯主変更届を提出します。たとえば、世帯主だったお父さんが亡くなり、お母さんとお子さんが同じ家に住む同世帯である場合などです。

特別永住者証明書等の返却(故人が外国人の場合)

故人の特別永住者証明書、または外国人登録証明書のいずれかを返却します。なお、原則として在留カードの返却先は出入国在留管理局になりますが、市区町村役場でも返却可能な場合もあります。

介護保険被保険者証、介護保険負担割合証の返還(介護保険被保険者の方)

介護保険被保険者証、介護保険負担割合証は、市区町村役場に返還します。いつまでという定めはないものの、国民健康保険等の返却をするのであれば、それと一緒に手続を済ませてしまうのがよいでしょう。そのため、14日以内におこなうことが普通です。

余裕をもって準備したほうがいい手続:戸籍の取得と遺産の確認

相続の手続では、多くの場面で、被相続人(故人)の戸籍、および法定相続人の戸籍が必要となります。戸籍の取り寄せには時間がかかることもあるので、なるべく早めに着手したほうがいいでしょう。同様に、遺産(相続財産)の確認も、早めに進めましょう。

法定相続人の確定などに必要な、被相続人のすべての戸籍謄本の取得

民法上、遺産を受け取る権利を持つ人のことを「法定相続人」と呼びます。法定相続人がだれなのか(相続人の範囲)が確定しないと、遺産分割はできません。
法定相続人を確定するためには、被相続人(故人)の出生から死亡まで連続した戸籍謄本が必要です。また、被相続人の戸籍謄本は、相続税の申告や不動産の相続登記、預金や証券の名義変更などにも必要なるため、早めに取得しておいたほうがいいでしょう。

被相続人の戸籍謄本は、通常、1通では済まない

戸籍謄本には種類があります。まず、被相続人の死亡の情報が掲載されている「除籍謄本」が必要です。また、除籍謄本以外に、戸籍法の改正に伴って改正前の古い戸籍となった「改製原戸籍謄本」も必要になります。さらに、結婚や引っ越しなどで本籍地に変更があった場合は、その変更ごとの戸籍が必要になります。

故人の年齢や結婚歴などにもよりますが、通常は数通の戸籍が必要となり、またその請求先も複数の自治体になることもあります。

被相続人だけではなく法定相続人全員の戸籍謄本も必要

法定相続人を確定するためには、被相続人の戸籍だけで足ります。しかし、相続税の納付や不動産の相続登記、預金口座の凍結解除などには、被相続人の戸籍以外に、法定相続人全員の戸籍が求められます。そのため、被相続人の戸籍により法定相続人が確定したら、次に法定相続人全員の戸籍を集めます。

戸籍の取り寄せは専門家に頼んだほうがいい場合もある

戸籍は本籍地(本籍地が移転している場合はその、移転した本籍地ごと)の市町村役場で請求しますが、郵送での請求も可能です。ただし、結婚、離婚を繰り返している場合や、本籍地の移転が多い場合は、複数の自治体に問い合わせをしなければならず、取り寄せの手間がかかります。

またその際に、古い市町村が合併でなくなっていれば、どの市町村に請求先すればいいのかを調べることも必要です。さらに、昔の戸籍は手書きであるため、取り寄せても読めないということもたびたびあります。

そういったもろもろの手間を考えると、特に故人が高齢で亡くなった場合には、戸籍の取り寄せを司法書士、相続専門税理士などの専門家にまかせたほうがいいかもしれません。

遺産の財産目録の作成

遺産分割において、法定相続人の確定と並んで必要になるのが、「財産目録の作成」です。これも、時間がかかる場合がありますので、できれば早めに着手をしたほうがいいでしょう。

財産目録は、遺言書がない場合は当然必要になりますが、遺言書がある場合でも作成をしたほうがいいでしょう。遺言書が残されている場合でも、遺言書の作成から時間が経っていると、遺言書に記載されていない財産があったり、遺言書に記載されている財産がなくなったりしていることがあります。そうなるとその財産については遺産分割協議をしなければならないため、遺産をすべて洗い出すことが必要です。財産額が確定されなければ、相続税の納付が必要かどうかもわかりません。

代表的な相続財産には下記のようなものがあります。

・預金、現金
・証券、債券、ゴルフ会員権などの金融資産
・不動産(物件ごと)
・生命保険の保険金など
・自動車などの動産
・負債(住宅ローン、その他借金、借金への個人保証など)
・生前の贈与の持ち戻し分(相続発生前の3年以内におこなわれた贈与は、相続財産に組み入れる)

遺産分割協議をはじめる目安は「四十九日」だが、準備は早めに

仏教式の葬礼では、いわゆる四十九日の法要後にお墓に納骨をします。納骨が済むと、葬礼も一段落しますので、その後から遺産分割協議の準備をはじめることが多いようです。

遺産分割協議の準備は、全員が法定相続分での分割に納得する場合など、とくに問題がなければすぐに終わり、遺産分割協議書を作成することができます。
ただし、上記で説明した戸籍の取り寄せや財産目録の作成などは、時間がかかることが多いので、相続人が多い、遺産が多いといったご家庭の状況によっては、四十九日をまたずに早めに着手したほうがよいでしょう。

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着手する前に注意が必要な手続:銀行など金融機関への連絡

故人が利用していた銀行など、金融機関への連絡も必要ですが、これについては細心の注意が必要です。というのも、金融機関は、口座の名義人が死亡したことを知ると、不正利用を防ぐために、預金の引き出しや引き落としをできないように口座の「凍結」をしてしまうためです。

もし、故人の預金口座に、遺族も含めた一家全体の生活費が預けてある場合は、引き出しや引き落としができないと困ったことになってしまいます。また、葬儀代などのまとまったお金を故人の預金から支払おうと考えていた場合も同様に困ります。

凍結された口座の預金を引き出すには

口座の凍結を解除して預金を引き出せるのは、以下の場合です。

・遺言書がある場合。
・遺産分割協議書がある場合。
・共同相続をする場合。

いずれの場合も、被相続人(故人)および法定相続人全員が確認できる戸籍謄本、または法務局発行の法定相続情報一覧図、法定相続人全員の(遺言があり、遺言執行者がいる場合は遺言執行者の)印鑑証明書、故人の預金通帳・キャッシュカードなどが必要です。

また、一部の預金を引き出せる「遺産分割前の相続預金の払戻し制度」もあります。これは、上記のように預金を引き出せないと生活費に困るような場合があることに鑑み、一定金額(最大150万円)までは預金を引き出せるようにする創設された制度です。

ただし、その利用のために用意しなければならない書類は、被相続人(故人)および法定相続人全員が確認できる戸籍謄本、法定相続人全員の印鑑証明書など、共同相続の場合とあまり変わらなく、やはりある程度の手間がかかります。

口座凍結前の引き出しには十分注意する

預金口座の凍結解除にはかなりの時間と手間がかかるので、実際上は、必要となる預金を引き出してから金融機関に死亡を知らせる人も少なくありません。もし、法定相続人が1人であるなら、その方法でもトラブルにはならないかもしれません。

しかし、複数の相続人がいる場合、故人の預金は、遺産分割が済むまでは相続人全員の共有財産であるため、特定の相続人が預金を引き出したとなると、その使途などをめぐってトラブルが生じる可能性があります。

そのため、原則的には可能な限り、早期に遺産分割協議をまとめるか、「遺産分割前の相続預金の払戻し制度」などを用いて引き出すことが望ましいでしょう。

まとめ

まとめ

家族が亡くなった悲しみの中で、さまざまな手続をしなければならないのは、大変なことです。しかし、法定の手続をきちんとおこなわなければペナルティを受けたり不利益を被ったりすることもあります。自分だけでおこなうことが難しい、時間がかかすぎると感じるときは、専門家の力を借りることを検討しましょう。

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