企業価値評価とは?おもな算出方法のメリットとデメリットも解説

会計士 加藤大典

大手自動車メーカーに入社、生産技術部にて製造工程設計業務に携わる。その後、デロイトトーマツコンサルティングに入社し、組織再編により有限責任監査法人トーマツのアドバイザリー部門に異動。製造業の法定監査業務及びIFRS導入支援、組織再編支援、事業再生支援、内部統制構築支援、決算早期化支援、経営管理体制強化支援等の様々なプロジェクトに従事。

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非上場企業は株式を証券市場で売買されていないため、株価(企業の価値)を知ることができません。M&Aの売手は相場より著しく低い価格での譲渡を意図せず実行してしまうリスクをはらみ、買手は相場より著しく高い価格での譲受を意図せず実行してしまうリスクをはらみます。これらのリスクを顕在化させないために、専門家による企業価値評価が重要となります。

企業価値の算出の方法はいくつかあります。ここでは企業価値評価とはなんなのか、また企業価値の算出方法、それぞれのメリットとデメリットを解説していきます。

企業価値評価は、様々な手法があり、その選択には事業の理解が不可欠です。メリット、デメリットを踏まえたうえで、企業にあった評価方法を選択することが肝要です。

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企業価値評価とはどんなものなのか?

企業価値評価とはどんなものなのか?

そもそも企業価値とは?

そもそも企業価値とはなんなのでしょうか。企業価値とは、企業の「価値」を「価格」にすることを指します。「価値」は、当事者の立場や状況によって、一物多価となり、万人が共通に認める保証がないものです。一方、「価格」とは、売り手と買い手の間で決定された値段を指します。
M&A実務における企業価値の評価は、M&A戦略策定時や、M&A取引の実行時、ポストM&Aなどの各フェーズで行われます。

企業価値の評価方法

企業価値評価はM&Aにおいて活用されます。企業価値を評価し、定量化することにより売手と買手の間で合意する買取価格をすり合わせます。

企業価値評価の方法は大きくわけると、3つあります。ここからは企業価値評価の方法を紹介します。

企業価値評価が重要な理由

高価格で会社を売却可能にする

企業価値が上昇すれば、M&Aで会社を売却をするときに高い売却価格を交渉することができます。そして企業価値が上昇しているかどうか把握するために企業価値評価を行う必要があります。
企業価値評価において重要な要素の1つは実現可能性の高い事業計画の作成です。信頼度の低い事業計画をもとに算定した企業価値では、売却価格の交渉材料としては使用できないため、合理的に実現可能性が高いと考えられる事業計画を作成する必要があります。

融資を受けやすくなる

企業価値評価を行う副産物として、銀行などの金融機関から融資を受けやすくなります。
金融機関は過去の業績だけでなく事業の将来性を見て融資すべきかどうかの判断を下します。そこで融資を受けるために金融機関に対して事業計画書を提出する必要があるのですが、前述した通り企業価値評価において実現性の高い事業計画を作成する必要があるため、企業価値評価を行っていれば金融機関に対する事業計画書の作成負担が非常に少なくなります。
融資を受けることができればよりダイナミックな設備投資をすることが可能になり、アグレッシブな事業計画を描いてさらなる企業価値向上につながる可能性もあります。

顧客からの信頼が高まる

企業価値が上昇すると、必然的に顧客から魅力的に思われる要素が多くなります。
なぜなら企業価値が高い企業は高成長企業(独自ノウハウを持っているなど高い将来性)、大企業(スケールメリットを活かした高収益体質と安定した財務基盤)、老舗企業(取引先との長年の関係性から安定収益)であることが多いからです。
そのため企業価値評価を行い自社の強み・弱みを客観的に把握することで、適切な自社ブランディングを行うことが可能となります。

株価が上昇する

企業価値が上昇すると株価が上昇します。企業の価値が上昇しているのだからその企業の株式の価値も上がるのは当然だと思うかもしれませんが、正しく企業価値と株式価値の関係を理解できている人は多くありません。企業価値と株式価値は以下のような関係にあります。

企業価値=株式価値+純有利子負債
株式価値=株価×発行済株式総数(自己株式調整後)
※純有利子負債=有利子負債(借入、社債など)-現預金

つまり純有利子負債の金額が変わらなければ、企業価値が上昇すると株価が上昇することになります。

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コストアプローチ

コストアプローチ

コストアプローチとは、企業の価値を会社が保有する資産・負債に基づいて企業価値を評価する方法です。会社が所有している個々の資産の価値を時価または再調達コスト等に基づいて試算し、その総額から負債の時価総額を控除して株式価値を評価します。

修正簿価純資産法

修正簿価純資産法はその名前のとおり、簿価純資産法を修正した算出方法です。簿価純資産法は簿価純資産をそのまま使用して算出するため、、実態を反映しないケースがあります。その欠点をカバーしているのが修正簿価純資産法です。

貸借対照表に計上されている資産と負債に重要な修正事項を考慮した後の純資産をもって株式価値を試算する方法です。

時価純資産法

時価純資産法とは、貸借対照表の資産及び負債を時価評価した後の純資産をもって株式価値を試算する方法です。修正簿価純資産法は重要な項目に絞って評価しているのに対して、時価純資産法はすべての資産と負債に対し時価評価します。

コストアプローチのメリットとデメリット

コストアプローチのメリット

・純資産がベースとなるため、理解しやすい
・再調達原価の観点から示唆を得ることができる
・個別資産・負債の分析を伴うため、資産内容の検証と関連性が高い

コストアプローチのデメリット

・のれんや帳簿に反映されない無形資産の価値を含まない評価手法であるため、評価対象企業の収益性や将来性が反映されない

インカムアプローチ

インカムアプローチ

インカムアプローチとは、将来期待される経済的な利益、キャッシュフローを想定されるリスクを反映した割引率により現在の価値に置き換えて、企業の価値を評価する方法です。代表的なものは次の3つです。

DCF法

DCF法のDCFはディスカウントキャッシュ・フローの略です。事業価値の源泉は評価対象会社・事業が将来創出するキャッシュ・フローにあるという理論に基づくものであり、将来期待されるFCF(フリー・キャッシュ・フロー)を、将来の不確実性を反映した割引率により現在価値に割り引くことで事業価値を試算するという評価手法です。

収益還元法

収益還元法は過去の決算の数値に基づいて、その業績が永久に続くと仮定して、一定の割引率で割り引き現在価値を企業価値として評価する方法です。事業計画がない場合などに持ち入れられますます。

配当還元法

配当還元法は将来の予想配当金に基づいて企業価値を評価する方法です。非上場企業では配当を恣意的に操作されやすいため、採用されケースは少ないです。
インカムアプローチのメリットとデメリット

インカムアプローチのメリット

・ファイナンス理論に基づくため、理論的
・キャッシュ・フロー予測を用いるため、会社固有の特性に基づく成長性等を反映することができる
・キャッシュ・フロー予測の分析を伴うため、事業内容の検証との連関性が高い

インカムアプローチのデメリット

・キャッシュ・フロー予測、割引率、継続成長率などに恣意性が介入しやすい
・評価モデルの作成には、専門的知識が必要であり、また、本質的な価値検証を行うためには、ある程度深度のある分析が必要

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マーケットアプローチ

マーケットアプローチ

マーケットアプローチとは、同業他社、類似業種などの株価を参考にして、企業価値を算出する方法です。株価の要素も盛り込んで計算するため、上場企業、上場を控えている企業などの企業価値を評価する場合に使用されています。代表的なものをいくつかあげましょう。

市場株価法

評価する対象が上場企業である場合に利用することができる方法です。算定基準は評価する企業の株式市場価格となります。株価は短期的に急騰・急降下する場合もありますが、株価暴落など外的な影響をできるだけ排除するために、一定期間の平均値を評価額とします。

類似会社比較法

評価する企業と類似する上場企業の株価をもとにして企業価値を評価する方法です。なお類似の基準は規模、成長性、収益性、業種などから判断されます。この場合は、評価対象の企業が上場していなくても、比較する企業が上場されていて、対象企業が近い将来に上場する予定である場合などに使用されることが一般的です。

類似取引比較法

評価する対象企業と類似するM&A取引をもとに企業価値を評価する方法です。類似取引比較方は、類似性の高い取引の選定が困難であるため、採用されるケースは少ない手法です。

マーケットアプローチのメリットとデメリット

マーケットアプローチのメリット

・市場取引価格や実際の取引事例に基づくため客観的
・手続きが比較的容易
・(M&A)市場の相場観を得るうえで有効

マーケットアプローチのデメリット

・上場株式の需給関係の偏りや風評などにより市場株価が本源的価値と乖離している場合がある
・類似企業や類似取引の選定に恣意性が介入する可能性がある
・評価対象企業の強みや弱みは反映されない

評価手法ごとのメリット、デメリットを概観しましたが、会社の事業ステージや状況に応じた評価手法を選択することで、適切な株価評価を実施できます。

アプローチ別よく使われる手法

アプローチ別よく使われる手法

3つのアプローチについて、それぞれ代表的なものをいくつか紹介しました。実際にはそれぞれのアプローチにおいて、主流となっているものがあります。それぞれのアプローチ別でよく使われている手法と、その理由を解説します。

コストアプローチ、修正簿価純資産法

コストアプローチでもっとも多く使用されているのが修正簿価純資産法です。貸借対照表に計上されている資産と負債の簿価による現在の企業評価と資産や負債の中の変動の多いものを時価評価によって、バランスよく企業評価することができます。ただし、企業の将来性などは考慮されていないので、M&Aの実務的には年倍法など将来を加味する手法と合わせて評価します。

インカムアプローチ、DCF法

インカムアプローチでは、対象会社の事業計画が入手可能である場合、使用される頻度が高い評価手法がDCF法です。企業の将来キャッシュ・フローから事業価値を評価する方法であり、継続企業を前提とした収益力に基づく事業価値の試算に適しています。

マーケットアプローチ、類似会社比較法

マーケットアプローチでは対象会社が非上場会社である場合でも、対象会社と類似すると想定される上場類似会社との比較による相対的な価値を評価する目的で、類似会社比較法が採用されやすい傾向があります。

非上場企業では、修正簿価純資産法、DCF法又はそれを組み合わせて評価することが一般的です。

ここまでは企業価値評価の方法を紹介しました。事業承継やM&Aでの会社売却を考えていて、自社の価値を知りたいけれど、計算が難しいので、簡易的に知りたいという場合は、弊社の無料診断をご利用ください。

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企業価値を高くする方法

企業価値を高くする方法

ここまで企業社の価値の評価方法について解説してきました。できるだけ高い企業価値評価を得て、自社を売りたいと考えている経営者もいるかもしれません。ここでは企業価値を上げるポイントをいくつか解説します。

収益性の向上

企業の収益性が向上すると、買収後の収益への期待が高まり、企業価値が向上します。収益性を高めるためには、売上高の増加、変動費や固定費の削減などがあります。M&Aを考えている時こそ、これらのポイントを見直して、収益性の向上を検討してください。

経営基盤の安定

経営基盤が安定していると、M&Aの際に高評価になる可能性があります。事業承継を考えている場合には経営基盤が安定することで、後継者が安心して引き継ぐことができます。債務の圧縮、個人保証や担保の軽減、不採算事業からの撤退など、後継者への負担を軽減することで、事業承継が円滑に進められる可能性があります。

投資効率の向上

投資効率の向上とは資産を有効に活用することであり、無駄な資産を持たないことです。具体的には、収益性の低い固定資産の売却、事業資産の効率化などがあげられるでしょう。

まとめ

まとめ

本記事では企業価値の評価について紹介しました。大きく分けると3つのアプローチがあり、それぞれメリットとデメリットがあります。複雑な計算や調査などがあるため自社の評価を知りたい場合には弊社の無料価値診断をご利用ください。

まずは会社の価値を知りましょう

企業評価には、様々な手法があり、その選択には専門的な判断が必要な場合が多くあります。信頼できる専門家に依頼することも一つの選択肢であると考えます

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関連記事はこちら「企業価値・株式価値・事業価値とは?M&Aで必須の基礎知識を初心者向けに解説」
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